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10月15日(火) 旧暦9月17日
この「紫苑」は、今日紹介する詩人・宮せつ湖さんにささげたい。 にじみだす 伝えたかった想い いつか消えてしまわぬように 水辺の花屋に紫苑の花のひと鉢を買った (宮せつ湖詩集『雨が降りそう』「追憶」より) 新聞の記事を紹介したい。 昨日の毎日新聞の「新刊」紹介に、宿谷晃弘句集『野菊』、伊藤敬子著『杉田久女の百句』が取りあげられている。 葉牡丹の渦の白さの押合へり サングラス坐して手負ひの獣めき 二人して選ぶ指輪や麦の秋 伊藤敬子著『杉田久女の百句』鑑賞書。〈花衣ぬぐや纏る紐いろ〳〵〉などで知られる久女の百句につき、句の背景などをていねいに記している。久女と著者の縁についての巻末の解説も面白い。 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装 帯あり 96頁 宮せつ湖(みや・せつこ)さんの第1詩集である。宮せつ湖さんは、福島県郡山市に生まれ、現在は滋賀県大津市にお住まいである。詩誌「アリゼ」「沙羅」同人、短歌結社「塔」会員。本詩集に詩人の以倉紘平氏が帯文を寄せている。 詩人にとって詩は日本語そのものに隠されている。 作者は、やすらかで、やさしく、繊細極まりない日本語の名手と思う。 雨が降りそう、 雨が降りそう。 列島に生活する人の自然な呼吸そのものが歌になったような詩集である。 このような詩が、野の花のように、ひっそりと美しく。現代の日本に存在することを私は寿ぐ。 以倉紘平 「野の花のように、ひっそりと美しく」と書かれているが、わたしはこの野の花はきっと薄絹のような水のベールをまとっているのではないか、と思った。 宮さんの詩は濡れているのだ。 美しくひそやかで冷たくあたたかく濡れている。本詩集を読みながら、そう思っていた。 本誌集の担当はPさん。 Pさんが好きな詩を紹介したい。 夏のほとり 夕暮れてゆく 夏のほとり うす布にかくれていた蛍が 手招きする いくども いくども ゆわっと浮いて ついてゆけたら よかったのに 足にからんだ夏草を ひきちぎってでも ついてゆけたら よかったのに いつのまにか 火を抱えたまま消えてしまった 蛍 杜の方から 笛の音が ほそく ながく きこえてくる 明日は 夏祭りかもしれない もう一篇紹介したい。 雨の秋 そうでした 雲の蛇口をあけたまま 飛んでいった鳥のことを かんがえていました 雨の秋です 里はずれの濡れたほおずきをおもいます おれんじいろの豆球のようなほおずきの実をおもいます 「ややこを流すのに食った時代もあったんだぁ」 忘れかけた祖母の声が聞こえてきます 秋の雨 きのう 雨の窓に顔をおしつけ 庭の繁みのひとところを視つづけている 少年をみました 秋の雨 少年は 知っていたとおもいます 雲の蛇口を締め忘れた鳥が 自分に似ていることを 雨の秋です 著者の宮せつ湖さんは、琵琶湖のほとりにお住まいである。だからであるのか、その作品が水韻を湛えているのは。 つねに水が作者の傍らにはある。 郷里は福島県郡山。お母さまがご健在である。 郷里を詠んだ作品も多く収録されている。 一篇紹介したい。(これもPさんが好きなもの) しろがねの葱 ひげ根に磐梯山の土をつけたまま おおきな段ボール箱に じっとうずくまり 初冬の風に乗って 我が家に着いた君は 箱から顔を出すなり ホントニイイノと言う ホウシャセン リョウワハカッテキタケドホントニホントニイイノと言う 君のために裏の狭庭を掘って待っていたよ この冬もいつもの冬と同じく毎日君と過ごすよ 君のしろがね色はふる里の誇りだよ 君を寝かせながら みみずがねじれる土を被せながら 私は 言った 土から毎日君を出して そのしろがね色の肌を丁寧に洗い 太くて甘くてなめらかな舌触りを楽しみ それをこの冬の幸 いとして私は過ごした 君を育てたひとに感謝しながら 春風の吹くころ君はいなくなるだろう そうなる前に葱坊 主になってしまった最後の君を 湿らせた紙にくるんで 君 の生まれた磐梯山の麓へ行こう 畑の土に寝ころんで 土の 匂いを共に嗅ごう 君は福島の証しだと何度もなんどでも空 に叫ぼう そうして私はいつか 磐梯山の雪解け水になり 葱坊主で縫い取られた麓を しずかにたっぷり濡らすことを ゆめみよう 私が並外れた雨女というのがあったのかもしれません。 日本という雨匂う風土に生まれたからかもしれません。 深い想い出が雨につながるものばかりだからかもしれません。 タイトルは種種迷いましたが「雨が降りそう」に決めました。 私の初めての詩集です。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本詩集の装丁は、和兎さん。 濡れてみえるような用紙を用いて、パール箔をところどころに効果的につかった。 表紙もカバーと同じ用紙をつかう。 見返しは優しい青。 扉は透きとおる用紙に青インクで印刷。 本詩集をつらぬく透明感を演出。 宋朝体の文字が繊細におかれ、以倉紘平氏の「やすらかで、やさしく、繊細極まりない」という帯の言葉に響きあっている。 もう一篇、詩を紹介したい。 この詩は、校正者のみおさんが好きだという詩である。 そのとおり そのとおり 雷鳴ののちに 雨はふった 濡れた電車は 山あいを走り 続けた 栗の木が濡れている わたしは遠い日の真夏に嗅いだ 花栗の 息詰まる匂いを思った そのとおり 座席にすわり 車窓を見てさえいれば 線路に思いを残し ながらも 時は前に刻まれ 着きたい場所へ着けただろう でもどうしても 夕ぐれのくずおれる町がみたくなり ひとつ前の駅で 降りた ポリバケツのふちにゴム手袋と雑巾が干してある小さな駅 すこし歩いた 道を横切る二匹の三毛猫が同時にふり向く 初冬の細草 がそこここに揺れ 思ったとおり そのとおりのほの暗さで崩れてゆく 夕ぐれに出会えた 誰かのたぶん弟のやわらかな心音が重なる町だった わたしもたくさん好きな詩作品があったが、ここではあえて詩行のみ紹介したい。 「秋語り」と題した詩の最後の5行である。 ことさらに美しい詩行だと思った。 夕ぐれが 秋を白くこぼしながら 無人駅を過ぎてゆく 水絵のような 無人駅を 今日は突然にお客さまがいらっしゃった。 約束をいただいてなかったので私たちは大慌て。 お客さまはにこにこしていらっしゃる。 しかも担当の文己さんは別のお客さまの相手をしている。 お相手をしているお客さまは春原順子さん。 句集の校正のことでご相談にみえられたのだ。 というわけで、お客さまの部屋はふさがっているので、とりあえず突然のお客さまをわたしたちの仕事場の一角にお招き(?)したのだった。 文己さんに変わってPさんが対応。 お客さまは、河内文雄(こうち・ふみお)さん。 俳誌「銀化」に所属しておられ、この度句集を上梓される予定である。 すでに中原道夫主宰よりご紹介をいただいていた。 「約束も無く突然にすみません」とにっこりされていて、雑然としたわたしたちの仕事場の一角でも楽しそうである。 Pさんがいろいろと説明をする内に、春原順子さんはお帰りになられた。 では、どうぞあちらへと、申し上げると、 「もうすっかりこちらが居心地がいいですねえ」と仰有りながら移動をされたのだった。 そして改めて文己さんがご説明。 河内文雄さん。 お医者さまである。 いろいろと打ち合わせをされて千葉県の稲毛区までお帰りになられたのだった。 わたしはこれから中原道夫主宰に、「今日ご来社いただきました」とファックスをするつもり。
by fragie777
| 2019-10-15 19:21
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