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9月30日(日) 旧暦8月21日
国立・谷保天神裏の雨に濡れた梅林。 雨宿りをする鶏。 (わたしのお気に入りの鶏) 群のなかには決して入らずいつも一羽でいる。 観察したところによると人間は嫌いじゃないらしい。 あるいは自分のことを人間だと思っているのかもしれない。 台風接近で緊張がたかまるそんな日々である。 今日は新刊の『福田甲子雄全句集』より、「自句自解100句」より二句(秋の句)を紹介したい。 牛の眼が人を疑ふ露の中 家から二キロメートルほど西に入ると白根三山の前山となる。この中腹に築山という集落がある。かつては、築山村として一村を構えていたが、現在は二軒の家に人が住んでいるだけ。白根町の中心地からでは、標高が一〇〇メートルも高い。かなりの急坂を登らなければ築山に入ることはできない。この不便さが人々を山腹の村落から麓に移動させることになった。 仲秋のある日、この築山に足をのばした。あたりの秋草は露の重さで垂れさがって、朝日にきらめいていた。まったく無人となってしまったような静かさが身をつつんだ。三十戸あまりの家が、今では一戸の寺と一戸の農家が住んでいるだけで廃墟を思わせる。その一戸の農家が牛を飼っていた。近づくと牛が不審そうに白眼で私をみつめた。疑いをもった眼であった。かつて見た、露のきらめく澄んだ日の牛の白眼と同じであった。(昭34『藁火』) 満月の屋根に子の歯を祀りけり 長男に修二と命名した関係で、三男にも眞二と命名してしまった。次男は孝二で、いかにもそれらしい感じをうける。別に世をすねて子供の名前にまでおよんでいるわけではないが、何となく決まってしまった。 今宵は仲秋の名月。夕食を早く済ませて、満月を眺めようとしていたら八歳になる三男の眞二が、小さな白い歯を手にして、 「抜けた、下の方だよ」と言う。 下の歯が抜けた時は屋根の上になげ、上の歯が抜けたら床下になげ入れると、次に生えてくる歯が丈夫に育つ。そんな風習が私の地方にはあるので、抜けた小さな歯をつまんで外に出た。 丁度、十五夜の月が山の頂から出るところであった。屋根瓦は月光に濡れて輝いていた。思いきり屋根の棟を目がけて手にした歯をなげると、瓦をころげ落ちるかすかな音が満月光のなかにきこえてきた。 (昭40『藁火』) この『福田甲子雄全句集』についてはまたあらためて紹介したいと思うが、時をおなじくして『今井杏太郎全句集』が角川書店より刊行された。 「yamaokaさん。とうとう出来上がったよ」って石井隆司さんが嬉しそうにお電話をくださったのはすこし前のことだった。 「どうなったかなあって思ってたのよ、良かったですね」とわたしも申し上げたのだった。 今井杏太郎氏に関わる方々の思いと尽力によって実現した『今井杏太郎全句集』である。 ふらんす堂からも生前最後の句集『風の吹くころ』を刊行させていただいた。 全句集の完成をよろこびたいと思う。
by fragie777
| 2018-09-30 19:46
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