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7月12日(金) 蓮始華(はすはじめてはなさく) 旧暦6月10日
梅雨のただ中の矢川緑地。その5 この日は、鴉がよく鳴いていた。 梅雨寒の日が続いている。 わたしは背中にホッカイロを貼って、白のワイシャツの上に赤の半袖の薄手のウールのセーターを着、さらに薄手の紺のコートを羽織って出社。 多くの人が体調をくずしている。 いまんとこ、わたしは大丈夫。 午後になって蒸してきたので、ホッカイロをはずし、さらに夕方近くになってセーターを脱ぎすてた。 今はワイシャツ一枚で軽快に仕事をしている。 今日も新刊紹介をしたい。 四六判変形フランス装ビニールカバー掛け。 138頁 三句組 今年102歳となられた後藤比奈夫氏の第16句集である。 前句集『あんこーる』に次ぐものである。 第十四句集の『白寿』が齢との関りもあって、評判がよく、詩歌文学館賞を受けたりしたものだから、一門の喜びにも推され、すぐ翌年第十五句集『あんこーる』と洒落れてみた。題簽の面白さと内容の軽やかさが相俟って、次は『カーテンコール』をという提案があったが、私はコールは一回でよいと思い、次に出すなら『喝采』と心に決めた。それがこの句集である。 と、「あとがき」にある。 頁をひらいて読んでいくと、なんとなくゆったりと楽しい気持ちになる。 一日を外へ出かけることもなく、車椅子で移動され、あるいは足のけがをされたりで伏せっている時間も少なくはない方の俳句とはとても思えないほど自在である。 磊落にして雅にも俗にも融通無碍、茶目っ気のある遊び心満載で、そし進取の精神もありもうあっぱれとして言いようがない。 うららかに済せし認知症検査 後藤比奈夫氏は、頑張って若くいようというお人ではない。歳をとることにしなやかに順応し、そういう自分を見ている自分がいる。だから認知症検査をこんなにあっけらかんと楽しそうに詠んでしまう。「うららか」が季語なんだけど、これほど気合いをいれない季題の読み方ってある?でも「うららか」で認知症検査も救われる。 デジタル調アナログ調と踊見る 「阿波踊」と前書きのある一句である。これもねえ、阿波踊りを見ながらつい理系の頭脳が働いて楽しんでいる。「デジタル調」がいったいどんな踊で「アナログ調」とどう違う? 比奈夫先生にはその違いがまざとあっておもしろいんだろう。「踊」という季題にこんなぶっとんだ言葉をもってくるのがさすがである。 チユーリツプにも定形を外すもの これにはヤラレタと思って笑ってしまった。たしかにチューリップという花は、♪咲いた、咲いた、チューリップの花が 並んだ、並んだ、チューリップの花が ♪と歌われるようにずらりと並んでどの花も同じような顔をして咲いている。が、ときには、花びらがおおきくはずれて(そう波多野爽波の句のように)おなじようなはずの形を見事に崩しているのがあったりする。それを「定形を外すもの」と言い、「チューリップにも」の「も」である。後藤比奈夫のウイットが冴える。 瀧の上に水現れてすぐ落ちず これには大笑い、父・後藤夜半の有名な滝の句への挨拶、というかわたしはちょっとおちょくっていらっしゃるのかしら、なんて思ってしまった。しかし、比奈夫先生は済まし顔してちゃんと収録されている。こういうところがいいなあって思うのだ。 このような読者へのサービス精神たっぷりの句のなかにやはりふっとさびしさがよぎる句がほんのすこしであるがある。 数へ日をうつらうつらと老哀し 花よりも散りゆくものにわが心 年玉を貰ひに来ればよきものを 長男のゐなくなりゐし福寿草 わたしは「年玉」の句がとくに心に残る。100歳を過ぎた方が、お年玉を用意して待っているのである、しかし誰も来ない、あるいは亡くなられた立夫氏のことなどもその胸中にあるのか。さらりと述懐しているけれどすごく淋しい一句である。 川流れをりて川霧流れざる しらうめや白にも濃しといへる白 この二句は、正統的な写生句として好きな一句である。 さきほど比奈夫先生からお電話をいただいた。 お電話ではいつもお優しく、身体がおつらいときもあると思うのだがすこしもそんな気配をみせず、いかがですか?と伺うと、「あまりよろしくないかもしれませんね」などと飄々とおっしゃるので、そのお辛さがわたしのような感度の鈍い人間にはなかなか理解できなかったりする。先頃足を骨折されてかなり大変であったご様子だ。しかし、今日のお電話では、「だいぶ良くなりました」と明るいお声である。でも102歳である。同じマンションにお住まいのご息女が毎日介護をされておられて、それも大変であると思う。 以下は「あとがき」の後半である。 と、声を大きくしてみても、身は九十六歳以来の蟄居生活、それも数病を抱えてのこと。いろいろと思案はしてみても大向うの共感を呼べるものではない。日常茶飯のことを記して置いて自らのメモとする態のもの。失礼を承知の上で一冊に纏め、遺句集の代りにもと思う次第。どうぞお許しを乞うばかりである。 ほかに、 一稿の仕上りし夜の葛桜 吾亦紅焦茶が似合ふこと知らず ひとり来し花野ふたりで来し花野 百までも生かし呉れし娘鬼は外 湯豆腐の中に桜の映るとは 河骨の黄に在します何仏 春待つや一病抱へ百弐歳 本句集の装丁は、君嶋真理子さん。 手のひらにのる大きさである。 紫を基調に品のある一冊だ。 小さな本であるが、天アンカットで、フランス装。 こんなとき喝采起こる涼しさよ 比奈夫 この一句は、句集には収録されていない。 本句集のために比奈夫先生が寄せた一句である。 102歳となられた俳人・後藤比奈夫先生の句集『喝采』が、こうして涼しさをまとって世に生み出されたことを心から喜びたいと思う。 あらためて比奈夫先生、102歳の句集のご上梓、 おめでとうございます。
by fragie777
| 2019-07-12 19:32
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