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11月22日(水) 小雪(しょうせつ) 旧暦10月5日
水漬き落葉。 というような言い方があるのだろうか。 小雪とは、まだ本格的な寒さには至らず、ちょっとした雪の意としての「小雪」であるということだ。 さっそくに新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装 202頁 著者の同前悠久子(どうまえ・ゆくこ)さんは、1936年愛媛県八幡市生まれ、現在愛知県岡崎市在住。1979年の「琅玕」「狩」入会を経てより、1997年にホームページを開設しそこに俳句と短文の掲載をはじめる。「狩」退会後2006年「ににん」に入会し、現在「ににん」に所属。本句集は1979年から2017年までの作品を収録した第1句集となる。「序に代えて」を岩淵喜代子代表が寄せている。 毛糸編む膝一面の海の色 秋の虹見たくて芝を踏む素足 あぢさゐの疲れわたしの疲れかな 春愁を洗ひ流すと米を研ぐ 春闘の句を詠みし兄思ひをり カーテンの揺れはトレモロ冬館 わたくしに何を成せとふ残暑なほ 悠久子さんが「ににん」に参加するようになったのは、略歴によれば二〇〇六年、清水哲男さんの「増殖する俳句歳時記」の祝賀会の頃だった。初めての「ににん」への投稿を拝見したとき、日常の起伏をすんなり十七文字に託す伸びやかさがいいな、と思った記憶がある。 五万石踊りに手足あふれけり この一句は、悠久子さんの代表句になることだろう。それのみならず、踊りの句としての風格もこれまでの幾多の句と比較して秀逸である。五万石踊りとは、三河国岡崎藩を称えた踊りである。五万石につづく〈手足あふれけり〉は踊りの豪勢さを醸し出した。 これからも次の句集を作ることを目標にしながら、俳句を楽しんでいただきたいと思っている。 「序に代えて」より紹介した。 本句集は、著者の同前悠久子さんのこだわりが各所に活かされている。五つの章に分かれているのだが、各章の扉は、同前さんの写真とそこに綴られた俳句で飾られている。 五葉の写真はどれもお気に入りのものである。 いくつかを紹介したい。 写真の解像度があまり高くなかったので、仕上がりを心配したのだが予想以上に鮮明にしあがって本句集の素敵なアクセントになっている。これらの写真は、ご自身のホームページ上で紹介しているものである。 「ににん」に入れて頂いたのは、俳句を始めて三十年が過ぎる頃だった。実は「ににん」に入る前の十年間の句はこの句集には入れていない。その間、私は結社に属しないでホームページを持ち、そこへ自由に俳句を書き、それにコメントを添えることを心から楽しんでいたのだ。 楽しみながらあっという間に十年が過ぎていた。ネット句会に入ったりもしたし、お仲間も多くなっていたけれど、このままでいいのかしら、そんな思いが生じた頃に「ににん」を知り、入会をお願いし、以前とは少し違う態度で投句させて頂いたと思っている。姿勢が崩れないようにご指導頂けたと感謝している。 「あとがき」の言葉である。 同前悠久子さんは、音楽や写真や察するところ豊かな趣味をたくさんお持ちのようである。あくせくなさらずに人生を楽しんでおられるそんなゆったりとした気配が作品から感じられる。 本句集の担当は文己さん。 犬の仔のかくれてしまふ草の花 ふるさともおんなじ二人蜜柑むく捩花の捩れる様の素直なる 極月の三角形の麵麭まろき麵麭 含羞草撫でて育てる幼き子 繭玉や少女の夢を揺らしつつ 今日もまた沙羅のつぼみを確かめた 万札を吐き出す初夏のATM 海の日に船出をすると決めてをり 星涼し母の微笑み想ふとき 文己さんの好きな句を紹介した。 新婚の貧しさ眩し冬の湖 これはわたしの好きな句。兼題「貧」でつくられた一句とある。「眩し」という言葉がなかったら寒々しい景となっていたかもしれない。「眩し」で俄然生気がみなぎった。「冬の湖」で貧しさがさらにかがやく。 石菖や数寄屋門仏蘭西料理店 季語は「石菖」。別名いしあやめ。地味な渋い植物だ。数寄屋門造りのフランス料理店に植えられていたのか、店主の粋なこだわりがつたわってくるような一句だ。「や」以外はすべて漢字表記、しかも石菖という小さな植物が、中七下五の大きな景と緊張関係を保っている。「石菖」という字体の堅さも存在感がある。 今、私は、振り返る、ということに素直になっているようである。 ここまで来て句集を作るようになり、どこか戸惑いながら準備に入った。ある形が見えて来たら、何十年も前の自分がすぐそこに居るようでうれしさを覚えている。自分だけではなく家族や近しい人々とも、風景や事物とも会えるのである。やはり作りつづけてよかった。(略) 自身の句集を出すことはあまり考えなかったけれど、今こうして「あとがき」を書きながら、機会に恵まれたことを心から嬉しく思っている。「ににん」では兼題句を提出することになっているが、本句集では、一連の兼題句の中での並びはそのままとして掲載した。 「あとがき」を再び紹介した。 著者の同前さんは担当の文己さんに何度もお電話をくださって、句集をつくって良かったとおっしゃっておられた。 装釘は君嶋真理子さん。 同前さんのご希望を徹底的にかたちにしたものとなった。 鮮やかなブルーグリーンと桜を思わせるピンク。 字体にもこだわられた。 タイトルのフォントもふらんす堂では始めて使うものだ。 見返しは桜色。 扉は碧青。 緑青の屋根に枝垂れの桜映ゆ 句集名となった一句である。 この一句をイメージ化したものが本句集の装釘となった。 同前悠久子さんは、とても満足してくださったことが嬉しい。 明るさや枇杷の花咲く気配して 枇杷の花ってこんな感じだ。気配で気づかせる花である。かなり地味な花なので、行き過ぎてしまいそうになるのだが、「あっ、咲いてる」って思わずふり返るとやっぱりちゃんと咲いている。そんな地味などちらかというと暗さを感じさせるような花だが、この「明るさや」という措辞がすごくいい。枇杷の開花をやさしくいざなうようで、きっと同前さんは、枇杷の花がお好きなんだろうって思った。 回覧版拭いて手渡す時雨かな 岩田由美 回覧板を隣りへ持ってゆく間にしぐれた。これぞ、まさに時雨だ。句集『雲なつかし』(ふらんす堂)から。 先日、京都・岩倉の妙満寺で句会をしたおり、会が終わって外へ出ると敷石がぬれ、月光に光っていた。時雨だった。ついさっき、さっと時雨が走ったのであった。 葱畑人が居らねば歌ふなり 岩田由美 句集『雲なつかし』(ふらんす堂)から引いた。青い葱畑に沿った道を通る時、人がいなかったら鼻歌が出てくるのだろう。この気分、分かるなあ。私はかつて京都の九条葱の道をよく歩いたが、やはり歌いたくなった。もしかしたら、葱たちも人のいないときには歌っているのかも。葱を買ってすき焼きでもしたい気分だ。 わたしは葱が大好き。野菜のなかで一番好きかもしれない。 今日の夕食は鍋にするつもり。 葱は冷蔵庫にたんとある。 冷蔵庫から出して、薄皮を剥いて、洗って俎の上にのせる。 そのとき、 きっとわたしも歌を歌うだろう。 何を歌うかって、それは内緒。 すごい音痴なんだもん。
by fragie777
| 2017-11-22 19:56
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