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12月1日(金) 旧暦10月14日
冬の川。 今日から12月。 さきほど11月のままだったカレンダーをわたしは力をこめてビリリと破いた。 品切れだった『山田弘子全句集』 の電子書籍版の配信がはじまった。 本句集は、好評のため刊行してより間をおかず品切れになってしまったものである。 買いそびれた方は、是非にご購入くださいませ。 最近のわたしはベッドの中ではiPhoneで電子書籍を読むことが多い。 軽くてコンパクトなだけでなく、電気などの明かりが要らないのもいい。(要するに真っ暗な中で読めるのだ) 眠くなったらポチっとiPhoneの電源を落とすだけである。 (時として眠くなってしまい、iPhoneが顔の上にボゴッと落っこちてくることがあるが、大して痛くはない) もちろん紙の本も読む。 紙の本で愛読していたものを電子書籍で購入して読むことも多い。 先日ご来社くださった俳人の山田佳乃さんに購入した本の一部を覗かれてしまった。 「yamaokaさんも、俳句の本よりはそうでない本を読んでるんですねえ」と佳乃さんがクスって笑う。 ということは、どうやら、山田佳乃さんもそうらしい。 (もちろん、ふらんす堂の電子書籍は購入しております。) それからひとしきり電子書籍の話となったのだった。 新刊紹介をしたい。 四六判ハードカバー装。236頁 著者の野一色容子(のいしき・ようこ)さんは、1947年東京生まれ、現在は横浜市在住。1979年に「塔短歌会」(高安国世主宰)に入会、1994年「五〇番短歌会」入会、2003年から2013年の終刊まで同人誌「開放区」所属、現在は「五〇番短歌会」「十月会」「横浜歌人会」「現代歌人協会」に所属しておられる。本歌集は、第3歌集となる。 これは、第二歌集『二月生まれの三月ウサギ』(二〇一〇年)以来、七年ぶりの第三歌集です。 二〇〇九年の暮れに自宅を転居しましたが、転居の準備期間の作品も収録してあります。 したがって、内容的に、私の六十代の大半を含む歌集となっています。 「あとがき」を紹介した。タイトルの「自堕落補陀落」は、次の二首によるとある。 これからは生き切ることが目的と言ふ奴をりて面白からず ミルクティ飲みつつ言ふかごもつとも わたしは自堕落補陀落でゆく 本集の後半には、「自堕落補陀落」の項目もあってこの2首をふくむ11首が収録されているが、わたしは面白く読んだ。著者の興味と生きることのスタイルのようなものが垣間見える。 いくつかを紹介したい。 謹厳なるアウグストゥスはむら食ひにてパンと葡萄で過ぐす日ありと 白けれどなかなか切れぬ例ふれば蒟蒻(こんにやく)めきてゆめの豆腐は 畳にてひくく住まふを良しとせりパンの塩味(しほみ)もいつか疎みて 新宮市(しんぐう)の赤の他人の懇願を電話に受けてふみ書くわれは 冷えてゐるサランラップがなぜかあるわが王国のわが冷蔵庫 心切(しんせつ)と書く小説に驚きは和水仙の香をかぐごとし 著者の身辺のささやかなことを短歌という切り口でもう一度見つめ直している。最初の2首などは批評性を籠めて詠われたものだ。「冷えてゐるサランラップ」の歌など、わたしは好きである。 新しい住まいであるマンションの最上階に移ってからは、ここが夫と私の終の住処という思いがしております。 転居以来、国内外をあちこち旅行しました。旅の思い出は、散文として残すことが多く、旅行詠の数はさほどありませんが、日常詠の延長のような感じで生まれたものを収録しています。 日常詠はかなり削り、残したいものを改作しました。 日常詠、連作、旅行詠の構成による歌集『自堕落補陀落』をお読みいただけましたら幸いでございます。 ふたたび「あとがき」を紹介した。著者はかなり意欲的に旅をしている。歌集の終わりの方は、西インドの作品も多く、佛教への傾斜を予感させるものがある。歌集名となった「自堕落補堕落」の「補堕落」は、観世音菩薩が住む山のことであるらしい。作品が観念的になっていないのは、歌人・野一色容子さんが日常の足場を大事にしているからだと思う。 本歌集の担当は、文己さん。 初日の出海が撮れたと老少年 神戸の丘にふね数へゐき 千年の樹齢に満たぬは小杉といふ島のじかんは樹木で計る ならんでゐる新生児ほら欠伸するあの子もきのふ満月のころ 地震ありて立てなくなりし観音をまもるみ寺に紫木蓮咲く どのお茶もおいしく淹るるひととゐて弥生三月けふはチャイなり 街を抜け人里をぬけ流星のこよひ降るなる山へと急ぐ 「サボテンにひとり娘のやうな花」われのことかと亡き父おもふ 梨色のマンゴー色の柿色の月に祈りし恋のことなど 濃き甘き指先ほどのわが苺そらから見つけるおまへに譲る 働きのかそけきものを愛でたりき四季折々のたとへば箸置き 冷えてゐるサランラップがなぜかあるわが王国のわが冷蔵庫 文己さんも「冷えたサランラップ」の歌をあげている。「働きのかそけきものを愛でたりき四季折々のたとへば箸置き」はわたしも好きな歌だ。 ほかに、 サーファーの大工と無口の大工ゐてラジオはをんなの早口ながす 片耳におく鉛筆の削り癖それぞれありて建具屋 経師屋(きゃうじや) そのうちに木はいい色になりますよそのうちと言ふ大工の気長 木屑(きくづ)積むラジオ提げ来てまたもとの寡黙にもどるけさの大工は 「削り癖」と題した連作であるが、面白く読んだ。大工さんってこういうものかもしれない。 本集の装釘は君嶋真理子さん。 「自堕落補堕落」というタイトルの響きは、どこかおっとりとしていて、のどかな感じがある。しかし著者のひそやかな思いも籠められている。 君嶋さんは、それを波をモチーフにしてデザイン化した。 タイトルはプラチナ箔。 銀色にみえるがやや黄味がかっている。 表紙のクロスは白。 青のメタル箔が美しい。 波模様はこの歌集に格調を与えている。 花布は青。 青と白が基調色である。 6文字の漢字表記のタイトルをうまく活かし、古風さと現代性がミックスした一冊となった。 線が丸。結べば紐の不思議さよひとりあそびす人間の子は 遊んでいる子どもを詠んだ一首だ。 紐の不思議さのみならず、人間というものの不思議さを見つめている著者がいる。 好きな一首である。
by fragie777
| 2017-12-01 20:19
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