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4月10日(火) 鴻鴈北(こうがんかえる) 旧暦2月25日
名栗に咲いていた幣辛夷(しでこぶし)。 もう散ってしまっているだろうけど。。。 いまは紫木蓮がきれいだ。 さっそくであるが新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装 198頁 著者の西山春文(にしやま・はるふみ)さんは、昭和34年(1959)宮城県仙台市生まれ、現在は千葉県八代市に在住。昭和61年(1986)に「狩」に入会、「狩評論賞」「狩座賞」の受賞を経て、平成9年(1997)に「狩」同人、平成18年「巻狩賞」を受賞されている。俳人協会幹事、日本文藝家協会会員、俳文学会、表現学会会員。明治大学で教鞭をとっておられ、明治大学リバティアカデミー「俳句大学」の講師である。俳句にかかわる共著も多数ある。本句集は、第1句集『創世記』につぐ第2句集となる。帯に鷹羽狩行主宰が鑑賞を寄せている。 為すことのなくて疲れし帰省かな 仕事で忙しくしても疲れるが、夏休みで暇すぎてもかえって疲れるという矛盾。 秋風や風をいざなひ咲けるもの 公園の草花が、それぞれ風をさそうかのように揺れて、つつましやか。春や夏との違い。 半日を雪解しづくの檻のなか 激しい雪解しずくの音が、本格的な春の到来を告げるかのように思わせる「檻」。 このように俳句表現の多様化が見られ、独特の句境がさらに広がった。 青畳四肢に親しき帰省かな 秋耕を仕上ぐ夕日を敷きのべて 哀歓の数の毛玉や古セーター 為すことのなくて疲れし帰省かな 読み終へし本の手触り春惜しむ 銀杏や太古のかをりかと思ふ ごきぶりの一匹に夜の裏返る 青年の白息太く人を待つ 猫ゐれば猫と話して一年生 担当のPさんの好きな句を紹介した。 秋耕を仕上ぐ夕日を敷きのべて 詩情にあふれた一句だ。「秋耕」とは冬にむかう土を耕すことだ。すでに秋の稔りを収獲しおえた土を鋤き起こす。秋耕にいそしむ人の脳裏には、冬に育つものあるいは早春にそだつものへの思いがある。日の暮れもはやくなりつつある日々、一心に耕しおえた地表にたっぷりの夕日が差してきた。それを「敷きのべて」と表現したことで詩になった。「シ」「シ」「ヒ」「シ」「キ」と「イ音」の韻が一句を貫いている。 読み終へし本の手触り春惜しむ 学問を生業とする人らしい「春惜しむ」である。読み終えた本は、すでにもう関心事ではなく、そのへんにほいっと置かれてしまうことが多い。しかし、西山さんにあっては、読み終えた書物もまた、すぐには手放しがたいものなのだ。行ってしまう春とともに豊かに我を育んだ時間の豊穣がこの一冊にはある。手触りをとおしてそこに語られたあれこれが蘇る。 本句集は第2句集となるが、第1句集から第2句集にいたるまでのことを、また「銀(しろがね)」と句集名をしたことを、西山春文さんは、「あとがき」でこのように書かれている。すこし長いが紹介したい。 第一句集『創世記』を上木したのが平成十五年。その後、既に十五年が経とうとしている。そこで、まずは十年(平成十五~二十五年)の作品三百四十五句をまとめ、ここに第二句集『銀(しろがね)』を編むこととした。 第一句集に収録した三百二十句は、俳句と出会い、季語と遊び、先輩や句友と歓談しつつ御教示を頂いた、言わば私にとっての俳句との蜜月期だった。荒削りで、言葉の力に凭れ掛かった、それでいて喜びに溢れた作品群と言えようか。 それに対し、本句集に収載した作品は、俳句の壁にぶつかり、拒まれ、時にはその深奥を覗くことの出来た時期のものである。この十年、義母が急逝、それを追うかのように義父も亡くなり、また長く闘病を続けてきた実父も昇天した。今年四月には、大学院時代の指導教授で、詩歌の何たるかをご教示下さった大岡信先生も逝去された。祈りと別れの日々が続いた。 勤務先の大学では雑用係の順番が回ってきて多忙な日々を過ごす一方、「狩」句友はもとより、本学主催の公開講座の受講生や、職場で担当するゼミナールの学生といった俳句の魅力にとりつかれた仲間達と句座を囲みつつ共に笑ったり悩んだりして過ごしてきた時期でもある。そんな哀歓の中から生まれた作品には、もはや若い頃の飛び跳ねるような力はないかも知れないが、それに代わり、読者の心の奥に静かにささやかな光を灯すことができたらと願い、書名を『銀(しろがね)』とした。本句集の一句「銀(しろがね)の川銅(あかがね)の麦畑」に通い合う心境でもある。 ほかに、 失せやすきものに詩片と初蝶と 遺されしものの一つに寒卵 連弾のかすかなる齟齬蝶の昼 風に飛びさうな神官海開き 革ジャンパー脱ぎてやさしきことを言ふ 玻璃越しの富士を抱ける小蠅かな 豆撒きし闇の奥なる真闇かな 十三夜ことばあたためをりにけり 本句集の装丁は、君嶋真理子さん。 西山さんのご希望は、「句集らしくないもの」ということだった。 「銀」という一文字のタイトル。 表紙はバクラムというクロスを用いた。 色は銀鼠。 文字は黒メタル箔。 表面は文字を空押し。 背は空押しと黒メタル箔で。 見返しは銀色の用紙。 扉。 花布は、黒。 スピンは、銀鼠色。 モノトーンを主体としたスマートな一冊となった。 家中にをんなだらけの暑さかな 笑ってしまった。男性の視線であるが、こう言われると女であるわたしもよくわかる。しかし、暑そうである。一種ハーレム状態であるが、ハーレムというのは結構暑苦しいものなのかもしれない。「をんなだらけ」というところ、おんなたちの肉体のかたまりが押し寄せてくるようで、ああ暑い。ここを突破すればどこだって涼しそう。 後書きのやや重すぎて亀の鳴く この一句もやはり文筆をなりわいとする人の一句を思わせる。「亀鳴く」という使いにくい季語が効果的に詠まれたと思う。亀はややシニカルに鳴いたのかもしれない。 今日の毎日新聞の「新刊紹介」では、二冊ふらんす堂の本が紹介されているが、その一冊は西山春文句集『銀』である。 第2句集。 銀(しろがね)の川銅(あかがね)の麦畑 半日を雪解しづくの檻のなか など、弾むような、華のある作品がそこここにある。頁を繰るたび、楽しい一句に出合える句集。 そしてもう一冊は、木村かつみ句集『猫の椅子』。 第1句集。時に素朴、時に大胆な表現が面白い一冊。最終章は「猫との時間」と題され、書名となった 春の虹いまも窓辺に猫の椅子 など、50数句が収められている。猫ブームに安直に乗ったものとは異なる、いつくしむようなまなざしが特徴的である。 お客さまがひとり見えられた。 9年前に、ふらんす堂より句集『残像』を上梓された有住洋子さん。 第2句集の句稿をもって、句集のご相談に見えられたのである。 資料本などをご覧になってもらいながら、句稿を拝見してお話をすすめていくうちに、句集の姿がみえてきた。 そして一番有住洋子さんにふさわしい本のスタイルになりそうである。 句集名は「景色」。 章立てもすべていろいろな意味をこめて有住さんが考えられたもの。 ご自身の言葉の世界をきっちりともっておられる方である。 どんな一冊となっていくか、 わたしも楽しみである。 有住洋子さん。 個人誌「白い部屋」を刊行されている。 人も、その内側を見つめて静かに身を置きながら、常に外界と接する。その刺戟を受けながら、さらに内側を極めてゆく。極めてゆきたい。ときには一片の花びらが舞い降りるのに、呆然となりながら。 「白い部屋」の巻末に書かれた文章の最後の一節を紹介した。
by fragie777
| 2018-04-10 21:31
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