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3月28日(火) 旧暦3月1日
冊子「第7回田中裕明賞」の最終ゲラがわたしの机に置かれてから数日経ってしまった。 ちょっと手がつけられなかったのだが、明日はいよいよ読んで校了にしたい。 今回は本当にお待たせしてしまった。 そのかわりとても読みごたえのあるものとなったのではないだろうか。 出来上がりまでもうあと少し。 お待ち下さいましー!! 新刊句集を紹介したい。 著者の亀山歌子さんは、昭和4年(1929)岐阜県高山市生まれ、高山市在住の俳人である。昭和51年(1976)に「鷹」に入会し藤田湘子に師事、平成元年(1989)に「鷹」同人となる。すでに第1句集『鳩吹』、第2句集『初冠雪』を上梓している。平成17年(2005)に小川軽舟に師事、平成26年(2014)には高山市文化功労を顕彰されている。本句集は平成17年から28年の12年間を収録した第3句集となり序文を小川軽舟主宰が寄せている。今年88歳になられる亀山歌子さんが「米寿の記念」として上梓されたものである。 小川軽舟主宰は敬愛の情をこめて序文を寄せられている。 逝く人に大いなる闇白鳥座 郡上踊の灯りを包み込むようだった大きな闇を思い出しながら、郡上からさらに数多の山々を隔てた飛驒の深い闇を心に描く。闇から生まれて闇に帰る人間本来の姿が神々しく詠われた名句である。 夏燕相思の羽をひるがへす 美しき落し文あり夕日坂 この二句はまだ出来たての近詠だが、新しい句集を出すと決めた心の張りが生んだ秀句だと言えるだろう。それにしても、米寿の記念に出す句集と言いながら、作品のこのみずみずしさはどうだろう。 泥の巣を構えたつがいの燕が、代わる代わる羽をひるがえして雛たちに餌を運ぶ。「相思の」の一語が、その営みを慈しみに満ちた眼差しで包む。 夕日の差す坂道で拾い上げた緑したたるばかりの落し文は、歌子さんの生きる今そのもののように見える。「美しき」という形容がうわつかないのは、「夕日坂」に歌子さんの人生の晩景が重なるからだ。あるいは、この句集そのものが、この世に対する歌子さんの「美しき落し文」なのだと言ってもよい。 人生もまた旅。たまたま俳句に関わったことで、歌子さんの旅と私の旅は出会う機会を得た。思えば俳句を通して、ずいぶん多くの懐かしい景色を歌子さんに見せてもらったものである。 吟行をともにしたこともあり、小川主宰の脳裏には亀山歌子さんとの懐かしい場面がいろいろと呼び起こされるようだ。しかし、小川主宰にとって、亀山さんは決して過去の人ではない。88歳となられた今も詩情を涸らすことなく瑞瑞しくゆるぎない余情に充ちた作品を見せてくれる人だ。 本句集の担当はPさんである。 Pさんの好きな句を紹介したい。 笹鳴に息合はすごと佇めり 天辺を欠く大杉や春祭 眉太く少年座せり初硯はくれんのふくらむ闇や稽古笛 母の忌の雪駄の雪を落しけり 風花に少年肩を四角うす 可惜夜の玉章(たまづさ)を掌にあたたかし 仏壇の白薔薇夫の誕生日 曳くものを捜してわれにきたる蟻 朴葉鮨みどりほぐれて香りけり 踝に草のつめたき初蛍 再会は笑顔もて足る南風 白き象耳持て哭ける涅槃絵図 誘ふとなく秋蝶の光かな 深秋の白き枕に寝落ちたり Pさんの好きな句をみていると「白」を使った句が多いことに気づく。 印象的な句がおおい。小川主宰が鑑賞していた「白鳥座」にも白がある。 あるいは「白」という文字をもちいなくても「はくれん」や「雪」など白をイメージさせるものが多い。 ほかに、 十一やひと声ごとに日の白し 珈琲熱し白山茶花の散りはじむ 白蓮のあまたや風の百姓家 円座(わらうだ)に湯上りの膝白芙蓉 玲瓏と白に徹せり寒牡丹 水分の神尋ねゆく白日傘 ぼうたんの白馥郁と晴子の忌 まだほかにもたくさんあるのだが、一部を紹介した。 明鏡に白髪覗くや二月尽 「明鏡」という句集のタイトルとなった一句である。ここにも「白」が。 私として甚だ未熟ながら今春は米寿を迎えるに当り一つの区切りとして第三句集を纏めました。 『明鏡』は「明鏡に白髪覗くや二月尽」の私の一句に拠ります。昔から鏡は心を映すと言います。朝・夕覗く鏡は老いても心豊かに爽やかな顔を映したく思います。それは、一日一日を有意義に過ごすことだと思っています。 「あとがき」の言葉である。 ほかに、 外に出でて道濡れゐたり春満月 歯刷子を新調したり岳に雪 ひらひらとフォーク磨ける良夜かな 兼好忌わかものに鬚ふえにけり 八十歳豊かに寂し花蘇枋(はなずおう) 耳聡く諸手浸せる泉かな かあさんと烏が啼けり広島忌 ぴしぴしと星座生まるる兎罠 花の荷の花屋へ着ける東風の中 毬(いが)栗の青きを弟(おと)の墓に置く 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 白を響かせた出来上がりとなった。 タイトルは金箔押し。 帯は虹色がかったシルバー。 見返しは、ややラベンダー色がはいったグレー。 扉。 ブルーと白の配色の美しい一冊となった。 いつまでも清新さを失わない著者の亀山歌子さんにふさわしい一冊である。 母の忌の雪駄の雪を落しけり 仏壇の白薔薇夫の誕生日 白き象耳持て哭ける涅槃絵図 ぼうたんの白馥郁と晴子の忌 わたしはふたたび「白」にこだわりたい。「白」は著者の亀山歌子さんにとって、あるいは大切な死者につながる色なのではないか、清浄さを湛えながらも、悲しみと懐かしさを呼び起こすもの、そして豊かさやきびしさをも秘めている。 本句集を読み進むと、「白」という色が呼び起こす著者の心の陰翳に、読者は気づかされるのだ。 ほんとにほんとに余計なことながら、わたしも白が好き。 いっとき、白ばかり来ていて、「あなた、ほんとに白が好きねっ」って言われたことがあった。 今から思うと、そのときの精神状態は「白」を欲していたのだなあ。 数年つづいたかも。 気づかなかったって、いいのよ、気づかなくたって。 わたしってそんなくらいの存在感なんだからさ。 気にしないで。。。
by fragie777
| 2017-03-28 20:34
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