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12月5日(木) 納めの水天宮 旧暦11月9日
今日も菊。 むかしはあまり菊は好きでなかったが、こんな風に咲いている菊には心が止まってしまう。 冬の寒さのなかで鮮やかに咲く菊が好きなのかも知れない。 仕事場に向かいながら、今日は三つのことをやろうって決めていた。 そんな風に決心しないとすぐほかのことに気をとられてそれを忘れてしまう。 だから、心の中でその三つの課題をなんべんか繰り返したのだった。 で、 三つのことは完璧にやりおおせた。 途中で忘れてしまいそうになったが、やはり反復したことが良かったのか思い出して、 果たせたのだった。 いったい、何を?って、 それは内緒よ、 言ったらおしまい。 さっ、ブログを書くか。。。 すでに少し紹介したが新刊紹介をしたい。 46判ソフトカバー装 280頁 俳人・波戸岡旭(はとおか・あきら)さんの自伝的エッセイ集である。 主宰誌「天頂」に連載中のものを「高校入学」までを一冊にまとめたもの。 波戸岡氏は、瀬戸内海の生口島という広島県に属する小さな島で生まれた。中学校までここで育った。 五人兄弟の末っ子、その多感な幼少期をいきいきと綴ったのが本書である。 家の事情のため、高校進学もあきらめていた旭少年が、高校に入学できその生活がいよいよはじまろうとしているところで本書は終わっている。 この後もきっと波瀾万丈の日々がつづくだろうということは、本書を読めば一目瞭然である。 先日、波戸岡氏よりお電話をいただいた。 「面白いですよね、エッセイ、夢中で読んでしまいました。あの後どうなるかドキドキです」と申し上げたところ、 「はははは、そうですか。あれでも自分を抑えて書いてるんです。」ということ。 先日の祝賀会でもおっしゃっていたが、ご自身自分がよくわからない、ハチャメチャなところがある、ということだが、その身体に抱え込んだ混沌のエネルギーがあのような面白いエッセイになるんじゃないかとわたしはひそかに思ったのだった。 本書の一部のみ抜粋して引用・紹介したい。 「祖母」の項で、おばあさんがいかに嫌な人物であったかや、祖父と祖母の出会いの箇所などすこぶる面白いのだが、ここでは、高校進学が決まった場面を紹介したい。 自分という人間はなにかもっと優れた能力をもって生まれてきたはずなのに、もっと優れていなくてはならないはずなのに、という自負心の炎は暗くくすぶりつづけるばかり。だが、それでいながら、これに応えられるものは我が身には何ひとつ見あたらなくて、ただ、悩ましく言い知れぬ屈辱に苛(さいな)まれ続けるしかないのであった。うぬぼれ得るべきものすらもたない自分は、ただただ抗いようのない世の中の強い流れの中に吞みこまれていくよりしかたがないのだろうか。「いや、それは嫌だ」と思う。だが、だからと言って、ほかの道が見つかるわけでもない。高校に行けたなら、なにかその先に自分の道が開けてくるはずなのだが、しかし、その道はガンと閉ざされてしまっている。 だれか私を高校に行かせてくれる人はいないだろうか。昔は書生というものがあって、小間使いをすれば学費を出してくれるということを何かの小説で読んで知っていたが、まさか現実の今の世にそんなことはありそうにもなかった。 (略) 正月の明けたある日、次兄から母宛に手紙が来た。それは、すぐ私を上神させよ、という内容であった。次兄は私と会って、直接、私に確かめたいことがあるから、というのである。母は「おそらく旭ちゃんのこれからのことだと思うけれど、ともかく行ってきなさい。行って武士兄さんとよく話して来(き)んさい」と言うのであった。なんのことだか、私は見当がつかず、狐につままれたような心地がしたが、悪い話ではなさそうであった。半信半疑ながら、私は勇んで船に乗り、尾道から山陽本線神戸行きの汽車に乗った。 尾道駅から山陽本線の急行列車に乗ったのは、およそ十一時頃だったように思う。神戸の三ノ宮駅には夕方の四時頃に着いた。姉の幸子がホームで出迎えてくれ、タクシーでそのまま姉の家に向かった。小さな平屋の借家であった。姉は三年前に遠戚の五歳年上の人と見合い結婚をしていた。姉は次の年の春先に男の子を初産したのだったが、その時、助産師の手違いから窒息死させるという不幸にみまわれ、一時は心神錯乱し、悲嘆し傷心にくれていたのだったが、間もなく気丈に立ち直っており、にこやかに私を迎えてくれた。私は兄弟の中でこの姉がいちばん好きであった。私の勉強ぶりをいつも我が事以上に喜んでくれ見守ってくれている姉であったのである。 日も傾いた五時半頃であったろうか。次兄である武士兄貴が港の仕事場から直接この姉の家にやってきた。この日、姉の夫君は不在であったが、おそらく我々の話し合いのために残業か何かして、帰宅を遅くしてくれていたのであろう。 私はそれまで胡坐でくつろいでいたのだが、兄が部屋に入って来たのですぐに正座をした。兄は窓辺を背にして座敷に座るやいなや、よく来たな、とのねぎらいもなく、いきなり強い口調で、「お前はほんとうに高校に行きたいんか」と聞いてきた。この兄は根はやさしくて思いやりのある人だったが、ふだんから口数が少なくてぶっきらぼうなところがあった。中学卒業と同時に島を出て兵庫県の家島諸島に船大工の修業に行かされ、年季明けの後にもいろいろ苦難があって、ちょうど二年前からこの神戸の小さな鉄工造船所で働いていた。この時、兄は二十二歳。私は十五歳であった。田舎の少年には、七つ年上の兄はことさら大きなおとなに見えた。 姉も兄のとなりにいてじっと私を見つめている。色白の姉の顔と仕事で日焼けした兄の顔。私はいきなりの兄の詰問口調に全身が硬直してしまったかと思うほど緊張した。口の中がからからになり喉もひりひりしてきたが、それでも、「うん、行きたい」と掠れるような声で返事をした。兄は睨みつけるように私の顔を見つめて、「ほんとうに勉強がしたいんか!」と重ねて聞いた。その時、兄がどういうつもりで私に尋ねているのか、また、兄は私の事をどう思っているのかなどと推し測ることすらできず、まったく前後の見境いもなく、答えることのみに必死だった。この事こそ、私がずっと望みに望んでいたことだったのだ。だから、「はい! したいです!」と今度は気持ちを込めて大きな声で答えた。すると兄は、「そうか、よし分かった。それじゃあお前を高校に行かせてやる!」とはっきり言い切った。正直に言えば、実は母から「神戸に行って武士兄さんに会ってきなさい」と言われた時から、私はこうなることを淡くではあるがひそかに期待していたのであった。だが、そうは言っても、やはり今の今まで半信半疑だったのである。ところが、兄のこのひと言によって、私は、「ああ、思いが叶うんだ」と分かって、いっぺんに目の前も頭の上もぱあーっと明るく軽やかになった感じを覚えた。その時の私は、膝に乗せていた両手を思わずぐうっと突っ張り、しばらく固まってしまっていた。 このあと「高校には進学しろ。だがしかし大学までは行かせてやれないから、それは諦めろ。いいか、高校を卒業したら大手の会社に入社しろ。そのためには、普通科よりも工業高校か商業高校を出た方が就職は良いらしいから、そのどちらかにしろ」とお兄さんは言うのであるが、ともかくも高校進学の道が開かれたのだった。 読者のわたしたちも、いったいどうなるのだろうかと、ドキドキしながら読んできて、ここに来てどっと安心するのである。このエッセイの面白いところは、作者の目線がいつの間にか自分の目線となっていて、作者とともに喜んだり悲しんだり、すっかりその少年になってしまうところだ。優しかった上のお姉さんが20代で死んでしまうときなどそのあまりの理不尽さんに作者とともに嘆き悲しむ。 ああ、波戸岡少年は高校へ行って、この先どんなことが待ち構えているのだろうか、、、そんな思いを読者の心に残して本著は終わってしまうのである。 本書の装幀は和兎さん。 波戸岡氏自らが書かれた題字をタイトルに使って欲しいということであった。 ぎっちりと書かれた本文であるが、読み始めると一気に読んでしまう。 筆力があるのである。 エッセイの最初の部分は、くだもののタイトルではじまる。「桑の実」「唐柿(無花果)」「富有柿」「温洲みかん」「木いちご」など、どれも島で採れる果物で、波戸岡旭さんの大好物である。温暖で豊かな自然が見えてくる。しかし、果物にまつわる思い出は悲喜こもごもである。 今日はひさしぶりのお客さまがあった。 画家の森信夫さん。 昨年の11月に亡くなった弟さんである森雄治さんの詩集『蒼い陰画』を上梓された方である。 今日はその弟さんの詩集以後の29歳までの作品(小説を中心に短歌、俳句)を持ってこられて、作品集のご相談にみえられたのだった。詩集『蒼い陰画』は17歳から20歳までのものを収めたものであり、刊行後その詩作品の素晴らしさが詩壇でも話題となった。 詩集『蒼い陰画』 「弟は本当は小説家になりたかったのです。」と森信夫さん。 31歳で亡くなるまでに書き残したものは膨大にあるようだ。 そこより森信夫さんが選んで編集し、短歌と俳句もすこし加えて作品集としたいということ。 造本などについて、見本の本を見ながら決められたのだった。 入稿は来年1月、ご本人の個展に合わせて刊行したいということであった。 森信夫さん。 ふらんす堂の舞台裏での撮影。 というのは、森さんの向かって右横の額装された作品は、森さんの作品である。 詩集『蒼い陰画』の豪華本を買うとこの作品がついてくる。 それを額装してここに飾っているので、今日はここで記念撮影。 久しぶりにお見えになった森信夫さんは、いろんなお話をしてお帰りになったのだった。 お住まいは愛媛県の今治である。
by fragie777
| 2019-12-05 19:20
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