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11月7日(水) 立冬 旧暦9月30日
秋川渓谷の末枯れのなかにかろうじてみつけた烏瓜。 今日は立冬。 栴檀の木膚ひびわれ冬に入る 福田甲子雄 冬が来てマリーの家の灯がともり 今井杏太郎 鷲高く舞ふ立冬の八ヶ岳 三森鉄治 すこし前のこと、朝、新聞をつらつら眺めていて、(読むというより眺めると言ったほうが的確)面白い言葉にぶつかった。 広告宣伝の言葉だったか、詳しくは覚えていないのだが。 苦手は全部伸びしろだ。 というもの。 前後の文脈からして多分、若者向けに語られた言葉だったと思う。 これは苦手なことの多い人間をおおいに励ますものだ。 もう年食っちゃったら伸びしろなんてね。 と一瞬思ったのだが、いやいや、わたしにだって適応できるぞ。 わたしは人前で話すことが超苦手。 それはわたしの伸びしろって思うことにした。 なんだか未来が明るくなってきた。 新刊紹介をしたい。 四六判クータ-バインディング製本 170頁 俳人・佐怒賀正美(さぬか・まさみ)氏の第7句集となる。佐怒賀氏(1956年茨城県生まれ)は、現在「秋」主宰であり、「天為」特別同人。現代俳句協会副幹事長をはじめ俳句関係の役職をいろいろとされている。もとは大手出版社の編集者であり、辞書の編纂などを長く携わってきたが、早期退職をしていまは俳句活動に専念しておられる。大学でも客員教授として「俳句創作講座」で指導されている。 本句集は、2014年から2018年までの4年間の作品を収録。2015年と2018年にそれぞれ3週間ほどの海外クルーズに俳句講師として参加、その作品も収録されている。この時の経験を「それまでよりも一回り大きな時空の中に自分自身を置いて考えるようにもなった。」と「あとがき」で記している。 句集名「無二」とは、広辞苑によれば「二つとないこと。かけがえのないこと。無類。唯一。無双。」のこと。本句集には、 無二の世を落葉の孔(あな)の網目越し という一句があるが、この句に拠るということに限らず、著者の世界へのあるいは人間への向き合い方であり、思索の根っことなるものだろうと思った。 聖五月眠るには小さな空でいい 現在、九十歳をはさんで我々の両親は健在である。そのことも大きな励みになる。両親たちからは、幸せとは何か、人生の大事とは何か、がおのずと伝わってくる。振り返ってみれば、私自身は、石原八束、文挾夫佐恵の二人の先師からも、俳句のみならず生き方についても深く学んできた。さらに、昨年は二人の孫にも恵まれた。小さな命が精一杯に生き、若い夫婦たちがそれを懸命に育てている。共に無上の有難さを感じてやまない。(あとがき) 誤報出撃せし父にして生身魂 栗食うてぐだぐだ言うて嫁げさう (次女暁子) 「いのち」を万物について考えるとき、原発、兵器、環境汚染など、是非ゼロへと収斂させたい。間違っても、他国に売込みに出かけるなどあってはならない。自分の国を大切にするとは、相手の国の人々をも同じように大切に思うことである。異文化の国の人々とも少しずつ交流しながら理解を深めていきたい。同じ人間として共感し合い仲良くすること。身近なところから始めて平和への小さな足掛かりにしたいと思う。(あとがき) 原発も武器も発禁烏瓜 船長のいちばん好きなかみのけ座 この句によってわたしは「かみのけ座」という星座があることをはじめて知った。別名「ベレニケの髪座」とも呼ばれ、春先の宵、頭上に小さな星の群れが三角形状のかたまりになって見える淡い星座。エジプト王エウエルゲテス(プトレマイオス3世)の妻ベレニケが、夫の戦勝を願ってその美しい髪を祭壇に捧げたという一部史実に基づいた話によるということ。佐怒賀さんが船上でお会いした船長さんはその「かみのげ座」が一番好きだと言ったんだと思う。春の星のロマンである。 本句集の担当はpさん。 津軽へと機翼は秋を梳きながら 箴言一気に凝縮したる石榴の実 甲板に独り歌つて暑になじむ 空豆にファラオの眉の如きもの 私はティッシュ微笑返しの聖夜 戯れに水鳥と飛ぶ大人の魂 田鼠化して鶉となりふむふむ 箴言一気に凝縮したる石榴の実 わたしもこの句はよくわかる。石榴の実ってゴツゴツしていてかたくなでつまりは塊である。それを箴言が一気に凝縮したと大いなる飛躍であるが、あの真っ赤な実をやどす石榴の実のやや不穏な攻撃的な色は箴言の言葉の苦さといかめしさに繋がっている。余談であるがわたしは旧約聖書にある箴言(ソロモンの箴言)は結構好きである。石榴の実と箴言。面白い取り合わせだ。 星芒や砂漠をすべる春の蛇 コンテナを積み片陰をすこし積む 一点之繞(しんねう)二点之繞かたつむり 杭百本地下へ打込む神の留守 台風の目が赤くなるデンデラ野 (岩手県遠野) 早起きは苦手初富士待たせたる 蟄虫坏戸(ちつちゆうとをふさぐ)虹の欠片は入れてある 蛇穴を出でて自己愛かがやかす 箱庭に幽霊の出る闇つくる 「箱庭」が季語。面白い一句だ。「箱庭」には人間社会のたいていのものをこしらえることができるが、「闇」をつくるのは難しい。しかも幽霊が出なくてはならないのだ。それに挑戦しようっていうその心意気が面白い。いまふっと思ったのだが愛読している漫画、今市子の「百鬼夜行抄」を思いだした。そういえば、あの漫画に出て来る箱庭にはその「闇」があったな。 私自身にとって、俳句は「文学の端くれ」である。私を引きつけてやまないのは、自然や風土の中で育ってきた最短定型詩の、感受性と想像力に満ちた「詩」のあり方であり、虚実鬩ぎ合う現実生活に根ざしながらも、想像、幻想、深層意識などをも内包する「総体としての人間」の自由な表現世界の多様性である。 ふたたび「あとがき」より。 本句集の装幀は和兎さん。 和兎さんは本句集を読んで、手帖のようなイメージにしたいと思ったのだそうだ。 手に馴染む手帖。 造本がクータ-バインディング製本のためなのか、とても開きやすく、やわらかく読みやすい一書となった。 世界地図を配して、タイトルの「無二」は箔押し。この箔は黒ではないのだ、かぎりなく黒に近い茶。それも和兎さんのこだわりである。 見返しは羊皮紙。 表紙にも地図。 扉。 扉にもうっすらと地図。 クーターの色は茶。 カバーのラインと同じ色である。 シンプルにしてスマートな仕上がりである。 これからも、驕らず、卑下せず、諦めず、ロマンをもって、俳句における私自身の表現領域を拓いていきたい。「我が伸びしろよこれからもすこしあれ」と小さく祈りつつ、これまで支えてくださった方々に心より感謝申し上げたい。 毎日を創作の喜びと苦しみにまみれながら生きていきたいと思う。 「あとがき」より。 「我が伸びしろよこれからもすこしあれ」 おお、ここでも「伸びしろ」! 同感である。 星芒や砂漠をすべる春の蛇 幻想的な夢のようなシーンである。星空の下に輝く砂漠。そこをすべるようにすすむ春の蛇、なんと美しい。こんな蛇だったら逢ってみたい。
by fragie777
| 2018-11-07 20:10
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