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8月21日(火) 旧暦7月11日
国立・城山の稲穂。 稲穂の前にたつとムッとする匂いが鼻をつく。 稲独特の匂いだ。 昨日のこと、 「わたしってどこか気取っているんです。」と電話でOさんに言ったところ、 「気取ってる? いいんじゃあない、それもあなたよ」って言われた。 そうか、いいのか。 「あなたはね、どこか自分を恥ずかしいって思っているところがあるでしょ、それがいいのよ」 (ひえー、わかるの?! いったい誰がわたしが恥ずかしがり屋だんて思うだろうか。) Oさんは、いつだってすごい。 まるで小動物のような嗅覚をもって人間を嗅ぎ分けてしまう。 そうか、いいのか。。。 単純なyamaokaはすこし気持ちが楽になる。 新刊紹介をしたい。 A5判ペーパーバックスタイル 72頁 5句組 第一句集シリーズ 著者の杉美春(すぎ・みはる)さんは、1956年東京生まれ、現在は神奈川県相模原市在住。2005年に「天為」に入会、2013年に「小熊座」入会、2015年「天為」同人。俳人協会会員、現代俳句協会会員。本句集は2008年から2017年までの10年間の作品を収録した第一句集である。序文を有馬朗人主宰が寄せている。 美春さんは大学でフランス文学を専攻した。また卒業後も翻訳に従事したことのある才媛である。そのような才能がある上に絵画鑑賞にも興味を持っている。『櫂の音』の中にオオキーフとかダリなど多くの画家が登場するのはその結果である。例えばオキーフについて オキーフの花崩れゆく遅日かな オキーフの絵の骨白き冬日和 オキーフの砂漠に降りる霜の花 と詠っている。オキーフ(一八八七~一九八六)はアメリカの女性画家である。「ブラック・リリー」など花を主題とした作品で成功した後、四二歳頃からニューメキシコ州の首都サンタフェに住み、動物の頭蓋骨を大きく描いたり、荒涼たる砂漠を描いたりした。日本ではあまり知られていないが、幾度かサンタフェで夏やクリスマスを過ごした私にとっても親しみ深い画家である。そのオキーフの画を写生した美春さんの三句も面白い。オキーフの特徴をよく表現している。 ほかに、 蛇穴を出てエッシャーの階段に ランボーの母音あざやか捩花 読み残す宇治十帖やつくつくし ミコノス島真白き街路風光る 振り向けばいつも畝傍山(うねび)や稲の花 などたくさんの句をあげて、 フランス語に堪能で、読書を愛し、菓子作りが好きという美春さんの句は、洒落ていて新鮮である。美春さんが『櫂の音』を一里塚として更に佳句を沢山発表されることを大いに期待している。 本句集を読んでいくと、さまざまな素材を噛み砕きそれをさらりと句にしている作者がいる。その守備範囲の広さは眼をみはるばかりである。わたしはそういう句群のなかで日常をさりげなく詠んだ句にも心を引かれた。 秋燕去りて一夜の豪雨かな 黒板のきれいに拭かれ春立つ日 サイダー瓶より青空の吹きこぼれ 書き込みの多き洋書や麦の秋 泥鰌のひげ少し曲がりて秋思かな すかんぽや擦り傷にまた擦り傷 手袋の片方づつの温みかな こちらは担当のPさんの好きな句。 表面張力春にストロー突き刺して 読初のヴェネチア史より櫂の音 水の色引き初秋の蜆蝶 道化師の瞼に黒子秋深し 匂ひにも音階のあり梅の花 凩の匂ひの人とすれ違ふ 「凩の匂ひ」ってどんな匂いだろう。作者はすれ違う人にその匂いをしかと嗅ぎ分けたのだ。凩の吹く季節は空気がはりつめていて乾燥している。嗅覚はいつもより敏感になっているかもしれない。「凩」は「木枯」とも書く、初冬に吹く冷たい風のことで、木を吹き枯らすことからきた呼び名であるらしい。でもいったいどんな匂いなんだろう。皆目見当がつかない、しかし、すれ違ったときにさっと冷たい冷気がはしりそこから何かが匂い立ったのだ。あるいは「風の又三郎」か。いや、そんなことはない。「凩の匂ひ」をしかと感じとった、それがすべてである。「匂ひにも音階のあり梅の花」という句もあるように作者の杉美春さんは、匂いに敏感な人なのかもしれない。 木犀の香を立てて行く夜のヒール こちらはわたしの好きな句。これも嗅覚のするどい一句だ。「木犀」は秋咲く花。ちょうど大気が澄みわたってひんやりと頬にふれるそんな季節に咲いて香を先立たせる花だ。香りから花の開花を知る、真っ暗な夜道など花はよく見えなくても香りでその存在を知るっていうこともある。木犀の香りがする夜道をハイヒールがコツコツと音をたてて歩いていく。という景であるが、「先立てて行く」という措辞がうまい。ハイヒールの尖った先を木犀が先行するように香っている。澄みきった夜の空気にはやや緊迫した気配がみなぎる。 『櫂の音』は、二〇〇八年から二〇一七年までの三〇六句を収めた私の第一句集です。 私が俳句を始めたのは、友人の紹介で天為座間句会に顔を出したことがきっかけです。入会して数年後、親族の不幸が続き、俳句を一時中断しました。しかしその間も座間句会の横谷光風様から励ましていただき、俳句を再開しました。再入会後、「天為」の湘南句会、東京例会に参加するようになり、毎月有馬朗人先生のご指導を受けるようになりました。 朗人先生の公平で穏やかなお人柄、俳人としての姿勢、幅広い教養と知識から多くのことを学ばせていただきました。 「あとがき」の冒頭の部分を紹介した。そして大木あまり、高野ムツオ、津久井紀代のそれぞれの俳人を通しても学んで来られた杉美春さんである。多くの方々への感謝にみちた「あとがき」である。 本句集の装丁は和兎さん。 ブルーの色が眼を引く。 読初のヴェネチア史より櫂の音 句集名となった一句である。 この句集のブルーは、かぎりなくロイヤルブルーに近いもの。 色見本CF0410番。ノーブルなブルーである。 ブル-の色はとりどりあって実にたくさんある。 「オキーフの花崩れゆく遅日かな」の一句にふさわしい色だな、と、わたしは本句集が出来上がったときに思ったのだった。 夏燕疵なき空へ飛び立てり 「悼」と前書きの付された一句である。どなたを悼んでおられるのかは記されていない。だからだろうか、いっそうに立ち止まった一句だった。「疵なき空」とあることにより、地上で疵ついた魂だったのだろう、その人を悼む心と死の先にある安らぎを逝ってしまった人の為に思う一句だ。今は亡き人へのあたたかな思いが貫く一句だと思った。この一句のあとに「桑の実の青きを残し和弥の忌」がつづくことに気づき、あるいは若くして亡くなった澤田和也さんのことなのかと、いっそう思いを深くした。澤田和也さんは、杉美春さんに句集の上梓を勧めてくれた人と「あとがき」に書かれている。この句によってわたしは、多彩な世界のヴェールを突き破って杉美春さんの素心に触れたように思ったのだった。 8,9月は一番忙しい時である。 ふらんす堂はいまごった返しております。 ミスのないように頑張ろう。。。
by fragie777
| 2018-08-21 20:32
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