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3月31日(金) 旧暦3月4日
この季節は連翹やみつばつつじなども咲きはじめ、どちらかというと地味なわたしの家も彩り豊かになる。 忙しいときは黙殺であるが、すこし気持に余裕があるときなど、(おっ、咲いているな)としばし眺めてみたりもする。 今日は午前中にお客さまがおふたり見えられた。 俳人の佐怒賀正美さんと神野紗希さんである。 現代俳句協会はことしで70周年を迎える。 その記念事業の一環として、青年部は「新興俳句アンソロジー」を企画し、その本づくりをふらんす堂がお手伝いすることになった。 その打ち合わせのためにお二人は見えられたのである。 中心になってすすめているのが青年部の神野紗希さんで、その紗希さんを応援するかたちで佐怒賀さんも一緒にご来社くださったのだ。 これまでにない新興俳句作家の俳人を揃え、それぞれの俳人に若い俳人たちが評論を書き、作家論のみならず「新興俳句」にかかわる評論も挿入していこうという意欲的な試みである。おそらくこれまで語られなかった新興俳句の俳人も浮上し、かつてない資料性の高いものが出来上がるのではないだろうかと思う。版元としてもそういう本を刊行させてもらうことは何よりもやりがいのある仕事である。(←yamaokaはメチャメチャ嬉しい。必殺仕事人で仕事が好きだからっ) 担当のPさんがお二人にお目にかかっていろいろと打ち合わせをし、多くの人に読んでもらう本にすべく頑張りましょう、ということになった。 神野紗希さんが熱心にかたる傍らで、佐怒賀さんが穏やかな笑顔を浮かべながらうんうんと頷いておられる、結社、年齢を超えた信頼関係のもとで、良いものを作っていこうとするその姿勢が現代俳句協会の70周年事業を支えるものであれば、それもまた素晴らしいと思ったのだった。 新刊句集を紹介したい。 著者の花輪とし哉(はなわ・としや)さんは、昭和6年(1931)東京生まれ、東京・千代田区在住、ことし86歳を迎えられる。昭和63年(1988)「萬緑」に入会、成田千空に師事、平成6年(1994)「萬緑新人賞」受賞、平成7年(1995)萬緑同人、平成14年(2002)に萬緑賞を受賞されている。本句集は第1句集『モーゼの角』に次ぐ第2句集となる。「萬緑」同人であられるが、「ところで、結社誌『萬緑』は、このたび終刊となる。「萬緑人」にとっては、大きなショックである。会員の多くは新結社「森の座」に移ったが、私は「萬緑人」としてとどまり、消えていく覚悟である。本書は「萬緑」時代の足跡であり、なつかしいものがある。」とあとがきに書かれている。 集名の「冬の虹」は、「八十路越えなほ生きてみむ冬の虹」に拠る。 花輪とし哉さんは、一ツ橋大学、中央大学と大学でながく教鞭をとられてきた方である。 生涯は書を読むのみの更衣 句集の前半におかれた句であるが、好きな句だ。「更衣」という季語がそのうちにもっている「涼しさ」と、「書を読むのみの」生涯がよく響き合っている。その人生においていくたびも訪れた「更衣」の季節、そのいずれのときも書を読む学究生活者であった、という涼やかな人生が立ち上がってくる。清廉なお人柄を彷彿とさせる一句だ。 小春日を歩みて倦まず老いし象 梅雨空を耳ではたいて象無言 集中にある「象」を詠んだ句である。あるいは井の頭動物園の「はな子さん」かもしれないが、わたしはこの象に作者自身がご自分を重ね合わせているように思われるのだ。象とは思考する大きな生き物であって、歩みながらもその内面生活をふかめつつしかし多くは語らず無言である。静謐さのなかに世界と向き合っている思索する象。わたしはそんな風に勝手に読んだのだった。 本句集の担当は文己さん。 文己さんがどんな句を選んだのだろうか。 永遠に生きるつもりの水中花 悪しきこと言はぬつもりのマスクかも 中庭の松の雫も寒の水 風光るくるりと剝けて茹卵 桐咲いておのづからなる村境ひ 今もある師の掌のぬくみ冬紅葉 駅弁に四角の秋を旅三日 本句集は私の第二句集で、第一句集『モーゼの角』以後の平成十五年から平成二十八年までの二百五十七句を収めてある。平成十四年に萬緑賞を受賞し、森の座同人となりて以後、自選となり、残念ながら先生の選を受けることはできなくなった。本句集は、第一句集と同様、「萬緑」代表の成田千空先生の御指導によるものであるが、先生は、平成十九年十一月十七日に永眠された。萬緑創設者である中村草田男師のことを伺ったのも先生を通じてであった。先生は草田男師の『長子』を高く評価しておられた。(略) 今回私は新年に思いをこめて、各章で新年、春夏秋冬という句順にこだわってみた。 「あとがき」を再び紹介した。 ほかに、 翅あるもの音なく集ひ花八ッ手 神父いま春帽深く仮眠のとき 「いらつしやあい」師走にずいと神田「藪」 星合の白きもの増す眉毛かな 喜寿近し色ふかぶかと菠薐草 林檎重し亡師の美声よみがへる 泣き止まぬ背の子へ山の笑ひけり 雲の峰生けるもの皆こゑを持つ 言ひかけて止めてしまひぬ芋名月 百合一本白き直立テロの報 高階に二人で生きて蓮の飯 『萬緑』の終刊近し木守柿 麦の芽を踏んで親父と別れけり 集中の「花八つ手妻をひとりに遺せない」と詠まれた愛妻は花輪佐恵子さん。句集『十字花』をふらんす堂から上梓されている。 ふらんす堂へのご来社もおふたりでお見えになられたのだった。 本句集の装釘は、君嶋真理子さん。 「虹」はなかなか難しいのだが。。。 シンプルで男性的なフランス装の句集となった。 石の上蟻去りしのち坐りけり 集中もっとも好きな一句である。とてもさりげない一句であるが、「蟻去りしのち」という言い方にこの作者の命あるものへの丁寧な向き合い方が見えてくる。きっと静かな場所だったのだろう。さっきまで蟻がいて、その蟻が去りゆく姿を見、そして蟻が去ってしまった後に坐ったという、だだそれだけのことである。しかし、作者にとってそこは単なる石の上ではなく、蟻が存在しいまはいない石の上なのである。そしてそこに坐った作者がいる。作者の心にはまださきほどまでいた蟻が何かを告げているかのようだ。やがて、石の上で思索する作者が見えてくる、そういう一句だと思う。中村草田男の系譜につらなる俳人であることを改めて思った。
by fragie777
| 2017-03-31 20:52
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