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3月29日(水) 旧暦3月2日
大事なものを失くしてしまった。 今日はそれを捜すために、半日を費やした。 わたしだけでなく、スタッフの緑さんもPさんも一緒になって捜してくれた。 「前の時にはゲラの間に挟まっていましたよねっ」ってPさん。 「ああ、そうだったかしら。。。」としどろもどろの私。 「でもね、おかしいよ。あるはずのものがないなんて。わたしの所にはブラックホールがあって吸い込まれてしまうのよ」と泣きべそ状態で申し立てたが誰も聞いてくれない。 先日のこと、銀行印のキャップをとったところ、わたしの手をすべって足元に転がり落ちた。 わたしはすぐに這いつくばってキャップを捜した。 しかし、ないのである。 親指ほどの木製のキャップ、なくなるはずがない。 でも、ないのだ。 絶対なくてはおかしいのだ。 ブラックホールに吸い込まれてしまった。と、わたしは信じている。 で、 今日の失しもの。 とうとう出て来なかった。 やはり、ブラックホールか。。。 なんとか、お願いして再発行をして貰うことになった。(ああ、もうこんなことばっかり……誰が悪いかって、わ、わたしよっ) ほっと胸をなでおろしたyamaokaである。 新刊句集を紹介したい。 著者の木村容子(きむら・ようこ)さんは、昭和27年(1952)岐阜市生まれ、岐阜市在住。俳歴は平成2年(1990)から平成10年(1998)まで「狩」に所属、平成13年(2001)より平成22年(2010)まで「澤」に所属、同人。平成22年春より無所属となられた。本句集は無所属となってより編まれた第2句集となる。結社所属時代のものは、平成22年に第1句集として『光環』を刊行されている。 句集名は「ひとひらの」。これについて、木村容子さんは「あとがき」にこんな風に書かれている。 題名の『ひとひらの』は、句集中の一句「ひとひらの音符降り来る春日かな」からとりました。若い頃、シンガーソングライターを夢見た時期もあり、その頃から、天上に音楽の神様がいらっしゃると信じていました。その後、俳句に熱中すると、今度は、天上に俳句の神様がおられると思わずにはいられません。きっと、すべてのアートには神様が存在し、真摯な態度で研鑽を積む者に時々ご褒美をくださるのではないでしょうか。あらためて、更なる精進をしなければと心を引き締めています。 かつてシンガーソングライターを夢見たことがおありだったということ、また、お仕事で音楽ホールの支配人をするようになられたこと、「そんなことから、この句集の構成を楽曲になぞらえ、第一楽章から第四楽章までに分けました。楽章毎のイメージと流れを感じていただきながら、最後までお読みいただければと願っています。」と「あとがき」に書かれている。 本句集は巻末に「自句自解」が付けられており、12句に短文が寄せてある。木村容子さんによると、「特に思い入れのある句」を選ばれてということである。いくつか紹介したい。 春宵(しゅんしょう)や玉三郎の指の先 今や歌舞伎界の重鎮となった、女形随一の坂東玉三郎さん。もう四十年以上前から贔屓の役者さんで、出演するお芝居をよく観に行っています。表情、立振舞など、どれをとっても素晴らしく、ただうっとりとするばかりです。中でも美しい指先の動きに表れる情緒には感嘆します。 一冊の本と散る魂星迎 卒寿なる青年の眼よ雲の峰 この二句は、平成二十七年七月七日、岐阜県図書館新館開館二十周年記念講演会において、元岐阜県教育長の吉田豊先生が、「命がけの読書」と題してお話された折の句です。学徒出陣のご経験談の中で、「戦場で死ぬ時、ポケットに入れておきたい一冊の本」について寮生達が語り合った様子をお聴きし、前途有望な青年達が、死を覚悟しなければならなかった無念に只々胸が一杯になりました。また、書物の大切な役割をあらためて教していただきました。 この講演は、図書館のホールで行われましたが、九十歳を迎えられる吉田先生は、用意されたマイクをお使いにならず、張りのある役者のようなお声で滔々とお話され、そのお姿にも感銘を受けました。 御降(おさが)りの等しく積もる白さかな 御降りとは、元日或は三が日に降る雨や雪のことで、御降りがあると富正月といって豊穣の前兆とされています。この年のお正月には、久しぶりに雪が降り積もりました。やはり、お正月の雪は、常と違い尊く有難いものに思えます。清浄として静穏な心持ちになりました。 わたしもこの「御降り」の句は好きである。「等しく」とあえて詠んだところに、大地への祝福の思いがこめられていて、雪の白さをいっそう目の当たりにする感がある。雨は雪はいつだって等しくつもるものであるけれど。 本句集の担当はPさんである。 Pさんの好きな句を紹介したい。 草青むペダル漕ぐ背の大きかり 武骨なる手に水もらひ赤き薔薇 蠟梅の蕾香りの雫かな 秋深し琥珀に眠る草の種 たんぽぽの絮の球形風を待つ 馬の歩の尻ゆさゆさと花菜風 薫風や絮あるものは奔放に 風待たず散り急ぎたる大銀杏 春宵(しゅんしょう)や玉三郎の指の先 新緑やむくむくと山膨れたる 夕立や森の匂ひとなりにけり 躓きて知る石ころよ秋深き 白粥の塩味ほのか今朝の冬 伝統的な句、現代的で自由な句、川柳に近い句、初めて俳句に触れる方にもわかりやすい句等、あえて様々な句を載せました。俳人の方々をはじめ、ご縁をいただきました様々のジャンルの方々に俳句を楽しんでいただけたらと思っています。皆様にご批評を仰ぎ、これからの道しるべとさせていただきます。 ふたたび「あとがき」より抜粋した。著者の木村容子さんは、本集を編むにあたって俳人のみならず一般読者を想定して編まれたことがわかる。それは目次の立て方や「自解」を収録したことによってもであるが、収録句そのものが多彩であることを意図したのである。だから本句集にはわかりにくい、一瞬眉をしかめるような作品はない。20年以上俳句結社で学んだことを活かして、しかも読み手に寄り添う作品も収録されたのである。 そんな作品をいくつか紹介したい。 三月やじよぼぶくしやらと谷の川 朝食の納豆ねるねる残暑なり 秋澄むや色慎ましく川の石 原発に懲りぬ男や福笑ひ 女子力の低きも良けれ鹿尾菜(ひじき)飯 ほーたるのほーのせつなき光かな 羽の艶まだ衰へず冬の蝶 春の雲漁網つくろふ手の太し パンジーや園児らの声まるまると 春の波掬(すく)ひ生々流転かな 冬薔薇(ふゆそうび)羽音ひとつもなかりけり 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 何枚か用意したラフイメージのなかより、木村容子さんがお好きなものを選ばれたのだった。 見返しは綺羅が入ったもの。 ![]() それは、わたしたちにとっても嬉しいことである。 そして「上品で優しい出来上がりを喜んでいます」と。 冬薔薇羽音ひとつもなかりけり この羽音は、虫の羽音だけでなく鳥の羽音をも思った。冬の薔薇が咲く厳しい環境が「羽音がない」ということでよく見えてくる。しかも「ひとつも」という言い方が巧みである。しんと澄み切った寒さのなかで毅然として咲く薔薇。薔薇の気高さを思わせる。 あるいはこの「冬薔薇」は、著者と気脈が通じるところがあるのかもしれない、きっとそうだ。
by fragie777
| 2017-03-29 20:24
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