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11月2日(土) 旧暦10月6日
菊の季節である。 里山の自然をあるくと、はっとするほど美しい菊にたちどまる。 たくさんの虫が群がっていた。 俳人の神野紗希さんの著書『女の俳句』が出来上がってくる。 ふらんす堂通信に6年間にわたって連載したものを一冊にまとめたものである。 女が俳句にどう詠まれてきたか、 わたしたちは本書を通してさまざまな女に出会う。 男が詠む女、女が詠む女、いろんな女がひしめいている。 女とはなんと計り知れない生きものであることよ。と女のわたしもため息がでるほど多彩にして深遠なる女たちが登場する。 著者の神野紗希さんは、女を詠む人間の意識の底に、あるいは詠まれた女なるものに、21世紀の初めに30代を生きる女としての意識の光をあててみる。 「ふらんす堂通信162号」の「編集室より」にわたしは、この本の紹介として、「実は本著をとおして人間はいかに「女らしさ」「男らしさ」という概念にがんじがらめになっているか、そんな意識を浮き彫りにして行こうというのだ。「らしさ」からの自由を手にいれて俳句をもう一度読み直して行こうという意欲的な試みである」と書き、この本の帯の裏にもそう書かれている。が、本著の面白さはさらにそういうわたしたち編集者や著者の思いを超えて、ここに登場する「女」を詠んだ俳句の面白さなのではないか、と実は思っている。 つまり、先ほども書いたようにこれほどの複雑にして多面的にして計り知れない女たちがずらりと登場する本ってないんじゃないか。 (まるで女の標本だ、なんて言ったらいけないかしら) 一句に詠まれた女たちが、生き生きと呼吸して立ち上がってくるようだ。 そして詠んだ作者と女との関係(距離感など)をあれこれ推測するのもおもしろい。 たとえば、 「水着」の章。すこし抜粋すると、 水着まだ濡らさずにゐる人の妻 鷹羽狩行 いまや水着水を辞せざる乙女跳ぶ 中村草田男 水着きてをんな胸よりたちあがる 津川絵理子 すれちがふ水着少女に樹の匂ひ 加藤楸邨 紙袋より絢爛の水着出す 藤田湘子 たやすくは二十歳の水着選ばれず 辻 美奈子 火の色の水着を見せる約束も 櫂 未知子 水着にてふつと再婚告げらるる 石 寒太 無思想の肉が水着をはみ出せる 長谷川 櫂 水着なんだか下着なんだか平和なんだか 加藤静夫 われを視るプールの縁に顎のせて 榮 猿丸 何句か紹介してみると、圧倒的に男性俳人が女の水着を詠んでいるのが多い。一句といえども背後にドラマがあってすこぶる面白い。また女性観のようなものも透けてみえて、ちょっと笑える。 本書は、楽しい一冊である。女なるものをあれこれと思いながら、21世紀をさらに輝かしく生きる女たちを思うのもいい。 今日マチ子さんの装画とイラスト、そして本書のために書き下ろした神野紗希さんの俳句が、瑞々しい。 本書とともに神野紗希さんの新刊がもう一冊日本経済新聞社から刊行となった。 『もう泣かない電気毛布は裏切らない』 定価1700円+税 神野さんがこれまでにいろいろなところに書いてきたエッセイを一冊にまとめたものである。 俳人・神野紗希の日常との戦いの様子など、瑞々しいエッセイである。 「寂しいと言って」から一部のみ紹介したい。 人は誰しも、それを見つけるとつい、立ち止まって見つめてしまうものがある。私にとって、それが蔦だ。(略) 絡みつく相手がいないと生きられないのに、ひとたび抱きしめたらその相手を覆い尽くしてしまう。(略)蔦は飽くなき寂しさの権化だ。そんな蔦に、こんなに心惹かれて立ち止まってしまう私も、不器用でエゴイスティックな、蔦的人間なのかもしれない。 寂しいと言い私を蔦にせよ 紗希 この句を詠んだとき、わたしは十七歳の高校生で、恋をひとつ失って、とても寂しかった。片思いの彼が、別の同級生とカップルになってしまったのだ。恋敵は野球部のマネージャーで、子犬のように可愛い、人懐っこい女の子だった。一方、私といえば、蔦。こりゃ勝てるわけがない。当時の句帳をめくると、初案は「蝶にせよ」。その下に、蔦に直した跡がある。 蝶よりも蔦になりたいと願った私は、その後、上京して今の夫と出会い、十年かけて夫婦となった。夫は口が裂けても寂しいとは言わない。だから私は今でも蔦にならず、人間のままだ。買い物袋を提げ、家へと帰る石段に、蔦の葉がさわさわと揺れる。蔦よ、お前はそれで満足かい。 恋の代わりに一句を得たあのときから、私は俳句という蔦に絡めとられて、私自身を吸わせて続けている。俳句に覆い尽くされ私が見えなくなるその日まで、寂しい、寂しいと言って、私は詠み続けるのだろう。 神野紗希さんの代表句でもあるこの「蔦」の句をめぐるエッセイを興味深く読んだ。 来る8日の梅田蔦屋書店における、 にて、上記の二冊は、小川軽舟句集『朝晩』とともに販売される予定である。 句集『朝晩』の在庫が残りすくなくなってきましたので、まだお手にしてない方はこの際是非にご購入ください。 どんなトーイベントになるか、とても興味がある。 ふらんす堂からはスタッフのPさんがまいります。 レポートしたものは、「ふらんす堂通信」誌上にて掲載の予定です。 お楽しみに。
by fragie777
| 2019-11-02 18:35
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