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7月5日(水) 旧暦閏5月12日
昨夜額装してもらい、雨の中をかかえて家に帰って飾ったアンドリュー・ワイエスの「Faraway」。 もちろん本物ではない。 本物は、板に描かれたテンペラ画らしい。 俳人の石田郷子さんのところに遊びにいくたびにいろいろな骨董品(山雀亭は骨董屋さんでもある)にまじって無造作にほうり置かれてあったもの。 絵のまえを通るたびに、この少年の眼差しを感じていたが、ある日この絵がなくなっていた。 「郷子さん、あの絵、ワイエスの絵、売れちゃったの?」と聞くと、「あるよ」って言って郷子さんが奥から取り出してきた。 「やっぱ買おうかな、おいくら」と聞けば「いいよ」と言う返事。「そんな欲のないことではダメよ。」「じゃ、500円」「ええっ、そんなんでいいの。」「いいんだよ、それで買ってきたんだから」ということで商談(?)成立。わたしは即金で500円を支払ったのだった。 仙川には素敵な額装をしてくれる画材屋さんがある。 そこで額装をお願いしたところ、昨日出来上がったというわけである。 木目を活かしたチャコールグレーの額が素敵でしょう。 もちろん(?)絵より額の方がやや高かった。 少年なんだろうか。 少女なんだろうか。 わたしは少年と思っていたが、少女でもいい。 ちなみに帽子は、「アライグマの毛皮」だそうである。 Pさんに聞いてみた。 「少年、それとも少女?どっちに見える?」 「わたしは狐のばけた少年だとおもった」とPさん。 なるほどそういう解釈もあるんだ!! この眼差しを毎日見られると思うとうれしい。 さて、新刊紹介をしたい。 俳人櫂未知子の第3句集である。前句集『蒙古斑』より17年ぶりの新句集だ。新句集にいたるまでの「思いのほかの長い年月」を「あとがき」に著者はこんな風に書く。 前の句集を出してから、思いのほか長い月日が過ぎた。途中、母の死をきっかけに句稿を何とかまとめたが、その二週間後に東日本大震災が起きてしまった。今思えば、あの震災は自分の作品を再び見つめ直すための厳しい機会だったのかもしれない。 著者のなかで十分に熟成されて生まれて来た第3句集である。 本句集には、すでに歳時記などにもとりあげられてわたしたちも良く知っている作品が多いことに驚く。 作者によって生み出された作品がすでに愛されて、自由に息をしてきたわけだが、句集に収録されることによって作品たちはもどるべき居場所を確保したわけである。住民権を得たというべきか。 しかし、わたしたちが良く知っている作品もこうして句集の中で並べられてみるとそれはまた新鮮に立ち上がってくる。 あらためて第3句集の上梓となったことを著者とともに喜びたいと思う。 本句集の担当はPさん。 一枚の香水を着て働けり 噴水やゆつくり湿る文庫本 働いてこの夕焼を賜りぬ いちじくの火口を覗く夜なりけり 道草とはたそがれやすき肉を持つ 帰心とは水引草にかがむこと 湯気立てて来世のやうに二人をり 桜蘂降るや未完の石だたみ 枇杷剥きてひとりの凪を取り戻す ハンカチを小さく使ふ人なりけり 正面のいつも決まらず風信子 夏料理水を食べたる心地せり 風死して充電すべきものばかり 簡単な体・簡単服の中 経験の多さうな白靴だこと イブノーシンセデスバファリン一葉忌 てのひらに既婚の匂ひ春の雨 一瞬にしてみな遺品雲の峰 はつふゆの猫にうつすら静電気 Pさんの好きな句をあげてもらった。 「青を紡ぐ句集、そんな印象を持ちました」とPさん。 「句集に句を収録するということは、手放す句もあるわけで、そのことが本当に大変なんだと思いました」とはPさんの感想である。 百合ひらき百合の夜空もひらきけり わたしはこの句に立ち止まった。「百合の夜空」で、百合の白さが決まった。そして深い青の夜空も見えてくる。汚れなき百合へのオマージュである。 ほかには、それはもうたくさん好きな句はあるが、そういう句は多くの読者をすでに獲得していると思う。 人工に膾炙している句も、そうでない句も含めて読者を飽きさせない句集であると思う。 この句集の『カムイ』という名は、いささか大げさに響くのだろうか。しかし、北海道余市の実家から車でそれほどかからない場所にある神威岬(かむいみさき)の、あらゆる人間を拒むような壮麗なたたずまいを、いつか句集のタイトルにしたいと私はずっと願ってきた。 「あとがき」を抜粋。櫂未知子さんは、北海道出身なのである。 本句集の装丁は、櫂未知子さんが所属する俳誌「銀化」主宰の中原道夫さん。 重厚にしてスタイリッシュな一冊となった。 「青をつむぐ句集」のごとく、表紙は目が覚めるような青。 カラ押しが面白い。 背は銀箔。 見返し。 扉。 銀刷りが本に厚みを加えている。 スピンはグレー。 フレキシブルバック製本である。 本文用紙は白。 「カムイ」という言葉のもつ神話的磁力をうしなうことなく、現代的にスマートにできあがった一冊となった。 おとうとの遠さにも似て冬銀河 目に海を孕んでをりぬ受験生 句集『カムイ』には、名句も好きな句もたくさんあるのでどれにしようかなと迷っていたのだが、今日のワイエスの絵を思った。 タイトルは「Faraway」(はるか彼方に)である。そう、この二句、一句のなかにたっぷりと「Faraway」があるではないか。 どうだろう。 この句にもやっぱり青がひそんでいる。
by fragie777
| 2017-07-05 19:31
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