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4月24日(月) 旧暦3月28日
白はなかなか珍しい。 この花蘇芳の紅白を、昨日、満100歳をむかえられた後藤比奈夫先生に捧げたい。 比奈夫先生、100歳のお誕生日、まことにおめでとうございます。 さきほど比奈夫先生よりお電話をいただいたのだが、お誕生日の昨日はいろいろな方々にお祝いをされてお忙しかったご様子である。 「ご体調どうですか」と申し上げると、 「まっ、すごくいいというわけではありませんが」とお優しい声で言われる。 そして、そのあと、素敵なことをおっしゃって下さったのであるが、それはまだヒ・ミ・ツ。 100歳にしていよいよ自在に俳句をつくられている後藤比奈夫先生である。 その柔軟な句づくりは驚くべきである。 ますますのご健吟をお祈り申し上げたい。 新刊紹介をしたい。 著者の武井美代子さんは、昭和4年(1929)神奈川県茅ヶ崎市生まれ、横須賀市在住。今年米寿を迎えられる。昭和57年(1982)に「林」に入会し、小林康治に師事し俳句を始める。「林」「風土」を経て、現在は「万象」「一葦」に所属して俳句を続けられている。本句集は、昭和58年(1983)から平成28年(2016)までの33年間の作品を収録した第1句集である。序文を「一葦」編集長の中根美保さんが寄せている。 耳の辺にやはらかき日や雛飾る 彼岸花消しにきてゐる雨の音 本集のはじめに置かれた初学の頃の作品である。雛を飾るはなやぎやその頃の気候を、耳のあたりに差す日差しにより表現している。彼岸花の句は、移ろう時節を降る雨の音で捉えた。俳句という詩型の器を存分に生かした美代子さんの生来のセンスが窺える。 序文の初めの頃の文章である。中根美保さんは、武井美代子さんの俳句の軌跡を丁寧にたどって序文を書いておられる。作品をいくつか紹介したい。 水芭蕉ひとへの水に夕日射す 月の椅子ひとつ残して夫逝けり 葉生姜の雫をしつつ買はれける 冬瀧の一縷となりて暮れにけり 梅干してきらきら遠き海見ゆる 葦牙の切つ先はまだ水の中 美代子さんとは月に一度、「一葦」の日本橋句会でお会いしているが、休むことなく横須賀から日本橋まで通い、いつも最前列に座って熱心にメモを取る姿に感服させられる。本句集『あしかび』は、美代子さんが米寿を迎えることを一つの節目として上梓された。葦牙のみずみずしさ、萌え上がる力は、まさに美代子さんの俳句そのもの。これからどんな句の姿を見せてくれるのか、大いに期待したい。 序文をこう結んでおられる。 青梅のみな覚めてゐる雨の中 鮭を撲つ男の軍手あたらしき梅雨茸の空の昏さを負ひゐたる 花冷えや鏡にのこる指紋拭く 踏みしだく音耳に反り火事場跡 吊革に肘とがらせて年詰る 濯の手しばらく置きてほととぎす てのひらの雫良夜の大樹より 水のなき橋を提げゆく金魚かな 薄暑なる径のつまさき上りかな 座布団の日にふくらみて福寿草 三人が三人尻あげひじき刈る 葦の芽の切つ先はまだ水の中 はにかみの色を根つこに菠薐草 担当のPさんの好きな句である。 「花冷えやの句、鏡の指紋拭くって、よくわかりますねえ」とPさん。「耳の辺にやはらかき日や雛飾る」とか、「彼岸花消しにきてゐる雨の音」「踏みしだく音耳に反り火事場跡 」「濯の手しばらく置きてほととぎす 」とか、まだほかにもあるのだが、「聴覚を働かせた句が多いですよね」とやはりPさん。確かにそうだ。しかし、そんな鋭い聴覚をお持ちだった武井美代子さんであるが、晩年は聴覚障害者となられたのである。なんという悲しい出来事か。 晩年、聴力障害者となり、句会から遠のき俳句を諦めかけていた私に、島谷征良主宰「一葦」とのご縁があり、再び俳句と真向うこととなりました。島谷先生、中根美保先生のご教示を仰ぎ今日に至っております。 「あとがき」に書かれた一文である。聴覚障害者となられてもかつて聞いた鳥声や風や雨の音などなどあらゆる音が武井さんの記憶に残っておられることだろう。俳句をつくることによってより鋭敏であったものがさらに鍛えられた聴覚である。その記憶を呼び覚ますことは武井さんにとってそう難しいことではないはずだ。あとは、気持の問題だ。よき俳句のお仲間を得て、ふたたび俳句に向き合うこととなった武井美代子さんである。 そうしてこの第一句集を上梓されたのである。 出来上がった本句集を手にとられた武井美代子さん。その思いはさぞや、と。 本句集のフランス装の装釘は君嶋真理子さん。 「あしかび」という句集名である。 春の岸辺の葦の清冽なイメージがすっきりと表現された句集となった。 緑ともう一色は、かぎりなく黒に近い紫である。(黒ではない) それがこの句集をどこかはんなりとした印象にしている。 見返しは綺羅がはいった緑である。 こちらも薄緑と黒紫の色のとりあわせ。 米寿記念の上品なフランス装の句集となった。 武井美代子さま。 句集のご上梓おめでとうございます。 この小集を小林康治、滝沢伊代次両先生、そしてわが夫の霊に捧げたく存じます。 「あとがき」の言葉である。 秋蟬の落ちてひとつの音を生む ここにも「音」がある。作者の鋭敏な耳がとらえた音である。聞きのがしてしまうかもしれない音だ。いったいどんな音だったのだろう。乾いた音、あるいはすこし湿った音か、いろいろと想像を働かせる。が、やがて、それは死んでゆくものの音だと気づく。魂のぬけがらとなって落ちてきた蟬の身体が地球にぶつかって、たてた淋しい音である。「ひとつの音」に身体が浸されていくような。 以下はくだらない余談。 夕方、スタッフ達とおしゃべりをしていると女優の剛力彩芽の話しになった。 「わたし、好きだわ、剛力彩芽。生まれ変わるのだったら剛力彩芽みたいになりたい!」と思わず言ってしまったら、スタッフ達の冷笑をかった。 「はははっ、共通点ありますよ、女という性別でね。」とPさん。 ホントに失礼だと思いません!?
by fragie777
| 2017-04-24 19:35
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