ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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鮫色という色は。

11月1日(木) 一の酉  旧暦9月24日


今日から11月である。

気持ちの良い一日、歩いて仕事場に向かう。


鮫色という色は。_f0071480_18553634.jpg
今日の空。

圧倒されるような雲である。

鮫色という色は。_f0071480_18554376.jpg
うっすらと月も出ている。


鮫色という色は。_f0071480_18555269.jpg

10分ほど歩いても雲はつづく。

鮫色という色は。_f0071480_18555644.jpg







「ハイ、これお願い」ってスタッフの緑さんにゲラを渡したところ、
「yamaokaさん、声が嗄れているようですが、大丈夫ですか?」って言われてしまった。
「あら、そう?」自分では何にも気づかない。
しかし、11月は公私ともに予定がばっちりとあって、ぜったい風邪は引けない。
わたしは机にもどってわたしの足元にある魔法の抽出(なんでも入っているのよ)から、ビタミンCの錠剤を3粒とりだして口に放り込んだのだった。





今日も新刊紹介をしたい。


沼尾将之句集『鮫色』(さめいろ)。

鮫色という色は。_f0071480_19072561.jpg

A5判ペーパーバックスタイル 72頁 5句組 第一句集シリーズ

著者の沼尾将之(ぬまお・まさゆき)さんは、昭和55年(1980)埼玉県狭山市生まれ、現在は久喜市在住。平成21年(2009)「橘」に入会し、松本旭に師事。平成23年(2011)第29回「橘新人賞」を受賞、「橘」同人。第42回埼玉文学賞受賞。松本旭亡きあと平成27年(2015)に「橘」現主宰・佐怒賀直美に師事。俳人協会会員。本句集は平成21年(2009)から平成30年(2018)までの作品を収録した第1句集である。序文を佐怒賀直美主宰が寄せている。


沼尾将之君から句集の題名を知らされ、まずは驚いた。〝鮫色〟とは聞き慣れない言葉であり、何よりも不可思議な魅力のある言葉であったからである。
〝鮫〟は中生代頃から姿をほとんど変えずに生息していると言われているようだが、その姿には何とも言えぬ神秘的な美しさがある。

 屋根といふ屋根は鮫色東風荒れて

が句集名となった句であるが、しっかりとした実景描写でありながら、屋根の下に蠢く恒久的な時空をも内蔵しているようで面白い。沼尾君に聞いたところによれば〝鮫色〟という言葉は彼の造語であり、その発端は青木繁の「海の幸」を観たことによるという

句集名の由来をこのように佐怒賀主宰は語っている。
「鮫色」とは造語であって、青木繁の「海の幸」を観たことに端を発するという。なんだかとても素敵だ。本書の色は爽やかなスカイブルーであるが、これが「鮫色」というわけではない。鮫色はそれぞれその人の心に映し出された鮫のイメージの色でいいのだろうと思う。序文によると、沼尾将之さんは中学校の美術の先生をしていたときに俳句に出会った。本句集には全体を三つの章に分け、第1章には20代初学の頃からの作品も収められている。佐怒賀直実主宰は、初学時代の頃から現在にいたるまでの作品をとりあげ鑑賞をしながら、

第三章「雨後」は沼尾君の最近の作品群である。この間に、松本旭・松本翠を立て続けに失い、「橘」は私に継承された。

 けふの陽の落つる地平や梨の花 (松本旭先生追悼)
 一人また通夜参列の梅雨の椅子 (松本翠先生逝去)
 穭(ひつぢ)の穂垂れ初む師系絶やすまじ
 
悲しみの中にもその感情に流されることなく、しっかりと一句を成そうとする姿勢が窺われ、三句目の「橘」への強い思いも実に頼もしいばかりである。
 
 透明になるまで見上ぐ新緑は
 屋根の雪ひなた色して朝が来る

と、美術系ならではの色への拘りは健在であり、

 鷹渡る潮の匂ひの吹つ飛ぶ日
 風の芯眉間に捉へ冬鷗

と、自然詠にも沼尾流の感性が光っている。
まだまだ伸び代の残る沼尾君の、更なる高みへの挑戦を期待しつつ、筆を擱く。

沼尾将之さんの将来に期待を馳せながら序文を終えている。
本句集の担当はpさんである。

 山鳩の一呼吸置く大暑かな
 光沢は星よりのもの凍豆腐
 たんぽぽの絮吹くさやうならに代へ
 火取虫なれば我胸に止まり来よ
 屋根といふ屋根は鮫色東風荒れて
 去年今年地平はいつも眼の高さ

 山鳩の一呼吸置く大暑かな

初期の作品である。わたしもいいなと思った句である。よっぽど暑かったのかしら、「フーッ」って山鳩が大きく深呼吸したその一瞬をとらえたものだ。呼吸を置くとしたところに切れの深さがあって「大暑かな」がどっしりと居座った。逃れられない暑さの前には人間も鳩もすでに息も絶え絶えだ。

 たんぽぽの絮吹くさやうならに代へ

わたしは読み過ごしてしまったのだけど、とても切ない一句だ。甘美でさえある。若い男子の句であると思うといっそう。言葉ではなく「たんぽぽの絮」が告げているものを見つめる。これはぜったいに恋愛がからんでいるな、ってわたしは思うのだけど。。。別れてしまっても、こんな素敵な一句を得たのなら、良しとしてもいいのでは。。。。って、あはっ。しかしいまpさんに聞いたところ、それは決定的に別れてしまったというのではなく、ただ、さよならっていう代わりに、たんぽぽの絮をふっと吹いた句だって思ったということ。そんな明るさがあると。そうか、そうかもしれない。yamaokaの鑑賞はすこしやぼったいかも。どう読むかな。このブログを読んでいる方は。

 利根川と荒川の民鰻食ふ
 重ね着を重ね着のままむずと脱ぐ
 一雨のあとの二雨稲稔る
 黒き貨車に砂利の並盛り武甲冴ゆ
 蝌蚪の群れ水やはらかくしてをりぬ
 一汁の中に毬麩や終戦日
 風の芯眉間に捉へ冬鴎
 葉桜にすき間なく夜の来たりけり


二十八歳の時に、俳句を始めてから早十年の歳月が流れようとしています。その頃読み返していたリルケ著「マルテの手記」に「僕はまずここで見ることから学んでゆくつもりだ。」という独白があり非常な共感を覚えたものでした。パリでの孤独な生活を始めたマルテの目にあらゆるものが新しく印象鮮明に飛び込んでくる感動が、俳句の写生に没頭していた私の心情と通じていたのだと思います。俳句は私にとって世の中との新しい接点を与えてくれただけでなく、見過ごしていたものの多さに気付くきっかけを齎してくれました。

「あとがき」の言葉である。


 顔どこか魚類の名残ありて風邪

これはきっと自画像であると思った。句集名に「鮫色」という題をつけられるくらいだから、魚系男子?ではないかと。ご自身の顔にも「魚」の名残を見いだしている。気づいて「ぎょっ」としたりして。とりわけ風邪をひいたりすると海が恋しくなる、ということも。

本句集の装幀は和兎さん。

和兎さんの弁によると「鮫色」を意識して選んだということ。

そうなのか。。。
和兎さんにとってはこの色が鮫色なのか。わたしはもう少しクールなイメージがあるけど。
まっ、これはこれで、美しい色だと思う。


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鮫色という色は。_f0071480_19072935.jpg

鮫色という色は。_f0071480_19073916.jpg
 
 
鮫色という色は。_f0071480_19074381.jpg


鮫色という色は。_f0071480_19074625.jpg
句集名の「鮫色」は、大学で油絵を専攻していたので絵画的な要素のあるものにしようと決めたものです。拙い句ばかりですが、自身の二十代から三十代までの紛れもない生きた証でもあります。

「あとがき」から。


  懐手しては一輪挿しを撰る

この句が好きである。
一輪挿しを買おうとおもって店により、あれこれと懐手をしながら物色している男性像だ。この景色がまず好き。一輪差しという清楚な花器を欲しいというその生活の姿勢もいい。懐手と一輪挿し、絵になるなあ。丁寧に日常を生きている姿もみえてきて、ざつなyamaokaは、いっそうグッときてしまう。沼尾将之さんはご自身の生きる場所をとても大切にされる方なのではないかって思った。









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by fragie777 | 2018-11-01 20:25 | Comments(0)


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