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12月12日(水)熊穴蟄(くまあなにこもる) 旧暦11月6日
パリの地下鉄。 パリでは地下鉄によく乗った。移動はもっぱら歩くか地下鉄だった。 地下鉄は日本の地下鉄のようにきれいでもなく、吊革もなく、ドアだって車両によってはエイヤッと気合いをいれて上げないとダメなのもあって、うかうかとしてられない。 帰る頃になってやっと慣れ、どうにかあげられるようになった。 昨日久しぶりに東京の地下鉄に乗って思ったのだが、乗っている人間の顔がいちように長閑であるとおもった。 パリの地下鉄の人間の顔はもうすこし皆厳しい顔をしていた。 空気が緊張している。わたしはその緊張感は嫌いではなかったが。。。 「いい時に帰ってきましたね」といまのパリの状態をニュースで知る人たちに言われる。 ニュースを見るたびに、わたしは地下鉄に乗っていた人間の厳しい顔を思い浮かべ、街のあちこちで物乞いをしていた人たちを思いうかべる。 冊子「第9回田中裕明賞」の電子版のためのゲラがわたしの机に置かれた。 「来年早々には出来るかしら?」とわたしはスタッフに尋ねた。 「そうしたいんですが、まだ一人だけゲラを戻してくれない人がいるんです」 いったい、誰?! 心当たりのあるお方、 早く戻してくださ~い。 共同通信発信の新聞12月7日のものの関悦史さんの時評「俳句はいま」に飯田晴句集『ゆめの変り目』がとりあげられている。タイトルは「金丸和代「半裸の木」見慣れた異様さ 鮮烈」。 金丸和代句集『半裸の木』(朔出版)、鶴岡行馬句集『酒ほがひ』(邑書林)などをとりあげて評し、 飯田晴の第3句集『ゆめの変り目』(ふらんす堂)は同じ60代ながら、今井杏太郎に師事した作者だけに対照的なゆるやかさ。〈蜜蜂に倒木のやはらかくあり〉〈家ほぐす途中のゑのころ草が透け〉と解体のさまも柔らかく詠まれる。〈亡き人を平らかにして送る秋〉と人の死も例外ではない。 固体が溶け崩れていくのと逆に〈穀象に米のつながりあふ匂ひ〉〈みづうみの魚食うて夜の長きかな〉と、不定形な匂いや時間は実体感をもって詠まれ、双方から世界が変容していく。この「変り目」を俳句で捉える作業が、概念的に整理されたあの世この世ではなく、不思議な時空を情感豊かにすくっている。 ほかに青木亮人評論集『近代俳句の諸相ー正岡子規、高浜虚子、山口誓子などー』に触れている。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装 182頁 著者の大石光江(おおいし・みつえ)さんは、昭和13年(1938)川崎市生まれ、川崎市在住。昭和58年(1983)「狩」入会、平成7年(1995)「狩」同人。俳人協会会員。本句集は昭和59年(1984)から平成29年(2017)までの作品306句を収録した第1句集である。帯文と序句を鷹羽狩行主宰が寄せ、跋文を伊藤トキノ氏が寄せている。 わすられぬやうに勿忘草ひらく 狩行 御仏も厨子を出られよ白牡丹 海の底まで指入れて硯洗ふ 声出さば散るかもしれぬ冬桜 本句集を読み返すと、驚くほどに深い含蓄の句があって、読む者を飽きさせない。 以上は帯文より。 跋文を書かれた伊藤トキノさんと著者の大石光江さんのお付き合いは35年になられるようだ。先輩としてずっと俳句の交流をされてきた方だけあって、大石さんを見つめる目はあたたかで愛情深い。 『勿忘草』を一読、まず気付くことは、亡き父母、姉兄、友人達など、光江さんの幸せを支えてきた人達への哀悼、追慕、祈りの句の多さである。それは集名『勿忘草』が、亡き人達への「私を忘れないで」というメッセージであることからしても窺い知れよう。 母の死を見守る夜の水仙花 通夜の座へ帯しめ合へり寒の月 母の忌の白山茶花の散りやまず 父母の遺影の前の昼寝かな 独り居の庭に入り来し恋の猫 猫の医者通ひも日課小六月 欠け墨を集めて磨りて夜の長き 菖蒲湯の溢れ菖蒲の流れ出す 尼さまの白き干しもの梅日和 追慕の句の多いことから、「祈りの句集」と位置付けたのだが、何度か作品を読み返しているうちに、これは「愛の句集」ではないかと思うようになった。この句集、明るい句、洒落た句などもあって、けっこう読むものを飽きさせないし、何よりも読後のほのぼの感、これは光江さんが本来持つ性格の明るさ、愛情の豊かさ、深さの投影ではなかろうか。追慕の句の多いことも、愛情の深さ故と考えれば納得できよう。 跋文で著者大石光江さんは、「川崎に江戸の時代から代々続く旧家に、四人兄弟の末っ子として生まれた」とあり、何不自由なく超お嬢さまとして育てられたとある。お稽古事もたくさんされ、「絵に描いたようなお嬢さま育ち」とある。お稽古事のなかでも書道は、ご自身でも教室を持ちいろいろな書展に出品するほど本格的であるということだ。句集を読んでいると書道の句も多い。大きなお屋敷に住んで、お一人の生活を豊かに楽しまれている様子もみえてくる句集である。35年間にお母さまを姉、兄、愛猫等々親しい人を亡くされた追慕の句集なのだが、句集の底をながれるものは明るい。深刻ぶらず天性の明るさを持った方だと思った。 担当はpさん。 画仙紙の帯のむらさき筆始め 皮厚きこと自家製の柏餅 老鶯や記帳の順をゆづり合ひ ジューサーの緑溢れて春近し 海の底まで指入れて硯洗ふ 筍を抱けば生きものめく湿り 洗はれて犬緑蔭に繋がるる 南天の実のこぼれをり猫の墓 筍を抱けば生きものめく湿り きっと大きな筍なんだろうなあって、わたしはこの句を見たときに思った。すると伊藤トキノさんの跋文に著者の庭でとれたという筍をもらったという箇所があり、あまりにも大きくて伊藤家の大鍋に入らなかったということである。だからこの句は大石さんの家でとれた大きな筍である。採れたての筍は、土のしめりを充分に含んでいてまだあたたかく抱くと心音が聞こえてきそうだ。まるで小動物のようなものを抱いている、そんな感じなんだろう。感触としてよくわかる一句だ。 南天の実のこぼれをり猫の墓 一人暮らしをされている著者のところに野良猫がやってきて居着いてしまったらしい。この猫、恋猫となって仏壇の水を舐めたりして、句集のところどころに登場する。大石さんに愛されている猫であった。しかし、老猫となってお医者に通うようになり、やがて死ぬ。その猫のお墓なんだと思うが、南天の実すなわち真っ赤な実が猫の小さな墓を彩っている。その明るさはどこか癒やされる。猫の墓の南天の実に心をとめたことは著者の明るさなのだと思った。 父母の遺影の前の昼寝かな 本句集には、この一句が象徴するように死者に対する心安らかさがある。35年間の月日が詠まれているわけだから、やはり愛する人たちとの別れがあり、悲しい思いを充分にされてきた方であると思う。ましてや愛猫がいたとはいえ、おひとり暮らしである。考えようによっては淋しさの極みを経験されたのかもしれない。しかし、この句集の底をながれているものは明るいのである。そして気持ちがゆったりとしている。伊藤トキノさんも「光江さんが本来持つ性格の明るさ、愛情の豊かさ、深さの投影」ではないかと語っている。集中に「ひとり居のまこと気儘や法師蟬」という句もあって、なんだかいいなあって、すくわれる気分になる。この昼寝、安心しきった昼寝であったことでしょう。 本句集には、昭和五十九年から平成二十九年までに「狩」誌に発表した一三〇〇余句の中から三〇六句を選び収めました。この三十五年の間には、両親、兄姉、書の恩師、お世話になった先輩句友との永別がありました。句集名の「勿忘草」は、その人達に向けて私をわすれないでという思いから名付けました。 「あとがき」である。「勿忘草」の命名の由来が面白い。ふつう「私をわすれないで」いう思いは生者に向けられるものだ。しかし、大石さんは、死者に向けて「私をわすれないで」と言っている。つまり、大石さんにとって、死者は親しい隣人なのである。盆の句が多く収録されているが、著者にとってはまさに親しい死者とまじわる絶好の機会(?)なんだろう。大石さんにとって愛する死者は、生者以上に親しい存在なのかもしれない。 ほかに、 仏壇のお水を舐めて恋の猫 数を惜しまずにひとりの柚子湯かな 鳰の子の潜り潜りて濡れてゐず 酔ひて泣くをんな先生春炬燵 露けしや切手となりし裕次郎 指入れてみて蟬穴の底知れず サーカスのテント揺るがす春一番 長き夜や水を足しては墨を磨り 猿に顔つくづく見られ春の山 路地抜けてまた現るる盆の月 本句集の装幀は君嶋真理子さん。 清楚な勿忘草を配した一冊となった。 見返しは淡い紫。 表紙は勿忘草色に。 海の日がわが誕生日海を見に 巻末近くにこの句を見つけて嬉しくなった。光江さんの気持、あきらかに外へと向かい始めている。 跋文より。 御仏も厨子を出られよ白牡丹 鷹羽狩行主宰が、帯文に書かれていた一句である。わたしもこの句は好きだ。というか、亡き人に対するおおどかなゆったりとした著者の心がよく見える一句だ。こういう著者であるから、今は亡き親しい人たちにむかって「私を忘れないで」と願うことができるのだとわたしは思った。 これは昨夜、最後に飲んだカクテル「ドライマティーニ」。 俳人の朝吹英和さんがよく行くバーに連れていっていただいた。 朝吹さんは、今は亡き画家であり俳人であった糸大八さんに教えてもらったという。 口のなかが透きとおるようでなかなか強烈だった。 三杯目のカクテル、 結構酔っぱらってしまった。。。。
by fragie777
| 2018-12-12 20:27
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Comments(5)
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ゆずりはさま
はじめまして。 お尋ねのことですが、共同通信発の各新聞に掲載されています。日時もさまざまです。信濃毎日や姫路新聞などいろいろです。ちょっとこちらでは全部を把握しておりません。 インターネットで「共同通信 新聞」で検索をしますと、それらの新聞が出て来ますので、検索をしていただけますか。 よろしくお願い申し上げます。 (yamaoka)
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ゆずりはさま
手元にある記事でよろしければ、メールアドレスをお教えいただければ、その記事のPDFをお送りいたします。 いかがでしょう。 「鷹」の皆さまにはいつもお引き立てをいただいております。ありがとうございます。 (yamaoka) ![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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