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10月11日(金) 旧暦9月13日
コピーをとっていると窓から、「レストランなかむら」の屋根を越えて「なかや手芸店」の白い建物がみえる。 三階部分は居住空間になっているらしく、猫がこっちを見ている。 パートのSさんがはじめに気がついた。 「猫がこっちを見てます! すごくかわいい」というのでみんなでどっと窓に集まった。 「ほんとだ!」「あれ、本物じゃないわよ」「ホント、置物みたい」と口々に言うと、 「いいえ、本物です。さっき動きました」とSさん。 しばらく見ていると確かに動いた。 でも置物っぽいでしょ。 ずっとこっちを見ている。 メルヘンの国からこっちをみているみたい、である。 「台風って東京に来るのかな?」って言ったら、 「何を言っているのですか。直撃ですよ!」 「ひゃあ、そうなの」 「電気もとまるかもしれませんよ、対策しました?」 (全然なにもしてない。。。) ということで、さっき近くの島忠に言って懐中電灯と電池、猫のご飯、パン屋のアンデルセンでシナモンパン、(おおかた売り尽くされていた)、クィーンズ伊勢丹でバナナとトマトジュースを買った。 これで電気が止まったとしても2日は持つだろう。 わたし以外のスタッフ達はやって来る台風に備えて、もっともっと万全の用意をしているらしい。 わたしはこういうことにことさら暢気というか鈍感で、きっとあとで痛い思いをすることになる。 新刊紹介をしたい。 四六判ペーパーバックスタイル帯あり。 96頁 著者の井下和夫(いのした・かずお)さんは、1935年島根県生まれ、現在は島根県益田市在住。今年84歳になられる。本誌集は三冊目にあたり、詩集『地球の時間』(2002年刊)、詩集『海山の間』(2008年刊)につぐ第3詩集となる。井下さんは、長い間、県立高校の先生をなさっていた方である。本集には30篇の詩が収録されている。詩誌「石見詩人」同人。 本集の担当はPさん。 Pさんの好きな詩を紹介したい。 真夜中の林檎 台所のスウィッチを押すと 食卓の上に林檎が点る 器物の反射光と異なり 林檎の肌はしっとり光に濡れている 果樹園で過ごした記憶だ 林檎は長い間枝からぶら下がり 地球の方へ引っ張られていたので 基本的に尻すぼみの形だ しかし 形にせよ 色にせよ 個性はある 存在を描いたセザンヌは 球体にまとめて 転がりそうな林檎を描いた が真夜中の食卓の林檎に 転がりそうな気配はない 食卓の上にしっかり尻を据え 林檎は生き生きと存在を主張する そして 光の汗を流しながら 渾身の力で 地球を引っ張っている 今回詩集をおつくりしてとても喜んでいただけた。 「前回までの詩集は人に勧められて出したけど、 今回は自発的におまとめになられたそうです。」と井下さんが言っておられたそうである。 これから紹介する詩は、わたしの好きな詩。 村の生き物たち 蝉 幹を飛び立つ瞬間に 狙いを外した少年の手 にシッコをかけた 燕 九月の朝の電線 にずらりと並び 総点呼を受ける 二三日経つと 村中に 一羽の燕もいなくなった 牛 田に入り鋤を曳く時以外は どこにいても 大き過ぎる図体 せきれい 丸い石を尻尾で叩きながら 石の河原を 何故走る 鼠 夜中に天井裏を走る足音も 米びつをかじる音も すべてが小さい 烏 夕暮れて 西の山の端に群れて啼き 若い母を淋しがらせた 本詩集の装丁は前詩集と同じく君嶋真理子さん。 扉。 出来上がりをとても喜んでくださった井下和夫さんである。 もう一篇、作品を紹介したい。 井下さんが生きて来られた時代の風景が蘇る。 廃線が決まる 辛うじて繋がっていた一本の細い糸が 鋏で切られた 大河の中流の生まれた村へ行く 鉄道の支線の廃線が決まった 河口から大河に沿って遡り 汽車が村までやって来たのは 戦争が激しくなった頃で 工事はそこで止まり 村の駅は支線の終着駅になった 客車と貨車の混合列車を 蒸気機関車が引っ張り 乗客と木材 時に出征兵士を 村から運び出した そして新聞と郵便物を 毎日村にもたらした 町の高校に通学した頃の 朝の列車は満員だった 引揚げの人や疎開の人が多かった 卒業後も線路は続き 支線から本線の夜行列車に乗り換えた 求めるものの解らぬままに 求める気持だけだった 戦後復興のダム工事が終わると 思い出したように工事が再開され 村の駅は終着駅の地位から落ちた 駅前で暮らしていた両親は 下り列車の開通を喜んだけれど その頃人々は自動車に乗り始めた 戦中から戦後にかけて 大量の木材と人が運び出された 縁戚の者も大方が去り 親たちの墓も運び出した 運び終えて鉄道は消えても 大河は何事も無かったように 山を縫って流れ続けるだろう スタッフ達はそわそわし出した。 もっぱら台風の話題である。 それぞれが、ガスコンロを用意したとか、身体ふくぬれタオルを用意したとか、硝子に貼るテープを用意したとか、つまりは非常事態になったときのことをちゃんと考えいるのだ。 「すごいね、いつから用意していたの?」と聞けば、 「台風状況を聞きながらすでに昨日からですよ」という。 恥ずかしい話だが、わたし、ホントに何にも考えてなかった。 危機意識が希薄すぎる。 台風がさったあと、道ばたにバナナを皮をにぎって倒れているグシャグシャの女がいたら それは、yamaokaかもしれない。
by fragie777
| 2019-10-11 17:11
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