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9月26日(木) 彼岸明け 旧暦8月28日
![]() くこ(枸杞)の花。 まもなく実をつける。 小さな花であるが、この紫色がいい。 わが家の屋根は、実はまだ修理されておらず明日いよいよ足場を組んで修理に入ることになった。 やっと、、、である。 幸せなのか不幸せなのか、よくわからないけどそのことがわたしのストレスにはならなかったことだけは言える。 大雨が降らなかったという幸運もあるが。 明日は、屋根の修理と自宅のパソコンの機種変更がありキャノンさんが家にもやってくるので仕事場へ顔を出すのは午後になってしまうかもしれない。 気持ちがちょっと落ち着かない。 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバークータ-バインディング装帯有り 200頁 二句組 著者の伊藤宇太子(いとう・うたこ)さんは、昭和16年(1941)年東京生まれ、現在は東京・狛江市在住。昭和57年(1982)「濱」入会、昭和63年(1988)「狩」入会、平成8年(1996)「狩」同人、平成11年、平成16年と二度にわたって「狩」評論賞を受賞されている。平成31年(2019)「狩」終刊にともない、「香雨」入会。平成15年(2003)から27年(2015)までNHK学園講師をつとめられる。現在「香雨」同人、俳人協会会員。本句集は、平成元年(1989)から平成30年(2018)までの30年間の作品340句を収録した第1句集である。序句を鷹羽狩行名誉主宰が、帯文を片山由美子主宰が、跋文を句友の鶴岡加苗さんが寄せている。 角巻をまとへば若き日に戻り 狩行 句集名となった「角巻にかくすつもりはなき齢」への挨拶句となっている。 「角巻」とは、「大形で四角い、毛布の肩掛。女性用。東北地方でいう」と広辞苑にある。東北地方の言葉らしいが、関東のわたしの母なども言っていたと思う。しかし、いまはほとんど聞かないが、なつかしい響きがある。 片山由美子主宰の帯文を紹介したい。 北国を訪ふ白靴を下ろしけり 郭公や夫の作る朝ごはん 夏帯や子に祝はるる誕生日 著者は都会的センスに溢れた知と情の人である。家族の肖像ともいうべき本句集の作品を読んでいると、いつもその中心に著者の笑顔があることを確信する。常に前向きで希望に満ちた宇太子さんの俳句は、読む人を励ましてくれるに違いない。 跋文を書かれた鶴岡加苗さんは、著者の伊藤宇太子さんとは親しい間柄のご様子だ。今回本句集の選句もされている。鶴岡さんは、伊藤宇太子さんの俳句の本質を「好奇心」と「取材力」に見る。とくにそのことがつよく発揮されたのが、「雪のくらし」と題された北海道の作品であろう、と語る。あげられたなかからいくつかを紹介すると、 降り積みて雪のくらしの定まりぬ 雪解けて濁世あらはとなりしかな 流氷に鴇色広げ日の昇る 落日の行きどころなく流氷原 道問へば顎で応へ昆布引く 鶴岡加苗さんは、本句集を「今回、この句集を編むにあたって、「狩」入会以前の句は潔く捨て、生涯の師と仰ぐ狩行先生の選に入った句のみでまとめられた。それはちょうど、平成の三十年間と重なり、ゆえに、一人の女性の平成三十年史ともいうべき貴重な一冊になったことは大きな意味があると思う。一人の女性の平成三十年史ともいうべき貴重な一冊になったことは大きな意味があると思う。」と記す。 そして、 打水やむかしはありし不意の客 狩行先生は、「俳句は過去をも映し出すカメラである」と仰っているが、掲句も平成から昭和を振り返ることによって生まれた「打水」の作品として忘れがたい。懐かしむだけではなく、しっかりと現代を照射している。 本句集の担当はスタッフのPさんである。 Pさんの好きな句は 天に声揚げて泰山木ひらく 手に残る銀器のにほひ走り梅雨水音のして川はまだ雪の中 雪を割る雪を割るほかは考へず 曇天の重さを加へ八重桜 紫の花増え母の日と思ふ 水漬きたるところふくらみ柳の芽 水音のして川はまだ雪の中 これって冬もおわりにちかく雪解けがはじまったけど、雪国ではまだまだ川の姿を見ることはできない景である。見えている風景は雪景色であってもすでに大地はゆるみはじめ、雪に覆われた川からはたしかに水音が聞こえてくる。春はやってきつつある。「水音のして」とまず聴覚をよびさまし、それから視覚によって眼前の景色をみちびきだす。すっきりとした叙法で多くを語らず、早春の雪国の景をとらえた。 雪を割る雪を割るほかは考へず 面白い一句だと思う。これも雪国くらしの時に詠まれたものだと思う。だって、およそわたしは雪を前にしてこんなことを考えたことがない。「雪を割る」っていうことは、すでにかちかちに氷りついた「雪」なんだと思う、それを割らなくてはいけないのだ。たぶんそうしないことには生活に支障をきたしてしまう。だから一心不乱にもう髪を振り乱して割っている。こういう一句ができることも雪という大自然が人間に課したものゆえである。雪は人間が戦うものでもあるのだ。 本好きの子も来て作る雪だるま やはり「雪」に関係する一句。わたしはこの句が好き。雪だるまをつくっている。こどもたちも大人もいてそのなかにきっと作者の伊藤宇太子さんもおられたのだと思う。みんなであれこれとおしゃべりしているうちにある子が雪だるまに関する(あるいはそうでないかも、兎やキツネのことかも)物語のことなどをそれとなく話しだした。伊藤宇太子さんも本を読むことがきっと大好きな人だと思う。「あら、あなた、その話好き? わたしも好きよ」なんて言って思わずその子の顔をみて、ちょっと嬉しくなって話がはずんでしまう。雪だるまはこんな風にいろんな子どもの手によってつくられていく、もちろん本嫌いの子だって雪だるまは大歓迎だけど。。。 子の幸をわが幸とせむ更衣 この一句、カッコいいお母さんだなあって、思った。「子の幸をわが幸とせむ」という措辞は、ちょっと嫌味になるような芝居がかった言葉であるが、「更衣」の季語によってとてもさっぱりとした、そして本気でそう思っているお母さん像が立ち上がった。なかなか言えないよね、こんな言葉、だけど、この句はカッコいいなあ。 『角巻』は私のはじめての句集です。平成元年(一九八九年)から同三十年までの一六○○句余の中から三四〇句を収めました。(略) 私はこれまで、東京を中心に、夫の転勤に伴い関西、英国ロンドン、札幌などに暮らして参りました。中でも、狩行先生が「季語の宝庫」と評された北海道での五年間は(二〇〇〇年~二〇〇四年)貴重な体験となりました。雄大な景色、北国ならではの四季の移ろいは、句作に勤しむ格別のモチベーションとなったのです。 句集のタイトルは、その札幌で還暦を迎えての拙句「角巻にかくすつもりはなき齢」からとりました。NHK俳句王国大賞を頂いた句です。 「あとがき」を抜粋して紹介した。 本句集の装幀は、君嶋真理子さん。 紺色がお好き、そして「絣模様」もお好きという伊藤宇太子さんである。 用紙も紬風なものを。 クータ-の色はアーモンド色。 テーマの紺とは補色関係でアクセントになっている。 カバーをとった表紙。 見返しは温かみのある青。 扉。 紺に金箔の文字が綺麗である。 著者のお人柄のように切れがあり爽やかに。 「狩」が「香雨」へと引き継がれ、五月には改元の行われた節目の年に、第一句集を出版されることは決して偶然ではないだろう。心よりお祝いを申し上げたい。そして、これから令和の時代に、宇太子さんがどんな俳句を詠んでゆかれるか楽しみでならない。 「跋文」で鶴岡加苗さんはこう結ばれている。 春ショール畳めば文庫本ほどに わたしの好きな一句である。 春ショールってふわっとして軽いもの。「畳めば文庫本ほどに」思ったことなかったけれど、確かに畳んでしまったら文庫本ほどの小ささになってしまうかも。一句に配された「文庫本」に、伊藤宇太子さんの知的な暮らしぶりが推し量られるというもの。そして、わたしは春ショールをこんな風に畳んだことがない。たいていふわっとそのへんに投げかけておくか、あるいは手でこうしてクシャクシャとまるめでしまうか、どっちか。この畳むという仕草に伊藤宇太子さんの律儀さ、几帳面さが見え隠れして、それも素敵だと思うのである。きりっとして知的で開かれた心をもった女性なんだって句を拝読して思った次第である。
by fragie777
| 2019-09-26 19:21
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