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11月18日(金) 旧暦10月19日
今日の出没男子。 あっという間に一週間がたち、今日はすでに金曜日である。 わたしはどんだけ内実のある仕事をしたのだろうか、と自問をしてみるがこれはなかなか厳しいものがある。 ご存知のようにずいぶんと時間を無駄にした。 密度の濃い時間ではなく、わたしがスカスカの時間をすごしたからと言って、わたしの身体に刻まれる皺も薄味になるかっていうとそうではなく、その点時間の刻印は容赦ない。 今朝、鏡のなかのわが顔を見たところ、おお、なんとほうれい線が一段と濃くなっているではないか。 わたしはがっくりと肩を落としたのであった。 「歌人入門シリーズ」第2弾、大島史洋著『斎藤茂吉の百首』を紹介したい。 歌人の大島史洋氏による茂吉の歌の鑑賞本である。 ハンディに読める齊藤茂吉の本が欲しいと願っていたので、これは格好の入門書となった。 読み終えて、「齊藤茂吉は、やはりちょっとヘンな人かもしれない」と思った。 すこし、紹介したい。 赤茄子(あかなす)の腐れてゐたるところより幾程(いく)ほどもなき歩みなりけり 茂吉の不可解な歌としてよく話題になる一首。明治四十五年(大正元年)作。赤茄子はトマト。赤い色をしたナスということで、当時はまだ異様な印象を与える野菜であったようだ。歌の意味するところは、赤いトマトが腐って落ちている野菜畑を、いま、ふと気が付けば歩いて通り過ぎてきたところだ、くらいだろう。では、なぜ不可解なのかというと、こんなことがどうして一首としてうたわれなければならなかったのか、それがわからないということだろう。人間の一瞬の心理の不可解さである。「腐れる」という言い方も珍しく、異様である。 さるすべりの木(こ)の下(した)かげにをさなごの茂太(しげた)を率(ゐ)つつ蟻をころせり 前の歌では「をさなご」と言っていたのが、ここでは「茂太」と名前を出している。立って歩きはじめた子のかわいさに連れだって散歩をしているところである。 「晩夏」という題があるから、サルスベリは赤や白の花を咲かせており、のどかなひとときだったろう。 「をさなごの茂太を率つつ」までは父と子の普通の姿だが、結句の「蟻をころせり」にはどきっとするような異常さがある。茂吉の小動物に対する姿勢には普通でないものが感じられるが、一心に蟻を殺している父親の姿は、茂太の心にどんな印象を与えたのだろうか。 あはれあはれ電(でん)のごとくにひらめきてわが子(こ)等(ら)すらをにくむことあり 一読、忘れられない歌である。親子であっても憎みあうことはあり、当たり前のことなのだが、上句のような比喩によって表現されると心に刻みついてしまう。 稲妻の走る、その光のように一瞬ひらめいて吾が子を憎んだというのだが、平仮名で「にくむ」と書かれているところなど、やわらかい感じとなっている。 茂吉は、日常生活と病院の経営とが一緒になったような日々を過ごしており、子供と接触する機会も少なかった。食事もお手伝いさんが用意するなど、普通の家庭とは違っていたが、折に触れて子供のことは歌にしている。 わが生(せい)はかくのごとけむおのがため納豆買ひて帰るゆふぐれ 上句で、自分の人生など、考えてみればこのように単純で平凡なものなのだ、と、感慨を述べ、下句では、これもまた明快に、自分の食べる納豆を今日は買って帰ることだ、と言っている。わびしい心境にはちがいないが、自分のありようを納得しているようなところがある。 昭和二十四年に入っての作で、この時期、茂吉は相変わらず性欲の歌と食欲の歌をたくさん作っている。同じころの作に「さしあたり吾にむかひて伝ふるな性欲に似し情(じやう)の甘美を」「山もとに生ふる蕨をもらひければはやはや食はむわれひとりにて」といった歌がある。 歌を読んでいくと、斎藤茂吉という歌人はなかなか複雑な精神構造をしていたのではないだろうかと気付かされる。明治から大正、昭和にかけて詠まれた歌であるが、すこしも古びていない。この納豆の句なんて、まるで「わが生」のごときである。 巻末に大島氏による解説があるが、読みやすくよく分かる解説である。 大島史洋氏は、歌集『ふくろう』によって本年度迢空賞を受賞、また著書『河野裕子論」によって本年度現代短歌大賞を受賞されている。 余談であるが、今回の和兎さんによるブックデザインは「ふくろう」の装画である。これは大島氏の歌集『ふくろう』を念頭においたものと思われそうだが、実はそうではない。和兎さんはそのことを知らず、たまたま選んだものである。しかし、あとからやはり賢者「ふくろう」に導かれたのではないだろうか、と思っている。 さらに、虫などの小動物に興味をもちそれを短歌に詠んだ茂吉であるが、本書には残念ながら「ふくろう」の歌はない。実際はどうだったんだろうか。こんど大島氏にお目にかかる機会があったら伺ってみよう。 さあ、わたしも納豆を買って帰るとするか。。。。。。
by fragie777
| 2016-11-18 19:43
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