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12月21日(木) 納めの大師 旧暦11月4日
白山茶花。 昨夜は、夕食を外ですませワインを飲んでしまったので、車をおいて家にもどることにした。 ほろ酔いで夜の道を歩くのも悪くない。 寒い夜道を自分の靴音を聞きながら歩く。 身体全体が寒気に呼応して透きとおっていくようなそんな感じが好き。 で、 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装グラシン巻き 172頁 著者の押尾きよ美(おしお・きよみ)さんは、1936年山梨県生まれ、東京都中野区在住。2000年「青山」入会、2004年「青山」同人、俳人協会会員。本句集は2000年から2017年までの作品を収録した第1句集である。序文は山崎ひさを主宰が寄せておられる。 「押尾きよ美さんの俳句入門は、平成十二年のことである。その時六十三歳、どちらかと言えば少しく遅い俳句入門である。」という序文ではじまるように押尾きよ美さんは、還暦をすぎてからの俳句の出発だった。「主として身辺諷詠を軸に、ひたすら研鑽の日々を重ねて来られた。句集『百の椿』は、その集大成である。」と山崎主宰は記し、俳句をとりあげ鑑賞をしながら押尾きよ美さんの今日までの生活の日々に丹念に触れられている。いくつかを紹介したい。 母よりの擂粉木いまも木の芽和 (平12) 句集冒頭の句である。きよ美さんは、岳麓山梨の地に生まれ、育った。四人姉妹の二番目である。両親の膝下に在って何不自由なく慈しみ、育てられた。母の代から使いこんだ擂粉木なのか、それとも結婚して一家を構えた時、母から贈られた擂粉木なのか。以来何十年も経た今もそのまま使い続けている。あるいは少しく短か目になっているのかもしれない。手にするにつけ、在りし日の母のことがそぞろに懐しく、偲ばれるのである。 佳き知らせ告げつつ父の墓洗ふ (平21) 作者は、この年秋、俳人協会の全国俳句大会において「百歳の父と御慶を交はしけり」の句をもって秀逸賞を受賞された。掲句の「佳き知らせ」はそのことを指しているのであろう。そして百歳の父上はこの年三月十五日に逝去された。大会のあと、父の墓前に佳き知らせを告げるきよ美さんである。 山茶花や書斎は在りし日のままに (平27) 亡きご主人の書斎である。亡くなった今も書斎は何もかもそっくりそのまま在りし日のままにされている。机の上にはペンも、カレンダーも、すべてかつての日のままなのである。庭には生前故人がことさら好みとしていた山茶花の花が咲いている。通じて亡夫追慕の心根をしみじみと味わいとることができる。 本句集を読んでいくと、その身辺諷詠を通して押尾きよ美さんの人生の軌跡にいつの間にか読み手も心をそわせていくことになる。百年も経ったご実家、亡き母への思い、四人姉妹のために椿を植えてくれた父、その父と母は繰り返し俳句に詠まれている。父亡き後、お姉さまがそのご実家を守っておられたがやがてその実家も解体することになる。病身の夫の介護、夫との別れ、俳句はまさに日記となって、押尾きよ美さんの人生を刻印していく。 「椿」を思うときは常に父の姿とかさなる。 父看取る庭に白玉椿かな 喪の庭に百の椿の落ちにけり 「百の椿」という句集名には、行く度との父とのゆるがせにできない思い出が籠められている。 本句集の担当は文己さん。文己さんの好きな句は、 母の日や母の墓訪ふ四姉妹 雛あられ掌に受く雛の客として 新藁の日の温もりを束ねけり ベビー靴掌にのせ春を待つ 亡き父の庭下駄ありぬ月朧 屋上に持ち出す月の椅子二つ まだ出来ず白詰草の首飾り 画数の良き名と云はれ桃の花 木の実踏む小さき歩幅となりにけり 蘇鉄咲く信号のなき島の道 銀座首夏ショーウィンドーに白連ね 亡き父の庭下駄ありぬ月朧 本句集には父恋の句が多い。素晴らしいお父さまだったのだろうと思う。月明かりにぼおーっとに照らされた古びた庭下駄。その庭下駄を詠んだだけなのに、著者の父恋の切々とした気持がこちら側に伝わってくる。その庭下駄を見つめながら、父の姿をおってしばらくを佇む著者の姿が彷彿としてくる。著者もまた柔らかな月明かりに照らされて。 表札に遺る父の字白椿 わたしはこの父恋の句も好きである。「白椿」がいい。達筆なお父さまが自ら書かれた表札の字。押尾きよ美さんは、家のいたるところに父の面影を見いだす。存在感のあった父である。「白椿」が思い出を浄化し、端正で清廉な父を語っている。 父との会話の中で、四人姉妹が生まれた時、それぞれ庭に椿を植えてくれたとのことを思い出しました。俳句を学び、改めて父の思いの深さを知り、句集名を「百の椿」と致しました。拙い句集ではございますが私の宝物となりました。 「あとがき」である。 姉妹それぞれのために植えられた椿。 父の愛を椿をとおして与えたお父さまである。 こんなお父さまの思い出をもつ娘は幸せである。なかなかこういう思い出は誰にでも与えられるものではない。 自分のために、庭に椿を記念に植えるなんて、それも四人の姉妹、それぞれがすべて異なる椿であったということ。 いやはやなんとも素敵すぎるお父上であったと思う。 本句集の装釘は、君嶋真理子さん。 「椿はむずかしいですよねえ」と言いながらも、君嶋さんは果敢に装釘にとりくんだ。 華やかな装釘であるが、グラシン(薄紙)でくるまれているので、どこか奥ゆかしい。 カバーをはずした表紙。 見返しは淡いピンク。 扉。 題簽は山崎ひさを主宰によるもの。 天アンカットで。 百年の家に咲いていた椿をたたえるにふさわしい出来上がりとなった。 著者の押尾きよ美さんよりは喜びのお電話をいただいたのだった。 百年の家を守り来し蟇 お父さま亡きあと、お姉さまが守ってこられた百年のご実家も解体されることになった。〈礎石のみ残りし生家春の雪〉という句がすこし前にある。家が壊されたあとに佇っていたら大きな蟇がのっそりと現れた。蟇とは、まことに百年の家にふさわしい守り神である。宮崎駿のアニメに出てきそうである。人間のことばをしゃべりそう。幸せな百年の家だったのだ。
by fragie777
| 2017-12-21 20:06
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