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11月28日(月) 旧暦10月29日
今朝の店頭に並べられたりんご。 朝、書店より電話注文が入った。 「さいとうしげよしさんのひゃくしゅ、在庫ありますかあ?」 電話を受けたスタッフの文己さん、一瞬固まった。 (???さいとうしげよし、って……) 「ああ、斎藤茂吉(もきち)の百首ですね! 在庫ございます!」 そうなのよね、茂吉って「しげよし」とも読む。 茂吉を知らない書店員さんがいたとしてもそれは咎めることはできない。 「虚子」を「きょこ」って言う書店員さんがいるくらいだもの。 詩歌における過去の歌人(うたびと)は、21世紀においてはなかなか奥ゆかしいところに存在するのかもしれない。 新刊紹介をしたい。 俳人中原道夫さんの第12句集となる。正漢字表記を採用。句集名「一夜劇」は、 蠅帳の中より匂ふ一夜劇 に拠るが、それはまた2015年の11月におこったパリ同時多発テロの一夜の出来事にも敷衍されている。というかほぼそちらに収斂していく。 中原さんはその事件がおきた翌日(!)のパリに行き、しかも現場近くの滞在を余儀なくされたのである。 本句集にはその時の句33句を収録し、それらの句を句集の最後におき、第12句集を完結させている。 それらの句にいたるまでの本集は、機知と俳諧性に富み大胆な言葉の斡旋によって時代の手ざわりを巧みに一句に仕立てて見せる、そこには中原道夫の詩嚢の豊かさに満ちた俳句世界が展開しているのであるが、句集の最後はテロという非日常の無惨さに立ち尽くすかたちで終わっている。「悪夢なら覚めよ」ということだ。 テロがもたらしたその生々しい現場をこのように俳句にしたのは、中原さんが初めてではないだろうか。 まずは、2013年から2014年までの作品を紹介したい。(正字使用の漢字をが表記出来ない場合、常用漢字や俗字にて表記) 片付かぬ歲尾の見ゆる歲首より 磨ぐまへの米の溫さよ良寛忌 日脚伸ぶ猫に背骨といふ峠 立錐の餘地春雨の傘立に 十代の春はひえびえ人の中 虛子の忌の拔齒一本一大事 鳥籠を尾羽はみ出す靑嵐 うつかりは凢人の常十日菊 着水の水面堅しよクリスマス 振りあげて杵のひつつく師走空 寂しさは懷よりか關東煮(おでん)酒 白魚の目のやり場なく集まれる 鏡中の時計過去へと戾り寒ム 菜の花の海は海へとなだれたる かはせみに銜へられたるものの息 留椀が出でて春逝く雨の音 問診にちよつとだけ噓櫻の實 葛の花レインコートを傳ふ雨 廁より﨤事のしたる小春かな しらじらと朙けて冬菊活けてある 瘦身(スリム)囘敎徒(スリム)冬帽を乘す顱頂(あたま) まなぶたを下ろし蟲の音選つてをり 「虫の音を聞く」という季語の風景をただシンプルに俳句に仕立てて見せたものであるが、面白い。神妙な顔をして虫の音を聞いている人間の顔がありありと浮かんでくる。「まなぶたを下ろし」と「選つて」によって、すでに若くない訳知り顔の男性(いや、決して中原さんというわけでは)と推察される。俳諧味に富んだ一句である。 2015年の作品をいくつか紹介したい。 臓器よりこころ何ゆゑ重き春 スウェターは悉く穴穴を着る レシートを長く打ち出す蝶の晝 蛇の衣寄つてたかつて欲しがらず はんぺんに魚臭のなくて大暑なる 當世の暗がり絕えてからすうり むなしいといふは炬燵寢覺めてより 雪が來る歬を綺麗に掃いてある そして「所用ありてテロの翌パリに赴く」という詞書のはじまる俳句が展開していくのであるが、その前に「あとがき」を抜粋して紹介したい。 日頃から常から非常への切り替へである「旅」をこよなく愛して來たが、今囘の「旅」は、非日常の中へ、㪅に經驗したことのない〝テロ〟といふ非日常が加はり、凢そ現實味のない繪空事、仕組まれた〝劇中劇〟の中にゐるやうな興奮を味はつた。主謀者の濳んでゐた〝隱れ家(アジト)〟から然程離れてゐない所に私の宿はあり、その距離から當然緊張は强ひられた。しかし同時に妙に弛緩した〝空氣〟が漂つてゐたのは慥か。そんな事態の中でも界隈の盛り場ではイスラム系の犯人と同じ人種の人逹が店を開け、客を入れ何事もなかつたやうに營業してゐる。本當に〝テロ〟はあつたのだらうかと思ふやうな常の風景。彼等にとつて多數派のイスラム敎徒としての誇りはあり、埒外の、しかし予測出來うる「一夜劇」だつたのではないか。ともあれ五閒の滯在の中で、結果として最後の方に措いた參拾參句を得た。 服喪かな全土凍てつく燈を落とし (十一⺼十五パリ· シャルル· ド・ゴール空港着) 無差別の無は神のみぞ知る霜夜 血を血で洗ふ絨毯の吸へる血は 死とともに敵意碎ける冬の薔薇 ふたたびの銃聲寒夜貫通す 血は花と散る隱れ家(アジト)に暖取りし跡 惡夢なら醒めよ冬 の蛾の刎死 結露せり窗纖⺼に固く閉め 神在にK A M I K A Z E の吹く狂氣かな (新聞· TVでは自爆テロのことを〝KAMIKAZE〟と日本の特攻隊の名を使用) 鳩の群岐けゆく迷彩外套(バ トル・コート)隊 (エッフェルなど光施設再開) 主犯にも新年圍むはずの家族 とぐろ卷く血の腸詰(ブ ーダン・ノワール)聖夜待つ 何句かを紹介してみた。「あとがき」はこう締めくくられる。 歸國してからの常へ舞ひ戾つた句は、どうも白け、無殘で入集するのを止めた。尻切れ蜻蛉のやうだが、最後の句で白晝が醒めたと思つていただきたい。 その最後におかれた句は、 舩上生活(ペニシエ)羨しや舩底の冷えさへも である。 句集『一夜劇』は、間村俊一さんの装丁である。 中原さんの句集はこれまで間村さんの装丁によるものが多い。 中原道夫という濃密にして重厚な存在感と間村さんの装丁はよく響きあっている。 表紙は赤。 文字は黒メタル箔。 材質の粗い布クロスである。 平面は型押し。 (この遊び紙の選び方が、間村さんは絶妙である) これも間村さん撮影による写真。 ![]() ドラマティックな不穏さを秘めながら「一夜劇」は世に生み出された。 いまわしい悪夢としての「一夜劇」で終わって欲しいが。。。。。 緊迫した予兆の呪縛がとかれないまま、句集『一夜劇』は幕を閉じる。 21世紀がはじまっていくばくもなく、こういう句集が世に出されたこともまた時代の証言となっていくのだろうか。。。 アイロンかけ苦手草むしりならやるわ 2015年収録のこの一句。いままでの文脈からするとたいがいにのんきな句である。しかし、好きな一句である。こういう女性ってあっちこっちにいると思う。でも、わたしの場合、「アイロンかけ苦手草むしりだつて嫌ひ」。もうこうなると処置なしっていうことね。 新聞記事など紹介したいがそれはまた明日に。 今日は天気を甘くみて、ウール編みの長いコートで来たのだが毛糸は寒い。 風を通すのである。 どこにも寄らず、ダッシュで車まで行くつもり。 じゃ。。 ああ、そうだ。 ![]() 今日の日向子。
by fragie777
| 2016-11-28 20:30
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