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1月30日(水) 雞始乳(にわとりはじめてとやにつく) 旧暦12月14日
冬の空はことさら青い。 今日の72候は、雞始乳(にわとりはじめてとやにつく)である。「季節のこよみ」によると、 春の到来を感じた鶏が、卵を生み始める時期とされます。鶏は鳴いて夜明けを知らせるため、日本でも古来、神や悪霊が来往する夜と人間が活動する昼との境目を告げる霊鳥と見なされてきました。「天の岩屋戸神話」でも岩屋に隠れた太陽神・天照大神(あまてらすおおみかみ)を外に連れ出すのに一役買っており、太陽再生信仰との結びつきが見られます。このうようなことからも、鶏は、長く暗い冬の終わりと春の到来を期するにふさわしい動物といえるのではないでしょうか。 国立・谷保天神の鶏。 彼等(彼女等)も春を待ち望んでいることだろう。 新刊紹介をしたい。 46判変型(104㎜×147㎜)フランス装 168頁(巻末に別丁がつく) 著者の涌井ひろみ(わくい・ひろみ)さんは、1956年東京生れの東京練馬区在住、現在は女子中学高等学校で音楽をおしえておられる。短歌は、東京新聞の短歌欄に投稿することから始めた。本歌集には2005年から2017年までの作品を収録。東京新聞の短歌欄の佐佐木幸綱氏による入選が100首になったのを機に歌集の上梓を思い立ち、「再スタートの気持で歌集としてまとめました」と「あとがき」にある。 音楽は過去の素晴らしい作品を再現する芸術でもありますが、短歌には器の中で自分の世界を創り出すという別の強い喜びを見出したのかもしれません。歌を始める時「先ずは好きな植物や日常を土台にしよう」と自分に課しましたが、今百首を並べるとその世界の狭さにうなだれます。 この間短歌の講座で三年間栗木京子氏に添削をお願いし、日本中で開催される短歌大会に行けば歌人の方達のお話も伺えると、できるだけ動きました。百首の他、各地に出かけた想い出の歌の中から十三首、さらにテーマ毎に詠ってみようと試みた五十首、三十首、十五首が五つの二百六十八首をのせました。 「あとがき」を紹介した。 点眼はかなしき習(なら)慣ひ君が目に毎朝おとす碧(みどり)のしづく タイトルとなった短歌である。 本歌集には「碧のしづく」が象徴する清冽なひとすじの詩情がつらぬかれている。 それは岩をも砕くような激しいまでの清冽さと言ってもよい。 また、 ありふれた日々の想ひを一瞬に更新していく言葉のちから この「言葉のちから」を信じる著者である。そして、生きてきた時間をとおして著者の体内に醸成されたものが、短歌形式によって濾過され結晶し宝石のようにかがやく言葉となって生み出されていく。 この作者の体内にあるものはたっぷりと豊かである。 蓄積が濁ることなく、瑞瑞しい言葉となって生み出された。 帰りきて旅路の鈴は鳴りやまずあいるらんどの書物にあそぶ おほてらとよみし八一もここにてをさいばんのひにはしらぬくもる フクシマと姿を変へしふるさとよ山は青しと歌ひつづける ヒロシマを季語にとぢこめあんをんたりき今ぱつくりと傷口ひらく バルテュスの少女の足は雨ふくむ欅木のごと今なほのびる とりたちよここには森がありました生死行き交ふ春の夕暮れ 「モルダウ」をくちずさみつつ教室を出てゆく子らに川風のふく 哀しみをかかへて生きる人々のかぶる帽子が見える朝あり 二〇一五年の「オペ日和」以降は夫の手術、闘病と重なっていきます。歌は私の縦糸で毎日を支えてくれましたが、夫という横糸との両方で私達の年月が織られてきたことを今痛感し、ラインでのわずかなやりとりを共に編むことに致しました。「碧のしづく」の題は百首の中で夫が大事にしてくれていた一首からとりました。 ふたたび「あとがき」より。 本歌集には、別丁の頁が巻末に付けられている。 癌が再発し闘病をされているご夫君とのラインでのやりとりをそのまま再現したものである。 やがてご夫君は長野のホスピスへ入院され、離れて暮らす著者との会話はラインである。 その一部始終が記されている。 本歌集の担当はPさん。 Pさんの好きな作品を紹介したい。 くるりんと束ねたる髪ほぐす朝うなじ涼しく木犀香る 金木犀咲きそむる日は透きとほおり遠き過去より琴の音きこゆ 駆けしのちほてり残れる首すぢをかき抱く時馬は樹となる 指先のチョークにまじる淡き色今朝がた摘みしバジルのみどり やはらかな響きでくるむ夏掛けをくんとはねのく新しき足 オペ日和あるとしなたら冬晴れの小鳥さへづる今日かもしれぬ 野を渡る風はりんごの匂ひして私の中の少女あらはる 山みればあなたを思ひ山みれば今日がその日でなきこと祈る 寝る前に青菜をゆがく湯気の中「大丈夫かい」となつかしき聲 韻律が美しいことも、著者が音楽を専攻されていることと無関係ではないと思う。 眼と耳が研ぎ澄まされている。 澄んだ天空に一瞬美しいバイオリンの旋律がはしる。 そんな緊張感がつらぬく歌集である。 また、一瞬一瞬をいかに大切にしながら生きておられる著者であるかが、作品を通してせつせつと伝わってくる。 本歌集の装丁は和兎さん。 フランス装の小さな歌集である。 題簽は二瓶里美さん、装画は、石原葉子さん。 ともに涌井ひろみさんのお知り合いである。 扉。 キラキラとした思い出のつまった宝石箱のようである。 読みなほす本のヒロイン若きまま年ふりつもり花眼の我居り この一首はすごくわかる。 ホントにその通り、である。 ヒロインは若きまま、そしてわたしも「花眼」である。 でもね、眼は「花眼」であってもこころはちっとも古くなってないって、思う。 「赤毛のアン」や「若草物語」を読んでも、すぐに乙女に変身してしまう自分がいるのだ。 ギルバート・ブライスは相変わらず私の心をウルウルとさせてくれるのだから。 涌井さんもきっと、そうなのでは。。。
by fragie777
| 2018-01-30 20:22
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