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9月26日(火) 旧暦8月7日
歩いて出社。 歩くのはとても気持いい季節である。 白薔薇を咲かせている家があった。 薔薇を育てて咲かせるなんてわたしの人生にはないけど、こうやって他所の家の薔薇を眺めることができる人生は素晴らしい。 新刊紹介をしたい。 四六判ソフトカバー装 クーターバインディング製本 180頁。 俳人・日原傳(ひはら・つたえ)の第4句集である。第3句集『此君』(2008年刊)では第32回俳人協会賞を受賞されている。平成20年(2008)から2017年までの作品を収録。日原傳さんは、昭和34年(1959)年山梨県生まれ、東大学生俳句会に入会し、小佐田哲男、有馬朗人、山口青邨の指導を受ける。現在は「天為」同人・編集顧問。大学で中国文学を教えておられる。漢詩も作られると伺っている。 句集名の「燕京」は北京の異称。平成二十三年の四月から一年間、交換研究員として北京大学構内の勺園五号楼という宿舎で暮らした。小さな子どもがいたため、旅には出ず、妻子とともに大学構内でひっそりと過ごした。その一年間の生活が、もっとも強く記憶に残っている。句集名を「燕京」とした所以である。第Ⅲ章はその北京滞在詠で構成した。 「あとがき」を紹介したが、「平成二十三年の四月から」とあるが、この年の3月に東北大震災があり、その直後の渡航となったのである。ちょうどこの同じ年に日原さんは、ホームページ連載の「素十の一句」をお願いしており、震災、渡航、留学の年と重なり大変な状況のなかで連載を続けていただいたのだった。そのような状況にもかかわらず、『素十の一句」は充実した内容で、素十を学ぶには格好の一書として人気がある。わたしも愛読者の一人である。 本句集『燕京』は、軸足のぶれない落ちついた詠みぶりと清涼のまなざしがつらぬく句集だ。(こういうまなざしにはなかなか出会えない) 好きな句はたくさんあって紹介しきれないほど。 いくつか紹介したい。 新しき鯉を入れたる雪解水 縄跳びやときどき見ゆる縄の色 地の果てに売る鮟鱇のうらおもて 秋燕沙漠に影を流しけり 狐火を語り講義の終りけり 鬼となるべく節分の帰路の星 そのかみの燕の都のすみれかな 夏燕湧くごとく又降るごとく 初蝶は黄なり法隆寺の方へ 蝌蚪の押す木片やがて廻りだす 雪解川小学校の灯りたる 花冷の手を差し出して別れけり ゆるやかに踊る山河のやさしさに すぐ泣く子すぐ笑ひだす福寿草 剪定の一人一人の脚立かな 鯉跳ねて祭の人を驚かす はんざきは手足幼きままに老ゆ 靴紐をはじめて結ぶ端午かな 花の山熊の剝製見てゆけと 学校のしづかに螢袋かな この助詞の「に」に立ち止まってしまう。この「に」が一句におおいなる時空を呼び込んでいる。静かな時にという時間をしめす「に」であり、「静かな場所にという「に」でもある。「学校」という堅牢な大きな建物と「螢袋」という小さな可憐な植物との対比も面白い。そして学校は人間をたくさん入れることのできる大きな器、螢袋もまた「袋」と記されるようにひっそりとなにかが入っているような気配をみせる。学校は遠景に小さくなっていき、螢袋の大きさが残る不思議な一句である。 暑きゆゑ少しおろかに暮しをり 細見綾子の句に「暑き故ものをきちんと並べをる」という句をがあるが、この日原さんの句にふれたとき多くの人はきっと細見綾子の句を思い出したのではないだろうか。この句は細見綾子の句とは反対の趣がある。きちんと並べるのではなく、「少しおろかに暮ら」すという。おろかに暮らすって具体的にどういうことなのか、それは人それぞれであるけれど、わたしが思うに作者の日原傳さんは日ごろはきっちりした生活をしておられる方なんだろうと思う。「おろか」は「疎か」の意味であるとすれば、いつもよりすこし大雑把に手抜きで暮らすという意味、「おろか」が「愚か」の意味であるとすれば、しかしおよそ学者さんである日原さんには考えられないがすこし痴呆的におちゃらけて暮らす(いったいどんな)という意味、いずれにしても「疎か」を語源とするらしいから、まあ、適当にやろうよっていうことかなあ。わたしなどは常におろかに暮らしているので、(日々夜寝るときに反省する。もっとどうにかならないかって)暑くても寒くても愚かさは変わらないが、やはりきちんとされている作者であるからこそ、「少しおろかに」が意味をもってくる。こういう風に言える人に憧れてしまうyamaokaである。 本句集の装丁は、和兎さん。 日原傳さんは装丁、造本、まったくのお任せしてくださった。 和兎さんと相談してクーターバインディング製本でいくことに決めた。 深緑が基調の色である。 タイトルはホットプレスによる押し。 裏から見るとこんなふう。 表紙は、深緑の用紙に文字は白インク。 見返しも同じ用紙。 扉。 文字は深緑。 クータ―バインディング製本はこうしてみると本当に美しい。 格を感じさせる清潔な一冊となった。 (こういう本がわたしは好き) 虫売の一夜の店をたたみけり 好きな一句である。虫の命もはかないが、虫売という商売もはかないものである。畳んでしまえば跡形も残らない。ともにはかない命運にあるもの同士のあわれさがのこる。そのあわれさも、虫の命の軽さのようにあわあわとしている。 虫といえば、わが家は目下草ボウボウなので、このところ虫の夜である。 虫の音に囲まれている。 今日も虫の家に帰るとするか。。。
by fragie777
| 2017-09-26 20:06
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