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4月27日(木) 旧暦4月2日
ご近所の桐朋学園では、もうシンボルの桐の花が咲き始めていた。 さて、新刊紹介をしたい。 著者の山中正己(やまなか・まさみ)さんは、1937年東京上野生まれ、現在は東京豊島区にお住まいの生まれも育ちも東京人である。1987年に俳誌「野の会」に入会、楠本憲吉、的野雄に師事。2002年から2009年まで「野の会」の編集長を務められた。現在は「野の会」と「船団」に所属しておられる。本句集は既刊の三句集『空想茶房』『キリンの眼』『地球のワルツ』より作品を抄出し、それ以後の五年間の作品を加え、第四句集『静かな時間』として刊行したものである。栞に、「野の会」の現主宰の鈴木明、「船団」代表の坪内稔典、「野の会」前主宰の的野雄の三氏が文章を寄せている。 三氏の栞文を抜粋して紹介したい。 まずは鈴木明氏。タイトルは「穏やかな総括」 考へる人考へぬボク棒アイス 隊列を離れたいボク蟻の列 日本国憲法九条さくら餅 このさきはボクのほそみち秋の風 対象の何処のあたりを把握するか、経験と決断力を作者は充分心得ている。 静かな時間をゆるぎなく積む俳句生活人、その真摯なよろこびや悲しみ、嘆きをこの短い定形詩に結晶させる歓喜をこの人は失うことはない。 俳句に関わる以前はまったく飲酒に遠かった、つまり下戸の著者が、悪い俳句仲間に囲まれて、ついに次の句を詠むに至った。 不確かな世に存へて燗の酒 そして坪内稔典氏。タイトルは「引き潮の力」 引き潮に力ありけりさくら散る この句集で私が一番魅かれたのはこのさくらの散る風景だ。高屋窓秋に「ちるさくら海あをければ海へちる」という傑作があるが、その句に並べて置くと、大自然の摂理みたいなものがありありと見える気がする。こんどのさくらの季節、私はどこかの海辺でさくらを見上げているだろう。この句集を携えて。 的野雄氏は、山中正己さんとの俳句を通しての出会いを語り、自選十句の鑑賞をされている。数句の鑑賞を紹介したい。 晩年の夢捨てざれば海市立つ 晩年の夢が「しんきろう」で立つのだ。 デボン紀の青を下さい五月の海 「デボン紀」は、とてつもなく古く、石炭紀以前のこと。想像もつかない「青」か。 嫌なことしない生活ところてん この句の軽妙さが独特と思う。「ところてん」が他に替え難い。 七十年撃たざる国の晩夏光 今次大戦後、憲法に定められたところ。しかし、北朝鮮はどう出るだろうか。 風邪癒えて耳に天与のヴァイオリン 子雀や誰も来ぬ日のフランスパン食パンに耳やはらかき半夏生 台風が来て少年の日がやつて来る 銀杏黄葉空想茶房の明るさよ 日焼けせぬ首細きこと若きこと 風鈴や耳の高さに風のみち 春あけぼの蠢くものに舌下錠 薄皮を剥ぐ清明のゆで卵 八月のソルティー・ドッグ夜の浮力 担当のPさんの好きな句を紹介した。 あとがきにあるように、三冊の既刊句集と以後五年間の作品をまとめ、第四句集『静かな時間』を三十年間の俳句生活の総括として出版された。題名は著者らしい穏やかな、しかしどこかに知的雰囲気をひそめた、いい集名である。 常にダンディでおしゃれな彼らしい簡明さと優しさでテーマのタテ糸、ヨコ糸を紡ぎはじめ、ある年齢に達した諦観と哀惜がそこかしこに散見された。 ふたたび鈴木明氏の栞文を引用するが、この句集をのありようよく語っていると思う。 都会に生きる知識人としての感慨をこめた五七五である。 玉子かけご飯が好きで風薫る モリカズの黄色い蟻が五、六匹 ぜいたくは素敵だ千疋屋のメロン 身にそなわっているユーモアの精神は、句にゆとりを生む。あくせくしない明るさが好きだ。 このさきはボクのほそみち秋の風 平和に慣れて久しいこの頃、なにやらきな臭い世の中の動きに怖れを抱きつつ、ささやかな日常をこれからも大切に詠んでいきたい。 ここまで「真剣な遊び、優雅なまこと」を続けられたことは、先生方、多くの仲間のお蔭と心から感謝している。有難うございました。 「あとがき」を紹介した。 本句集の装釘は和兎さん。 フランス装であるが、小さな本である。 どのくらい小さな本かといえば、 このくらい。 この大きさを著者の山中さんは望まれたのだ。 栞も本にあわせて小振りである。 扉。 ワイン色と金箔の文字が美しい。 ダンディでおしゃれな山中氏にふさわしいスマートな一冊となった。 栞で坪内さんが、カバンの中にこの句集をいれて持ち歩くことになると書かれていたが、カバンにいれて持ち歩くにはふさわしい大きさと軽さであると思いません? 坪内さん。 小さいけれども、句集の風格は十分にある一冊である。 泥葱を剥けばたぢろぐ白さかな 葱好きのわたしが絶対無視できない一句である。 泥葱から現れた葱の白さに匹敵する白さはこの地球上に存在するだろうか。 ない。 と断言したい。 わたしは、どんな白さも抗えないとおもっている。 そのまばゆい白さを「たじろぐ」と表現したところ、葱を創造した神さまの真意に適っている。 清浄無垢な白。 「ドンピシャであることよ」と神は微笑むであろう。 今日はお二人お客さまがいらっしゃった。 馬越泰子さんと、志摩角美さんである。 お二人は、深見けん二先生が指導される「昌平寺」の句会に参加されておられる俳句のお仲間だ。 今日は句集のご相談に見えられた。 馬越泰子さんは、七七歳をむかえるにあたり、これまでの句稿を整理されて小さな句集をお作りになりたいということ。すでに句稿を持ってご来社された。 タイトルも決められて、お母さまが描かれて絵をいれたいというご希望もある。 志摩角美さんは、「ホトトギス」と「桑海」の同人でいらっしゃる。 伺えば、なんと九九歳とのこと! 「白寿です」とにっこりされた。 「いつから俳句を作られているのですか」という質問には「戦前からです」と。 北海道で二〇代で俳句をはじめ、その後戦争で中国に行き、帰って終戦、就職、五〇歳までは結社を離れての生活だったが、俳句を手放すことはなく、ひとりノートに書き綴った日々であったということ。ふたたび俳句結社で俳句をつくるようになり今日に至ったのである。 「いま、息子が「ホトトギス」に発表したのを整理してくれているのです。それをもとに選句をして句集にしたいと思います。自分が生きて証を句集にまとめて子どもたちに残したいと思うようになりました」と志摩さん。 おふたりともすばらしい笑顔だ。 打ち合わせのあと、おふたりで武者小路実篤庭園に向かわれたのだった。 しかし、志摩さん、九九歳とはとても思えぬお元気さである。 一人暮らしをされていて、朝晩の食事からすべて家事はご自身でなさるということ。 「お家の前においしいうどん屋さんがあって、わたしはよくそこでご馳走になるんです」と馬越さん。 「句会は月四回出ております」と志摩さん。 「長寿の秘訣は」と伺うと、「よく寝ることです」と即答。 それにしてもお若い!!
by fragie777
| 2017-04-27 20:19
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Comments(2)
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蓬
at 2017-04-28 14:08
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ああ、ほんとうに「静かな時間」がそこに流れていますね。そう感じさせてくれる素敵な装釘です。
和兎さん、君嶋真理子さんともの頭の中には、いったいどれほどのイメージが詰まっているのでしょう。そして、それがそれぞれの俳句にぴったりと寄り添っている、その凄さに、毎回圧倒されています。
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fragie777 at 2017-04-28 19:38
蓬さま
お久しぶりですね。 コメントを有り難うございます。 そうおっしゃっていただくと、ブックデザイナーさんも励まされます。 ご当人たちは結構大変な思いをしながら頑張っております。 (yamaoka)
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