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5月1日(月) 旧暦4月6日 5月である。 5月をむかえるにあたり、わたしは爪を切った。 足の爪も手の爪もきれいに切りそろえた。 さっ、これで5月をむかえましょ。という気持である。 昨日会った鳥居万由実さんが、オランダからの帰りに立ち寄ったというイタリアのシチリア島の写真をおくってくれた。 「海の色がなんともいいようのない青さで素晴らしかったんです」と鳥居さん。 実は昨日、iPhoneで見せてもらったのだが、小さくてしかもR眼鏡をわすれたものだから、よく分からなかったのだ。今日送ってもらった写真でそれは驚いた。 こんなに美しい海の色だとは。。。。 あーあ、シチリアにも行きたいなあ。 新刊紹介をしたい。 著者の折勝家鴨(おりかつ・あひる)さんは、昭和37年(1962)生まれ、横浜市在住の俳人である。平成15年(2003)「鷹」に入会し藤田湘子に師事、平成17年(2005)に小川軽舟に師事、平成20年(2008)「鷹」同人、平成24年(2012)「鷹新葉賞」を受賞されている。本句集は2003年から2016年までの13年間の作品を収録した第1句集である。序を小川軽舟主宰、跋を加藤静夫さんが寄せている。 小川主宰は、折勝家鴨さんの俳句を「エッジの利いた句」として評価する。 家鴨俳句は今風に言えばさりげなくエッジが利いている。私たちが今を生きる現代という時代と相性がよいのだ。 働く日数えてしだれざくらかな 山桜夜はきちんと真っ暗に 露の世や畑のなかのラブホテル 梅白し死者のログインパスワード クロッカス小指にできること少し 会社員霧のごとくにぶつかり来 流星や夜を覚えて泣く赤子 春の雲声出して今日明るくす 家鴨さんの五年前の出世作「梅白し死者のログインパスワード」はそういう来歴の家鴨さんらしい一句だと思う。ログインパスワードはコンピュータとインターネットの世界に入るための暗号。そこに遺留された膨大なデータは死者一人一人の世界観をなすが、パスワードがなければそれに触れることはもはやできない。「梅白し」に死者の遺した世界観に対する敬虔な気持ちが香るようだ。家鴨さんはこの年の作品で難関の鷹新葉賞を受賞した。(略)家鴨俳句は新仮名遣いを通してきた。「鷹」では圧倒的に少数派だ。「働く日数えて」は旧仮名なら「数へて」。しかし、これでは家鴨俳句らしくない。旧仮名は散文の言葉を俳句の言葉に異化する頼もしい武器だが、家鴨さんは最初からそれを捨てて、新仮名にふさわしい内容、すなわち現代にふさわしい内容を俳句に求めてきた。人事句に極端に偏るのもやむを得まい。だからこそエッジが利くのだ。あなたは旧仮名で楽をしてはいないかーーいつの間にか私のほうが𠮟咤されている気がする。 小川主宰の序文を抜粋して紹介した。 新仮名遣い表記の折勝さんは、人間のありようを俳句に仕立ててみせるときにエッジを利かす、つまり「家鴨俳句のエッジはさりげなく時代に切りつけてい」るものがあると。「エッジ」は「切っ先」であり「ツッコミ」でもあるのだろうか。なかなか意味深い折勝家鴨論である。 加藤静夫さんの跋文はふるっている。折勝さんへのツンデレの愛いっぱいのユーモラスなものだ。 この跋文を読めば、折勝さんの麗しい人となりとその俳句との関係性がよくわかる。素晴らしい跋文である。それはもう読んで貰うしかないので、わたしはホンの一部分を引用するにとどめる。 古き家の古き鏡や梅真白 平成十七年、武蔵小金井の江戸東京たてもの園での吟行句。この時のファッションはよく覚えていないが、作者「アヒル」と聞いて驚いた記憶がある。内容は古く、従来の俳句に擦り寄った感じはするが、まずは「型」をしっかり身に付けようという健気な姿勢に別人を見る思いがした。 モノと季語の取り合わせで俳句は無限の世界が広がる。自分を抑えて自分を表す。それが分かれば一歩前進。折勝家鴨も「型」の効用、季語の効果に手応えを感じたに違いない。 金魚死す海がざわざわしていたる さびしきもの水鉄砲と白き犬 平成二十三年、東日本大震災が起きる。俳人は俳句で復興の後押しをするしかない……、そんな無力感に襲われるなか、折勝家鴨は行動に打って出た。原発事故による立入禁止区域で保護された犬を里子として貰い受け、飼い主が現れるまで共に暮らすというのである。白い雑種で「ゆき」と名付けられた犬は淋しがり屋で夜になると「ヒーヒー」鳴いた。ベッドに連れて来ると、先住犬のトイプードル「ジーン」が嫉妬するので、玄関先で「ゆき」を抱きしめたまま一晩過ごすほかない。 私は猫派だから犬のことはともかく、折勝家鴨の人間味あふれる行動力には一目置かざるを得なかったのである。 雨傘のままの黙禱萩の花 この世去るときは秋日の当たる椅子 狗尾草屈んで人は淋しくなる 萩咲くや笑顔の母の近餓(ちかがつ)え まさかあの「アヒル」から「近餓(ちかがつ)え」という言葉が出て来るとは思わなかった。 「醜い家鴨の子」は白鳥となって飛び立ったというが、折勝家鴨はこの先どのように変身するのだろうか。更に「大化け」し「空の大怪獣・ラドン」になって、高層ビルを薙ぎ倒し大空高く翔け上がるのだろうか。 刮目して待ちたい……、というより怖いもの見たさというのが正直な気持ちである。 途中でクスクスいやゲラゲラと笑ってしまったりして(失礼)本当に楽しい跋文だった。 少年のように無垢でそして気むずかしくインテレクチュアルな(とわたしは勝手に思い込んでいるのだが)加藤静夫さんの心をこのようにがっつり掴んでしまうとは、さすが、「鷹」の事業部長さんとして皆さんから信頼されている折勝さんであることよ、いやいや「事業部長」という社会的な枠を超えて、なにやら人間の心をてなづける妖しい魔術を持っているのような気がするのだ、折勝さんは。。。わたしは数回しかお会いしたことのない方なのだけど、ううむ、何か匂う。。。とても明るい気さくな女性だけではないのだ。用心しなくては。 この句集の担当はPさん。 Pさんの好きな句を紹介したい。 ラ・フランス諦めること白に似て 十七歳年下の彼胡桃割る胡瓜揉み手に哀しみの残りけり はつあきの想いは時計回りかな 桐は実に奇数は次の数を待つ 読み止しの本は空向く原爆忌 指組んで死者となりたり稲の花 妹に雨の匂いや衣被 狗尾草屈んで人は淋しくなる 春きゃべつ軽くて情のなかりけり 大風のあくる日波波迦咲きにけり クレソンを噛みたる森のホテルかな 母のこと有耶無耶になる夜食かな 臘梅や水を掃きたる竹箒 アカシヤの花雨止んで耳熱し 声出して心戻しぬ草の花 シクラメン夫の早寝に後れを取る 泣くことの少なくなりぬ桷の花 我が家にパソコンがやってきたのが確か二十年ほど前。 そのとき名付けたハンドルネームがあひるであった。あのころのネット世界は素性をかくしての大人の遊びだったとおもう。そんな場所で全く偶然に俳句と出会うことになる。俳句の素養も知識もない私を鷹俳句会入会まで導いてくださったのが轍郁摩さん。その頃には声も顔も知らない四国のひとりの男性であった。 予備知識なく入会した鷹俳句会で初めて出席した新年会。藤田湘子先生はそれはそれはまぶしかった。 「来年は絶対に辞めている家鴨」と日記に記したのが加藤静夫さん。「ぼくもそう思いました」と小川軽舟主宰。私自身も未だに続けているのが噓のようなあっという間の十三年間であった。句集題名としたログインパスワードはネット世界に入る鍵のようなもの。 俳句を始めて本名ではなく俳号で呼ばれることで、ネットと同じ仮想空間を感じていたように思う。 季語も俳句の鍵かも知れぬ。その鍵を開けて中に入ると宇宙空間と同じような広がりを感じることが出来る。 俳句を詠むたびに鍵束に鍵が増え少しずつ宇宙が広がっていく、そんな感覚を大事にしていきたいと思う。 「あとがき」の言葉である。 本句集の装釘は和兎さん。 ご本人の希望によりドイツ装函入りの凝ったものとなった。 合紙にして裏に差し色の臙脂を配した。 表紙。 見返し。 凝った造本なのでなるべく材料は同じものを用いてうるさくならないようにというのは和兎さんの意向。 ドイツ装なのでシャープな仕上がり。 着ぶくれてジャングルジムのこちら側 わたしはこの句に立ち止まってしまった。 なにも語っていないようなぶっきらぼうな表現だ。それがまず面白い。しかししばらくこの句をみていると、ある不思議な世界が立ち上がってくる。着ぶくれた大人だろうか、そのまるまるとした体型と、ジャングルジムの線でつくられた立方体の集合の対比が眼に飛びこんでくる。しかも、「こちら側」である。「向こう側」があることを思わせ、ジャングルジムだから透けてみえるその向こう側の気配もたっぷりある。この着ぶくれ人間はこちら側で何をしているのだ。こちら側から手をかけて登ろうとしているのか、だが、この着ぶくれ人間は、子どもではないように思える。子どもなら「こちら側」などとあえて意識しないでずんずん登っていくだろう。この句の場合、着ぶくれ人間が、ジャングルジムのこちら側にいて、いささか自身をもてあましているようなそんな気配さえするのだ。意味なくジャングルジムのこちら側にいる、ただいるのだ。そんな不条理性さえも感じてしまうのだ。「着ぶくれ」ているからこそジャングルジムの「骨ぽっさ」が浮き立ってくる。こちら側にいるのはジャングルジムの檻に閉じ込められたがっている人間のようにも思えてくる。しかし、着ぶくれているのでジャングルジムに拒否されている。そんなふざけた解釈も許されるような。。。この句を不思議なものにしているのは「こちら側」である。 この折勝家鴨句集『ログインパスワード』は、昨日の4月30日の東京新聞「句の本」に紹介された。 インターネットで偶然、俳句と出合い「鷹」に飛びこんで13年、エッジの利いた句の数々。 女から男は生まれ春夕 梅白し死者のログインパスワード 萩咲くや笑顔の母の近餓(ちかがつ)え 本当に余談であるが、折勝家鴨さんのご本名がとてもカッコいいのだ。とくに氏が。 (わたしは好き) 興味のある方は略歴にあります。
by fragie777
| 2017-05-01 21:07
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Comments(2)
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