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1月21日(火) 款冬華(ふきのはなさく) 初大師 旧暦12月27日
山茶花。 今日は寒い一日となった。 今季はじめてわたしは使い捨てカイロを背中の風門にはりつけて仕事をした。 詩人・小笠原眞さんの詩人論「続・詩人のポケット」の3校ゲラを読み始める。 インターネットで詩人や詩集の情報や画像などを確認しながら読みすすむ。 面白くて、ついつい読み込んでしまう。 ある詩人の論考のなかで「虚数」という語彙がでてくる。 さっそく広辞苑をひいてみた。 i(虚数単位)をi²=-1により定義し、これをも数と考え、bを実数とする時、実数bとiとの積biと実数aとの和a+biを複素数といい、実数でない複素数を虚数という。また、biの形の虚数を純虚数という。 ???? さらに訳がわからなくなった。 するとスタッフの緑さんが、実際には存在しない数で、二乗するとマイナスにならないけれど、それをマイナスと考える数のこと、ですよ、みたいなことをさらりと言うので、わたしは思わず緑さんの顔をほれぼれと見てしまった。 『標準国語辞典』では、「二乗した結果が負になる数。」と一行のみ。 この世の中には、「虚数」というものを理解できる人間と理解できな人間がいる、ということを思ったのである。 昨日20日付けの毎日新聞の新刊紹介で、坂内文應句集『天真』が採りあげられている。 第2句集。僧侶らしい対象の把握の仕方がかなり面白い一冊。 その上の蒼穹しんと曼珠沙華 袈裟を縫ふ把針(はしん)ゆるやか花の昼 雲中の菩薩の匂ひ桜餅 新刊紹介をしたい。 四六判ふらんす装グラシン、帯なし 172頁 四句組 著者の春原順子(すのはら・じゅんこ)さんは、昭和11年(1936)東京生まれ、現在は杉並区在住。昭和60年(1985)俳誌「未来図」入会、平成6年(1995)「未来図」同人、平成28年(2016)「未来図」退会、本句集はこれまでの作品を自選した第1句集である。収録作品はおよそ500句余、巻末にエッセイ3篇と特別作品として5つのテーマを立てた作品を収録している。本編は、新年、春、夏、秋、冬と四季別に編集して収録。 昭和六十年に俳誌「未来図」に入会、鍵和田秞子主宰の元で師の抒情豊かな作風に憧れましたが、高嶺の花でした。 還暦・古稀・喜寿と好きな山で自祝し、気がつけば八十歳に近く、年を重ねると共に詩情も薄れ、吟行にも出られず、平成二十八年には「未来図」を退会しました。 その間、俳句文学館の図書室での仕事をし、俳句という奥深い世界を垣間見ることが出来たことは幸いでした。ところが今年の春に三ヶ月の病院生活という、思いもかけないことが起り、つらつら考えるうちに、今まで詠みためた句が、日の目も見ずにボタン一つでパソコンから消えてしまうのかと思うと哀れになり、活字印刷にしようと一念発起しました。 「あとがき」の言葉であるが、句稿を持ってふらんす堂にいらした時に、春原さんは、「句集をつくる気持ちなんて全然無かったのよ。でも病気をして、ああ、これまで作った句がわたしがいなくなったら消えてしまうんだって思ったら、俄然句集をつくろうって思ったのね」と仰っていたのが印象的だった。 ほぼ、30年ちかく、俳誌「未来図」で鍵和田秞子主宰の元で俳句を続けてこられた春原順子さんである。 本集をつくるにあたっては、何度もふらんす堂に足を運んでくださり、担当の文己さんと綿密に打ち合わせをされていたのである。 啓蟄や言葉溢るる論語集 梅月夜遊び足らざる古稀なりし 風鈴や日本の一夜やはらかし 大樹一本まなかに残し牧閉ざす 押入れに体半分冬用意 担当の文己さんが好きな句である。 梅月夜遊び足らざる古稀なりし 「古稀」とは、70歳のことである。(わたしはどうも古希とか喜寿とか頭ン中に定着しない)「遊び足らざる」がいいではないですか。「梅月夜」の季語によってなんとも典雅な趣となった。いいですねえ、こんな風に年を採りたいと思うのですが。著者の充実した日々を思わせる一句である。 押入れに体半分冬用意 この句、面白い。冬支度にはどうしても押し入れが登場することになる。押し入れ、なんとも懐かしい言葉である。気取って言えば「クローゼット」か、いやいや厳密に言うとそうじゃないな、和室にあって唐紙のはってはる襖があって、布団や衣類やこもごものものを入れておく一畳ほどの空間、小さい頃は叱られると「押し入れ」に入れられたものだが、今の子どもは押し入れのない家もあるから、「押し入れ」の威力はもう消え失せつつあるかもしれないが、わたしなどは、「押し入れ」と聞くとあの暗い小宇宙を蔵した、ちょっとかび臭いようななつかしい匂いのある「押し入れ」が蘇ってくる。コワイところでもあり、慰めにみちたところでもある「押し入れ」。そんな奥深い場所であるから、季節は「冬」が似合うし「冬物」の厚ぼったいものをしまっておくにはいいところだ。そこに体を半分いれて、というのが面白い。大人になるとそう、押し入れには全部が入りきらない、ちょうど体半分がはいるくらいだ。「冬用意」って実際的にはこういうことよねっていう一句だ。 柏餅互ひに言葉つくろはず 気のおけない人と柏餅を食べているのだ。夫とか子どもとかではなく、あえて「言葉をつくろはず」と認識するということは、家族よりはもうちょっと距離がある関係か。しかし、かしこまる関係ではなく、気取らない友人関係くらいだとわたしは思った。「柏餅」が気取りのない関係を象徴している。柏餅を互いに食べながら、そういう関係であることをあらためていいなあと思っている作者である。ぽんぽんと威勢のいい言葉のやりとりがかわされているのだ。作者は江戸っ子でもある。 悪妻になり得ず朝顔咲かしをり 著者は「悪妻」に憧れているのだろうか。「悪妻となり朝顔咲かしをり」だったら居直っていてあっぱれで面白いと思うのだが、春原さんは、「朝顔」を前にしてやや微妙である。「悪妻」であることに居直ってしまったら、もうすこし生き安かったかもしれない、しかし、そうはなり得ない自身がいる、そんな自身の生き方に内省的になりながら、朝顔を育てている自分がいる。「夕顔」であったらもう少し陰鬱になるところであるが、「朝顔」なのでそんな気持ちも、どこかまあいいんじゃないのという開放感がある。 本集には巻末に「時雨」「モンゴル」「木喰微笑仏を訪ねて」と題したエッセイがある。担当の文己さんは、その中でとくに「モンゴル」が面白かったということだ。 春原順子さんは、モンゴルにいって遊牧民と一緒にゲルの中で生活をするという体験をされている。 遊牧民のゲルを訪問し、手作り菓子や馬乳酒をふるまわれ色々話をきいた。草原に点在するゲル間の連絡は、子の産まれた時は出入り口に旗を立て、死の時は天窓を閉め、訪問を(連絡方法が無いので突然来る)受けたくないときは入り口に柵をする等の決まりがあるとの事。しかし車の所有も、携帯電話の普及も時間の問題だと思う。 春原さんはたくさんの旅をして、そこで俳句を詠んでおられる。巻末の特別作品は、本編に組み込まずその都度のものを掲載した。「北京冬晴」「沙漠の砂」「みちのく」「トルコ」「サリーの裾」「林芙美子遺居」と題した作品群である。「みちのく」の作品について、俳人の和田耕三郎さんが鑑賞を寄せておられる。その鑑賞が巻末に収録されている。タイトルは「作者が生きている場所」 春の夢金貨ざくざく鋳にけり 甘くない大福母の日やり過ごす 「みちのく」から。写生の句より、掲句にみられるようなほろ苦い情の句にひかれた。思い切りのよさ、口語による気取りのなさが、かえって人生に対する作者の微妙なスタンスを表現していて面白い。(和田耕三郎) 校正者のみおさんは、「ママ嫌ひ叫ぶ子まつ赤夕焼す」「風邪の朝手足健気に動きけり」の句がとても好きです。ということである。 読みかえしてみると、どの句にもそれぞれの思い出があり、詠んだ場所、景色、同行の友等々が浮び、それは楽しい作業でした。やっと五百句程にまとめることが出来ました。(略) 尚、一応四季に分けましたが、連作のものや素材の同じものはなるべく纏めましたので、季節がずれているものもあります。世に問うための句集ではなく、あくまで私の生きた証しの片鱗ですので、あえてそのままにしてあります。 本句集の巻末には特別作品・エッセイも収めています。 「あとがき」をふたたび紹介した。 本句集の装幀は君嶋真理子さん。 「わたしははっきりした色が好きです」と最初から春原さんはおっしゃっていた。 臙脂色がテーマカラー、タイトルは金箔。 タイトル文字は、お孫さんの春原拳さん。 見返しは臙脂色。 扉。 カットは、お孫さんの春原螢さん。 新年と冬に。 ふたつの装画が挿入されているうちのひとつ。 こちらもお孫さんの春原海さん。 三人のお孫さんたちの心づくしの一冊となった。 私は日頃から友人を誘ったり、誘われたりして出掛けていました。「ちょっと吟行に行ってくる」と言っては出ていたので、夫は銀行にそんなに用事があるのかと不審に思っていたそうで、後で大笑いです。 題字・挿絵等は三人の孫がそれぞれ書いてくれました。(あとがき) あたたかなご家族に囲まれた春原順子さんである。 自分だけ知らぬことあり水つ洟 好きな一句である。やや強気な女性像がみえてくる。しかし、そういうもんよって、こだわりをみせないそんな健気さも思わせる一句だ。水っ洟がちょっぴり悲しくユーモラスだ。埒外に置かれちゃってさ、フンいいわよ、って陰で水っ洟をぬぐっているのかもしれない。 さばさばとしてはっきりとものをおっしゃるがあまり拘泥しない江戸っ子の春原順子さんのお顔が浮かんできた。
by fragie777
| 2020-01-21 19:41
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