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3月1日(木) 草木萌動(そうもくめばえいずる) 旧暦1月14日
国立・城山の白梅。 ここの梅の枝振りが好き。 関東地方は昨夜は夜中すぎより明け方まで凄まじい風雨だったらしい。 「らしい」というのは、寝こけていて全然気づかなかったのである。 朝、玄関のドアーを開けて、あら、雨が降ったんだ……と思ったくらい。 テレビをつけてニュースで騒いでいるので、驚いた次第。 さてと、 今日は新刊を紹介したい。 四六判ハードカバー装 214頁 著者の大隅三虎(おおすみ・さんこ)さんは、昭和9年(1934)岡山生まれ、佐賀市在住。昭和61年(1986)「狩」(鷹羽狩行主宰)に入会し俳句を始める。平成7年(1995)「廻廊」(八染藍子主宰)入会、現在は「狩」「廻廊」同人、俳人協会会員。三虎という俳号は、本名「彪」より鷹羽狩行主宰が「三虎」と命名。本句集には序句、帯文、「鑑賞1句」を鷹羽狩行主宰が寄せ、選句、跋文、帯掲載句は八染藍子主宰によるものである。 満天の星が出迎へ初蛍 狩行 序句である。 美しい一句だ。 風なきにどこかが揺れて糸ざくら 枝垂桜の枝々のしなやかさをずばりととらえて余すところがない。 風に立ち汝も花野の花となる 見わたすかぎりの花野、そこを歩いて行くカップル。風の中に佇む恋人に対して、お前も「花野の花」と讃えた。「風に立ち」が、堀辰雄の名作『風立ちぬ』を、全体からは立原道造の『萱草に寄す』などのソネットの世界を思わせる抒情背ゆたかな句。 帯と本文よりそれぞれ一句ずつ鷹羽狩行主宰の鑑賞を紹介した。 大隅三虎さんは、今はご長女の暮らす佐賀市におられるが、それまで長く広島にお住まいであった。「狩」の支部長であり俳誌「廻廊」を主宰されている八染藍子氏の指導も受けられ「狩」とともに「廻廊」の同人でもある。大隅三虎さんをよく知る八染藍子主宰は、この第1句集のために心のこもった跋文を寄せられている。 三虎さんがいつか、「螢を見ると童心に返る」と呟かれたことがある。穢れのない童心への希求は三虎作品すべてに通ずる詩質となっていることを、今改めて感じている。 変幻の尽きぬ螢の星座かな 夜もやや更けて、森の木の秀つ枝に点り、また空高くに点滅しつつ飛ぶ螢火。この情景は、とかく「星座のごとし」で片付けてしまうところ。また幻想的な内容はとかく絵そらごとになり易いが、「変幻の尽きぬ星座」と断定し、そこに作者ならではの美意識が働いて、揺るぎのない作品になっている。 螢を闇へ繰り出す神の御手 螢への飽く無き挑戦……と言いたいほどの追求心。写生を超えた心眼の働きで、目に見えないものをも摑もうとする志が窺える。神の白い御手によって繰り出される螢火の霊気を帯びた光が印象的である。 『初螢』は、句歴三十年の作品からの抽出で、完成度が高く、ずっしりとした重みのある、清々しい一集である。新天地佐賀での今後ますますのご清吟とご長生をお祈りしている。 本句集の担当は、Pさんである。 午後の日のわが影に入れ牡丹の芽 ささやくといふことのなき恋の猫 海もまた校庭のうち雲の峯 自転車で来て獅子舞の獅子となる 虚ろなる眼よ蓮の実の飛んで 親しみを増す寒柝を打ち合ひて 枝分けて向日葵は日を奪ひ合う 冬鹿の閑もてあましゐて頭突き きさらぎや両手でもんで耳ふたつ Pさんの好きな句を紹介した。 自転車で来て獅子舞の獅子となる 季語は「獅子舞」。新年の季語である。自転車でやってきたのは獅子舞の踊り手である。舞台裏がまるみえでちょっと興ざめ、獅子は正体をみせてはいけない。自転車で来るくらいだからまことにカジュアルである。獅子舞とは歳時記をみれば「新年の祝福と悪魔払いをする芸能。悪疫災禍を払う霊獣として威力を獅子に求め、獅子頭をかぶったとされている」とあり、そこにはある神妙な趣がある。獅子頭はおごそかに粛々とかぶらなくてはいけない。なにしろ霊獣である。伝統芸能としての「獅子舞」でもある。そんな獅子舞がもっている霊力をどこふく風と獅子を舞う男(多分)がやってきた。その今風の長閑さが面白い。舞おえた男はふたたび自転車に乗って、「じゃ」とか言って のどかに去っていくのだろう。まことに肩の力の抜けた「獅子舞」の一句だ。 昭和六十一年、狩に入会して三十年が経過しましたので、遅まきながら一区切りとして、この度第一句集を出すことに致しました。その間、「狩」主宰の鷹羽狩行先生、「狩」ひろしま支部長の八染藍子先生の熱意溢れるご指導を賜り、俳句を続けることが出来ました。螢見には同好の友人・知人から毎年誘いを受け、その都度童心に戻ることが出来ました。お蔭様で、私にとりまして、螢は最も多く詠んだ、そして最も好きな季語になりました。句集名を〈音のなき楽といふべし螢沢〉など一連の螢の句から選びたいと思っておりました処、初句集であることから狩行先生が「初螢」と御命名下さいました。この句集には最終的に三三八句を収めました。 「あとがき」を紹介した。30年の句歴が結実した第1句集である。 本句集の装丁は、君嶋真理子さん。 青が涼やかで「螢」がある句集名に効果的である。 タイトルは金箔押し。 表紙。 色は中国の伝統色で言うところの瑠璃色。瑠璃金剛いんこの背の羽の色とも。 見返し。 扉。 栞紐は表紙とおなじ色。 「もの静かで慎みふかいお人柄」の著者をよく表している清々しい仕上がりとなった。 装丁に「引き」があるのが、わたしは好きである。 声かけて妻にはあらず螢の夜 「螢の句」をたくさん詠んでこられたという大隅三虎さんである。それゆにえ賜った句集名も「初螢」。わたしもその著者の思いを尊重して、この一句を選んでみた。妻でない人と気づいたときにひろがる深い闇。こういうことも「螢の夜」だったら充分おこりうるし、許される。句の背後にある余韻が艶めかしい匂いをはなつ。 今日はあたたかな一日となるということで、わたしは冬の重いコートをやめて、ちょっと長目カーディガン風のコートをはおった。もう15年以上も前に買ったマルタン・マルジェラのもの。 ヘンなコートなので、必ずと言っていいほど、「これってどうなってんの?」と聞かれるヤツ。 着る人が着ればスタイリッシュに見えるかもしれないが、わたしが着るとただのヘンなコートである。 さてと、 そのヘンなコートを着て、 帰るか。。。
by fragie777
| 2018-03-01 20:22
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