ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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黄槿の放つ光に。。。

9月6日(金)   旧暦8月8日


黄槿の放つ光に。。。_f0071480_18115180.jpg

国立・矢川湿原に咲いていた露草。


黄槿の放つ光に。。。_f0071480_18115567.jpg

この露草の青は、今日紹介する新刊句集の青とも響き合っている。

また、午前中に句集制作をおすすめしている佐藤海さんがご来社くださったのであるが、どんな色をご希望ですかと、担当の文己さんが伺ったところ、「露草の青です」とおっしゃった。
「露草の青」は、自然界が生み出した人間を魅了する青である。





とうとうクーラーが直った。
良かった。
スタッフもわたしもホッとしている。
夕方になってやっと修理がおわったのであるが、それまでわたしたちは冷えピタを身体に貼って仕事をしていた。
パートのAさんが、わたしたちに持ってきてくれたのだった。
これが案外いいのである。
わたしは最初おでこに貼って仕事をし、お客さまがあったので首のうしろに貼り直した。
いまもじつは貼っている。

しかし、笑える。
スタッフ一同が冷えピタを貼って仕事をしているなんて。。。。







新刊紹介をしたい。


上野山明子句集『黄槿』(はまぼう)


黄槿の放つ光に。。。_f0071480_18340012.jpg


四六判ハードカバー装 214頁 二句組


著者の上野山明子(うえのやま・あきこ)さんは、1955年(昭和30)和歌山県新宮市生まれ、現在は三重南牟婁郡在住。1994年(平成6)第1詩集『蓬色の風』刊行、1997年(平成9)「熊野大学」俳句部入部、1998年(平成10)「運河」入会、2005年(平成17年)「運河」同人。俳人協会会員、大阪俳人クラブ会員。本句集は平成10年(1998)から平成30年(2018)までの20年間の作品を収録した第1句集である。序文は茨木和生主宰。
句集名となった「黄槿(はまぼう)」について、茨木主宰はまずこのように書く。

句集名となった黄槿の花はアオイ科の落葉低木で海浜に群生して、木槿に似た、底紅の美しい花を一日だけ咲かせる。じつはこの黄槿の花、知られていないが海辺だけでなく、私の家の庭でも育ったし、いま私の前の家の庭でも花を咲かせている。

「黄槿」を「はまぼう」とはなかなか読めない。わたしはいまネット検索をして「黄槿」の花を調べてみた。鮮やかな黄色の花であり、海の色や空の色にきっとよく映えると思う。


 明日咲く莟ぎつしり黄槿は

句集名となった黄槿の句、黄槿は一日花だけに必死に咲き切ろうとする。しかし、この句では花は咲いていない。おそらく夕方の詠に違いない。花の萎んでしまった黄槿の木を見ると、明日に花を咲かす蕾がぎっしりと枝についている。黄槿の花蕾に語り掛けている姿までも見えてくる。(略)
上野山明子さんの第一句集『黄槿』は棲んでいる地と密着した句に溢れている。これからが期待できる所以である。


茨木主宰は、たくさんの句を紹介して丁寧に鑑賞されているが、ここでは一部を抜粋して紹介した。

本句集の担当は文己さん。

 春着の子誉むれば母を呼びにゆく
 春の夜の子の音読を聴いてをり
 破れたる障子貼らねば歌はねば
 百度目になら夏蝶に生まれたし
 水槽を分校と言ひ目高飼ふ


 百度目になら夏蝶に生まれたし

「百度目」か。。。
これはどういうことなのであろうか。九十九回生まれて変わってその次ぎということであれば、夏蝶のまえに生まれ変わりたいものが九十九もあるということで、言ってみれば夏蝶になど生まれ変わりたくはない、ということか。夏蝶への作者の微妙な思いが含まれているようでもあるが、あるいは何度もの輪廻転生をくりかえし、いよいよ百度目となったその時こそ、夏蝶へと生まれ変わるのだという夏蝶へのただならぬ思いを潜めているのだろうか。この一句、夏蝶なるものが大いなる存在として迫ってくる不思議さがある一句である。

 黄水仙素直な妻と言へぬとき

この一句にはおもわず立ち止まってしまった。「黄水仙」は春の季語である。冬の季語である「水仙」が毅然として清楚なのにくらべて「黄水仙」は、もうすこし派手で香りも強い。引きを感じさせる「水仙」と前へ主張する黄水仙。しかしどちらの水仙にも媚態はない。「素直な妻ではない」状態にぴったりであって、黄色がちょっぴり攻撃性をもっていて「黄水仙」最高である。いいじゃないですか、いつだってはい、そのとおりです、なんてばっかりは言ってられない。黄水仙はおおいなる味方である。

 くちなはの長さ言ふのも怖ろしと

わたしの友人にも蛇嫌いがいるが、そういう人はおおいに頷く一句ではないか。蛇に出合ってしまったのだ。その事を言いたいのであるが、言えば背筋が凍りつくような、ああ、ブルブルってそんな様子を五七五にさっと詠んだ。しかし、この一句「くちなは」でなければ、中七下五は絶対成立しないと思う。たとえば、ほかの生物などを考えると、「なめくじ」とか「ごきぶり」とか長いものでないだろうか、「みみず」か、それほど長くない、やはりこれは季語「くちなは」を詠んだ一句として面白い。

 真白でなき山梔子の白がすき

山梔子(くちなし)の花は、黄色みがかった白色である。その花から独特の芳香がある。その実からは黄色の染料がとれるという。で、思ったのであるが、著者の上野山さんのテーマカラーは「黄色」ではないかって。タイトルの「黄槿」は鮮やかな黄色、反逆心がもたげてくるのは黄水仙をみたとき、山梔子だって白でなくて黄色みがかったのが好き。そうよ、きっと「黄色」がお好きって見た。いかがでしょうか。上野山さま。


 海に出る道はいくつも石蕗の花
 遠くまで海見ゆる日ぞ卒業す
 ひねもすを山と海見て春夫の忌
 黄槿の花咲く海士の小屋跡に
 海桐の実岬は風の交差点

本句集の背後には「海」がある。海のきらめきやその青さをあるいは潮風を、頁を繰りながらいつしか感じている。上野山明子さんの詩情はきっと海によって育てられたのである。海と山のある豊かな生活からこの句集の作品は紡ぎ出されているのだ。
本句集は、集名を「黄槿」とした上野山さんの海山へのオマージュでもある。
あら、まっ、この「石蕗の花」も黄色であった。


平成九年、中上健次さんが創設された「熊野大学」の俳句部に縁あって入学しました。そこで熊野大学創設当時のメンバーのお一人である茨木和生先生に出会い、先生が主宰する俳誌「運河」に平成十年に入会させていただきました。「運河」入会から平成三十年までの二十年間の句の中から三百四十一句を第一句集『黄槿』として纏めました。ほとんどは生まれ育ち、暮らしている熊野での日々の中で詠んだ句です。
句集名「黄槿」は
 明日咲く莟ぎつしり黄槿は
の句から採りました。
黄槿は集中で一番多く出てくる花です。その中でも掲句の黄槿の向日性に肖りたく特に抽き出しました。
熊野は隠国、黄泉の国、根の国などとも称されます。至る所で過疎化が進み、吟行ではどれだけ廃屋、廃校を見てきたことでしょう。しかし一方沖を黒潮の流れる真青な海や常緑樹の多い山々、悠々と流れる熊野川などを見遣ると、そこはまさしく光で溢れています。この句集から少しでもこの光も感じていただければ望外の幸いです。

「あとがき」を抜粋して紹介した。



本句集の装幀は君嶋真理子さん。

著者の上野山明子さんが望んでおられる「光」を感じられるような一冊にして欲しいと思った。


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海をおもわせるブルー、タイトルの金箔は、黄槿の輝く黄色である。


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表紙は深い海の色であるが、暗くなりすぎないように、まさに露草の青のような色のクロスを用いた。


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背の金箔が美しい。


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平面は、カラ押し。


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花布は、黄槿の黄色。
かつ、上野山さんのテーマカラー、黄色である。


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見返しは明るいグレーで落ち着きのあるものに。


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扉。


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海の色の青の輝き、そして黄槿の黄色の差し色。

美しい組み合わせである。


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黄槿の花言葉は「楽しい思い出」。
この句集を読んで下さった方々の日々が今後も楽しい思い出で溢れますことをお祈りいたします。

「あとがき」の言葉である。

「見本が届いたちょうどその日の七里御浜がカバーのような色だったので嬉しかったとのこと 、黒潮みたいな深い色で素敵」と上野山さまは仰っていました。 と文己さん。


 漁火のごと群鹿の夜の目は

都会暮らしをするわたしには、漁り火をみることも、群鹿の目にあうこともない。これは、海と山を近くに生活する作者でなければ詠めない一句である。たくさんの鹿の夜の目は金色に燃えているのだろうか。しかもそれが漁火のようであるという比喩が美しい。ぞくぞくとしてくるような一句である。都市生活では色は過剰なほど溢れている。わたしたちは色に麻痺しているかもしれない。海山の自然な色のなかに暮らす上野山さんには、自然からもたらされる色や光がシンプルに肉体に届いているのだとおもった。






今日はお客さまがひとり見えられたのだが、明日あらためてご紹介したい。



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by fragie777 | 2019-09-06 21:01 | Comments(0)


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