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4月13日(木) 石川啄木忌 旧暦3月17日
今朝の東京MXテレビのモーニングCROSSのメインキャスターの堀潤さんがしょっぱなに言ったことば。 「〈戦争が廊下の奥に立っていた〉という俳句がありますね。この句は昭和15年につくられた俳句ですが、この後日本は一挙に戦争へ突入していったわけです。私たちがいる現在も〈戦争が廊下の奥に立って〉いるそんな状況にいるのかもしれません」 渡辺白泉のこの句をいまの時代に引きつけて語る堀さんのことばに朝食の支度をしていたわたしは思わず、テレビに見入ってしまったのだった。 新刊紹介をしたい。 著者の関根千方(せきね・ちかた)さんは、1970年東京生まれ、現在は東京・杉並区在住。2007年に俳句を学びはじめ、2008年に「古志」に入会し長谷川櫂に師事。2010年「古志新人賞」を受賞、2012年「古志」同人、2015年「第10回飴山實賞」を受賞されている。本句集は第1句集。長谷川櫂氏が序句を寄せている。 白桃は月の光の果実かな 櫂 「長谷川櫂先生には、題名および序句を賜りました。」と「あとがき」にある。 本句集は全体を5つにわけ、最終章には「白桃」の句のみ7句が収録されている。 桃熟るる金銀の秋来たりけり 白桃に弥勒の指の触れてをり 白桃を洗ふ太陽きらきらと 湯上がりの人白桃を剥きゐたり 白桃をむく人類の指やさし 白桃や太陽の蜜滴れる 白桃のかすかに香る大気圏 序句に白桃の師の句がおかれ、最終章に白桃7句、句集名が「白桃」、そのことが効果的に働いてこの句集を印象深いものにしている。 句数は多くはなく、厳選された作品と、そこをつらぬく白桃の輝き、第一句集にふさわしい清潔感にみちた句集だ。 ご友人であるデザイナーの宮嶋章文氏の手による装釘もまた清新である。 カバーはやや本の高さより20ミリほど低くし、表紙の濃紺がみえるようにしてある。 そしてこのカバーにおかれたタイトルや名前、俳句、版元名などの文字、桃のような月のような図、それぞれが美しく配されてそれがひとつの宇宙をわたしたちに思わせるのだ。 不思議な時空である。 表紙の紺と白のカバーとの対比もあざやかである。 見ていても飽きが来ない。 本句集の担当はPさん。 大欠伸して寅年の始まりぬ 一葉は敷き一葉はかぶせ桜餅無愛想といふ愛もあり懐手 ちぎられて水のかけらのレタスかな 波郷忌や枯れたるもののよく響き 陽なた水浴びて土用の雀かな 唐辛子小さき鬼と思ふべし ちさき手をあはせ螢の籠とせよ 青鷺の喉はたはたと涼しさよ 湯上がりの人白桃を剥きゐたり Pさんが好きな句である。 Pさん曰く、「お尻が好きなのかしら。尻という文字の句が多いかも。そういえば、桃もお尻のかたちのような」と。 花つけて空へ尻向け糸瓜の子 尻上げて秋の蜥蜴を通しけり 大糸瓜尻に名残の花の殻 ふくらんで尻餅をつく雀かな 佐保姫の尻餅つきし雪間かな 集中にある「尻」が出てくる俳句をあげてみた。確かに全体の句数からいえば少なくないかも。しかし、どの「尻」も可愛らしいお尻である。詠まれているものが小さな命である。著者の関根千方さんは小さなものを愛おしむ心が人一倍あるのかもしれない。〈菫咲く小さな国のままであれ〉 今思えば、俳句と出会った年が大きな転機であり、俳句人生の始まりでした。 それから九年が経ち、一冊の句集を編むことができました。 古志の句会での鍛錬がなければ、この句集はできませんでした。この場を借りて、大谷弘至主宰をはじめ、古志の皆様に感謝申し上げます。また、妻と子にもお礼を言いたい。ありがとう。 「あとがき」を紹介した。 本句集には妻や子を詠んだ句も多いのだけれど、どれもべたつきがなくて清々しい。なによりも妻への敬愛があってそれがわたしなどにはとても好もしく思われるのだ。〈母の日や母となり君たくましく〉 いぶしたような金色である。 文字は白刷り。 このピンクが「白桃」という句集名になんとも効果的である。 男性の句集にピンクを配するのはなかなか難しいが、これは心憎い演出である。 句集を編むということに対する繊細な配慮がすみずみにまで行き渡った洗練された一冊となった。 40代の男性俳人の清爽な句集である。 身ごもりて人の眠れる団扇かな 湯上がりの人白桃を剥きゐたり ここに詠まれている「人」は、あるいは「妻」であるのかも知れないと思った。しかし、「妻」ではなく「人」であるからこそ、そこに小さな時空がうまれる。この関根千方さんの人間に対する距離感がわたしは好きである。「距離感」という言葉が適切かどうかはちょっと自信がないが、この二句においては、この「人」は、その対象への「賛嘆」を秘めているのではないだろうか。そういう心ばえが本句集を爽やかなものにしているようにも思える。本句集には「妻」を詠んだ句は少なくないかもしれないが、「妻」という言葉は一句も見当たらない。唯一登場するのは「あとがき」のみである。そのこともまた関根千方さんの、人間を見る心のありように深く結びついているように思えるのだ。 今日は午前中にひとりお客さまが見えられた。 日高玲さん。 「海程」に所属されている俳人でいらっしゃる。 句稿をもって第一句集のご相談にお見えになられたのだった。 句集名も造本も判型もすでにお決めになられていたのだが、唯一のこだわりは「色」。 緑色にこだわりがある。 担当の文己さんと一緒にいろんな「緑」をご覧になられて、心にかなうものを見出されそれを決められてお帰りになった。 句集名がまたとても面白く、およそ句集らしからぬもので、でも、いまはまだ内緒にしておきたい。
by fragie777
| 2017-04-13 20:00
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