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11月10日 旧暦10月3日
蚤の市に行って来た。 季語でいうと「ぼろ市」である。 京王多摩川にある京王閣という競輪場に今日明日と開催される。 仙川からそう遠くないところでやっているのだが、今まで行ったことはなかった。 大変な人出でである。 面白いものがたくさんあり、仕事の資料となるものもあったので結構散財をしてしまった。 蚤の市から仕事場にやってきたところ一通の手紙が目にとまった。 存じあげている詩人の方からである。 封を開いて驚いた。 封書にかかれたお名前のその方が亡くなったという息子さんの伸輔さんよりのお知らせだった。 蚤の市のことをもう少し紹介しようと思ったが、それは止めにして少しその方のことについて書いておきたい。 峰岸了子さん。 突然のお知らせですが、母、峰岸了子が10月31日永眠しました。 本人の強い希望で家族葬で、静かに見送りました。 連絡が遅くなりましたが、 ここに生前のご厚情と友情に深く感謝をいたします。 皆さまへのお礼の気持ちを綴った文章を残しておりますので、お送りします。 長い間のお付き合い、ありがとうございました。 1944年に生まれ、長い旅をしてきました。現実の旅では、ケルト文学に導かれアイルランドを巡り、アリゾナではホピ族が暮らすメサの台地を訪れ、東欧では60歳の祝いにオペラの鑑賞、バースでは旧友を訪ね、……と楽しい思い出がいっぱいです。想像の旅では、行ったことのない国々、月と星星の宙、海の底…どこまでも翔べました。自由な旅もそろそろ終わりかな、と思えるこの頃になって気づきました。遠くへ旅ができるのは戻ってくる場所と、この世があるということに。この世には家族や友だちがおり、住み慣れた町があり、見慣れた風景があります。天変地異の試練を受けても、人々は立ち上がりこの世は変わらずに存在し続けるという希望。今はそれが嬉しく、娘に先立たれたとはいえ幸せな人生でした。家族や友人に恵まれ、好きな本や絵に囲まれ、たくさんの詩集も出版でき、豊かで実り多く、皆さんの友情や愛情が私を育ててくれました。おかげで忘れがたい出来事や記憶が私の躰を作りあげており、そのひとつ一つの宝物を持って逝きます。本当にありがとうございました。一足お先に次の旅に出かけます。また会えると思います。 その日までお元気でいてください。皆さまの幸せを祈ります。 送っていただいたカードと、峰岸了子詩画集『過去からの手紙』(装画・峰岸伸輔)(1996年刊) この封書には伸輔さんの「追記」が入っていて、そこに「このカードは皆さまに送るようにと、母が自分で創っていたものです。絵も自分で彫り刷った版画です。」と書かれていた。 伸輔さんと同じ木口木版だろうか。 ご子息の伸輔さんは木口木版の版画家であり、いまはカナダを中心に創作活動を展開しておられる。 余談であるが、わたしは伸輔さんの作品をいくつか持っており、とりわけその中の一つで「鶏」の作品はお気に入りで、わたしの寝室においてある。 ふらんす堂からは『過去からの手紙』の他に詩画集『わたしの神は』(装画・峰岸伸輔)と、詩集『恋文みたいに』の三冊を上梓されている。 今日は『過去からの手紙』より一篇詩を紹介して、峰岸了子さんを偲びたいと思う。 残酷な木霊 まだわたしが思春期といわれる 短絡で 自己中心的で 無慈悲だったころの話だ わたしの理想は 天日干しの段階でひび割れる陶器のように 使いものにならなかった わたしの夢は 冬の天頂をかざるオーロラのように 触れることはできなかった わたしの現実は思うにまかせず こんなはずはないとこんなはずではなかったと たえず非難の声をあげた 信じるにたりるものがなく 行くべきところが見えず 反逆をうながすものの正体が見えず 愛と憎しみのちがいが見えず 生まれてこなければよかった という思いから 屈折した怒りの声を放った いちばん心優しいひとのところへむけて 生まれたくて生まれてきたんじゃない かつてに生んでなにさ 鷹の弓矢はもののみごとに命中し 父のからだはその衝撃と痛みに 傾いだ 父よ 傾いだままの父よ わたしはあなたにむかって毒づいた声に 復習されていると思うときがある それは あの日わたしと同質の苛立ちを 子どもらが見せるときだ 怒りのエネルギーで りん色に燃える目をひらかせ やりきれなさを 捨てばちな声ではきだし ぶつかってくる 子どもらと対決するときだ そのときわたしの悔恨は あの森の奥の村落からもどってくる 木霊の声を聞いている 生まれたくて生まれてきたんじゃない かつてに生んでなにさ 父よ 傾いだままの父よ わたしはあなたを なんと残酷な言葉と声でなじったか 木霊の声に問い質されているのは わたしだ 今は それがいたいほどよくわかる 最後にいただいた詩集『夢みる卵と 空の青』(2016年書肆山田刊)の詩篇や「あとがき」を今あらためて拝読するとすでに死の影が色濃くあることに気づかされた。 ご冥福をお祈り申しあげたい。 いや、こう言うべきか、 峰岸了子さん、 また逢いましょう、新しい朝に。
by fragie777
| 2018-11-10 19:13
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