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6月15日(金) 旧暦5月2日
神代植物公園の花菖蒲。 梅雨寒の日がつづいている。 わたしは箪笥の奥から黒のやや厚手の木綿のセーターを取り出した。 これは伸びもよく身体にフィットしてしかも暖かい。 秋口になるまでもう着ることはないだろうと思っていたものである。 梅雨の季節はあなどれない。 仕事場にむかうドアを開けたとき、(……ひんやりしてるな…)と、その上に白の木綿の厚手のコートをはおることにした。 黒のフレアースカートに靴は白。 (白と黒でまるでパンダだな……)と思ってニンマリし、わたしは満足した。 新刊紹介をしたい。 仁平勝さんは、よく存じあげている俳人であるが、本書によって仁平さんがいかなる経緯で俳句を作りはじめたかをあらためて知るところとなった。 花売らぬ花屋 火のなき桐火桶 三十一歳のとき、自己流で俳句を作り、『花盗人』という句集を出した。二十の花を題にして百句。序章は「花」で、終章は「雪」。連歌の百韻をパロって月の定座を入れ、現代風の雪月花という趣向にした。 これはその巻頭句。「役に立たないものですが」という挨拶である。ちなみに季語で「花」といえば桜だが、小さな花屋だと桜は売らない。また「桐火桶」は藤原定家の歌論書だが、どうも偽作らしい。そんな含意もある。 私の稚拙な出発点として採り上げておきたい。 (『花盗人』) この『花盗人』について俳人・永田耕衣が「琴座」でとりあげ、そのことに狂喜したと次のページにある。 自句自解の面白さはその人の背後の物語が見えてくることにある。 仁平さんはそのへんの語りが上手い人だ。 つい引き込まれてしまう。と同時にわたしはほぼ同世代(若干お兄さまだけど)なので読みながらたまらないまでのノスタルジーを感じてしまうのだ。 うん、うん、そうそう、そういう時代だったよねえ。と。 言ってみれば仁平さんの持っている時代に対するある気分のようなものは、一様にわたしにも共通している気分であるのだ。たとえば、46句目の、 ナジャと呼ばれてセーターのいつも黒 (どこの大学にもいた) アンドレ・ブルトン著『ナジャ』にちなんだ綽名で、嵐山光三郎の『口笛の歌が聴こえる』より、そう呼ばれていた女子学生の「三十四条件」を抜粋する。 「美人であること(これ絶対)/スポーツ音痴、とくに野球がわからない/酒飲み、とくにハイボール/煙草を吸う/サルトルを読んでいても、理解していない/概して黒系統の服を好む/青山の草月会館の催物へ行く/気がむけばやらせてくれる/他の女をバカにしている/ときどき行方不明となる」等々。 (『黄金の街』) これには笑った。かつてわたしのまわりでも文学青年によってブルトンは語られ、「ナジャ」を読んでいたI君、彼にはナジャのような恋人はいたのかしら。。このナジャは、わたしにはゴダールの映画「勝手にしやがれ」のジーン・セバーグが演じたところのパトリシアのイメージにふっと重なる。ってこんな事を書いても、なんのこっちゃ、っていう人の方が圧倒的に多いと思うけど。ともかく、おんなじ時代の空気を吸っていたのよね、仁平さんとわたしは。 仁平さんには一つ年下の弟さんがいた。しかし、すでに53歳で亡くなっている。そのことは句集『黄金の街』でわたしは知っていたが、著名な翻訳家であられたこと、しかも死因が自殺であったことは本著で知ったのだった。 とても仲の良い兄弟であったことも。 夏月和厚信士享年五十三 (弟和夫逝く) 厳密には無季かもしれないが、戒名の「夏月」が季語のつもりである。弟はビジネス書の翻訳をしていた。とくに『ディズニー7つの法則』は三十万部を超える大ヒット作で、これは兄の目にも最高傑作だと思う。トム・ピーターズのシリーズもロングセラーになった。 遺作は『奇跡の企業ロンガバーガー物語』で、最後に会ったとき、その最終校正をしていたように思う。私が、自分の本の校正は苦手だというと、「俺は校正しているときがいちばん楽しいけどな」といっていた。(『黄金の街』) 弟さんについて句がいくつかあるのだが、どれも切ない。 また、亡くなられたお母さまの句もある。亡くなられてからお母さまの乳房をさわったという句もある。 引き込まれてどんどん読んでしまう。 巻末の俳句観は、やはり仁平勝さんの俳句技法が明快に語られているのだが、その技法的なことを超えて大事にしていることが書かれている。 その数行だけでも心にとめておきたい一節である。 先日、「件の会」でスタッフのPさんが仁平さんにお会いした。 そこで仁平さんから弟の和夫さんのことを伺ったのであるが、お話によると仁平さんは大好きなビバルディの「四季」のCDを弟さんにプレゼントされたということである。和夫さんの亡くなられた部屋に仁平さんからプレゼントされたこの「四季」が置いてあったということ。亡くなる直前まで「四季」を聴いておられたのかもしれない。と。 そんなお話を仁平さんから伺ったPさんであるが、先日仁平さんよりそのビバルディの「四季」のCDをプレゼントしていただいた。 それがこちら。 お手紙がそえてあって、 「過ぎし日の思い出が甦ってきて、とりわけ夏あたりからジーンときます。数ある『四季』の演奏の白眉です」 とある。 Pさんは、仕事をしながらときどき聴いているようだ。 わたしも「四季」はイ・ムジチ合奏団のものを持っているが、いつかPさんより借りて、この「四季」も聴いてみたいと思っている。 追憶はおとなの遊び小鳥来る 仁平 勝
by fragie777
| 2018-06-15 19:56
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