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10月29日(月) 旧暦9月21日
町中で見る菊より空気が冷たく澄んでいるせいか、その色がいっそう鮮やかに思える。 今朝のテレビで、ミスチルの曲がいまの30代のひとたちに圧倒的に人気があると放映していた。 ミスチルか。。。 そういえば子育てをしているときに子どもたちもミスチルを聞きながら育ったかもしれない。 だから、それなりに耳に入ってきた。 今日のテレビで熱狂的にかたる彼らの話を聞きながら、あらためてその歌詞を聞いてみると、 やはりわたしはもうひとつのれない。 で、ふと思ったのだが、わたしの若かりし頃は「しらけ世代」などと呼ばれていたことを思いだした。 つまり、どこかしらけているのである。 ミスチルが人生を語り頑張っていこうよと、若者を元気づけていく歌詞にも、フンって思ってしまう自分がいる。 そんなきれいごと言っちゃていいんかい、などと白々としてしまうのだ。 それではわたしにとって青春の思いを代弁してくれた歌手は? ああ、 それは、 吉田拓郎かもしれない。。 ややだみ声で、 ♪♪ わればまだ人生を語らず ♪♪ などと叫ぶように歌うと、異議なし!ってグッときちゃうのである。 新刊紹介をしたい。 (新刊紹介というにはいささか時間が経ってしまったが) 四六判ソフトカバー装 408頁 俳人・福田甲子雄(1927~2005)の全句集である。 収録は、既刊句集7冊(『藁火』『青蝉』『白根山麓』『山の風』『盆地の灯』『草虱』『師の掌』)、「自句自解100句」、評論「遠方の花」「俳句をささえるもの」「飯田龍太十句撰」、著者解題、年譜、初句索引、季語別索引。 福田甲子雄氏が亡くなってより13年ぶりに刊行委員会(保坂敏子・瀧澤和治・斎藤史子)の方々を中心にそのお仲間たちの意志と尽力によって上梓されたものである。栞に宇多喜代子、友岡子郷、三枝昻之、井上康明、福田修二の各氏が文章を寄せている。 全句集に着手してから、2年以上の時間を必要とした刊行となったが、それぞれの刊行委員が忙しい時間を割いての編集作業だった。わたしも年譜づくりなど微力ながらお手伝いをしたのであるが、各総合誌に寄稿したその精力的な仕事ぶりにはあらためて驚いたのだった。作品や年譜や書かれたものを読んでいるとあらためて福田甲子雄という俳人のあたたかな人柄に触れる。作品や書かれたものはその人間を語る、ということを実感した作業だった。 父はふるさと山梨の自然を愛し、風土、文化を愛し、その方言を愛し、人を愛しました。そして最後はふるさとの土に帰ってゆきました。 ご子息である福田修二氏が栞によせた言葉である。 本集の特徴は、自句自解100句を収録したことと、評論三篇を収録したことであると思う。 自句自解は、句のみならずその鑑賞によって、俳人としての甲子雄のみならず生活者・福田甲子雄がよく見えてくる。仕事のこと、家族への思い、彼をとりまく生活の風景のこまごまとしたこと等々、福田甲子雄の肉声が伝わってくる自句自解となっている。これを収録したことによって、福田甲子雄が読者にとても身近な存在となったのではないだろうか。評論三篇は、飯田蛇笏論、俳句論、龍太論であり、それは福田甲子雄にとって三位一体ものである。師系につらなるものとして自身の俳句をどう読むか、そこに迫ったものだ。これは当初は全句集に収録する予定ではなかったものであるが、保坂敏子さんが「刊行が遅れてもいいから入れたい」といわれ、収録したものである。わたしはまたまた刊行が遅れてしまうと一瞬困ったが、しかし、収録して正解だったと思う。師を思う心、保坂さんたちさすがである。 作品を紹介したいが膨大である。 いくつかの作品にとどめる。 是非に全句集を紐解いていただきたいと思う。 褐色の麦褐色の赤子の声 盆ちかき妻の裁ち屑火のやうに 霧の夜の荒濤こふる蘇鉄の実 生誕も死も花冷えの寝間ひとつ 桃は釈迦李はイエス花盛り なにに触れても音たてて寒の谷 子の背広買ふ歳晩のまばゆき中 ふるさとの土に溶けゆく花曇 竹を伐る音真青に雨のなか 斧一丁寒暮のひかりあてて買ふ つぎつぎに子が着き除夜の家となる 稲刈つて鳥入れかはる甲斐の空 身を捨てて立つ極寒の駒ヶ岳 猫の子と通夜の僧侶を迎へに行く 蛇笏忌の田に出て月のしづくあび 山中の吹雪抜けきし小鳥の目 仏壇の花より落ちし蝸牛 飲むだけの水汲みおきぬ冬銀河 子育ての乳房のはづむ青田中 風呂落す音のきらめく初昔 母郷とは枯野にうるむ星のいろ 天辺に個をつらぬきて冬の鵙 どこからも見られ枯野の人となる 久女読む夜明けの冷えを肩におき 死者にまだ人あつまらぬ寒夜かな 追伸の一行を恋ひ聖五月 年輪をかさねて一位は涼しき木 抽斗の鉛筆にほふ年の暮 凍(こほ)る田をめぐる老婆より殺気 花月夜死後もあひたきひとひとり 芒野の月光を吸ふ厨口 凍返る谷は奥歯をかみしめて 瘦身の少女鼓のやうに咳く 下萌ゆる死は公平に一度きり 玄関に雪掻きのある彼岸かな つぎつぎに星座のそろふ湯ざめかな 煮凝の底の目玉の動きけり 明日植ゑる田の波立ちてこぼれをり 万緑のかむさつてくる喪中かな 明星の映るまで畦塗り叩く 曼珠沙華死は来るものを待つのみか 桜桃の花純白を通しけり あけぼのの湯タンポにおくいのちかな わが額に師の掌おかるる小春かな 多くの方々からご要望のあった『福田甲子雄全句集』がここに成ったことを、ご遺族並びに刊行委員会、関係者全員の喜びとするものです。この一集により、福田甲子雄の作品の数々が更に広く、且つ末永く親しまれてゆくことを願って止みません。 刊行委員の方たちの願いである。 本句集の装画は,山梨在住の銅版画家今村由男氏が福田甲子雄全句集のために制作された作品である。 装幀は和兎さん。 表紙。 扉。 本文は11句組の二段組である。 天アンカットにして栞紐をつけた。 稲刈つて鳥入れかはる甲斐の空 こんな句は、山梨に住んでいる人でなければ理解されないであろう、と思っていたので高柳重信さんが、『現代俳句全集』(立風書房)のなかで認めてくれたのには驚いた。こうした失礼な考え方を瞬時でも持ったことに恥じ入った。 山梨は、小鳥にとって宝庫であるらしい。まだまだ乱開発が進んでおらず山々に木の実の類がいっぱいあるためだ。稲刈りが終わる十一月になると、いままで見ていた鳥の姿が消えてしまい、代わって冬鳥の姿を空や木の枝で見かけるようになる。冬を越すために外国から渡ってきたり、山からおりてきたりする冬鳥は色彩が鮮やかですぐに目につく。ホオジロ、マヒワ、シロハラ、キレンジャク、ジョウビタキなどがやってくる。それにかえて、ツバメ、カッコウ、ホトトギス、ヨシキリなどの姿が見えなくなってしまう。稲を刈り終わった盆地には、いち早く冬の気配がただよう。 「自句自解100句」より一句のみ紹介した。 今日の讀賣新聞の「枝折」はこの『福田甲子雄全句集』が紹介されていた。 元読売俳壇選者(2002~2005)で蛇笏賞作家の既刊句集7冊を収録。郷里・山梨の厳しい自然と暮らしに育てられた詩心。自句自解100句も掲載。 あらためて『福田甲子雄全句集』の刊行が成ったことを喜びたいと思う。
by fragie777
| 2018-10-29 19:57
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