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10月18日(火) 蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり) 旧暦9月18日
コスモスを眺めていると、ギスギスしている心がふっとやわらかくなる。 そんな秋の花である。 「まぐろがブリューゲルで……」 「そうそう、リスは絵本だそうです」 「羊も加わって下さいねえ」 「ペンギンは金子國義、今回はペンギンのお腹をへこませてウエストをぎゅうっと細く描いてください」 いったいなんのこっちゃ。 この会話、わかります? これはブックデザイナーの君嶋真理子さんとPさんの電話の会話である。 「ふらんす堂通信150」のコラムは、「好きな絵」。 好きな絵を一点のみあげるという、かなり悩ましいお題である。 それぞれが画家のどの作品を選んだか、わたしもまだ知らない。 そう、yamaoakも参加している。(猫だよ) コラムは読者の人たちにけっこう人気がある。 君嶋さんの生き生きしたイラストがなんとしても魅力。 どんな風に仕上がってくるのだろう。 楽しみである。 新刊紹介をしたい。 著者の高田風人子(たかだ・ふうじんし)氏は、大正15年(1926)浦賀生れ、現在も浦賀にお住まいである。 虚子・立子に師事、「ホトトギス」「玉藻」で活躍、昭和24年「ホトトギス」初巻頭、34年同誌同人となる。俳句は季題を大切にする小さないとおしい詩であり、季題を自分の心の代弁者と考える。とは今は亡き杉本零による高田風人子の紹介記事である。「現代俳句辞典」(富士見書房 昭和63年刊) この一文はまさに高田風人子という俳人を言い得ており、引用した次第である。 その後、昭和63年俳誌「惜春」を創刊、平成27年終刊、引き続き「雛」を福神規子と創刊、現在に至る。本句集は平成12年(2000)から平成25(2013)までの作品を収録した第5句集である。本句集の出版は、福神規子さんのご尽力なくしてはかなわなかったものである。選句をはじめいっさいのことを福神さんに委ね任せられてうまれたのが本句集である。 風人子氏は今年90歳になられた。本句集はいわば老境に入られてからの作品であるが、わたしは大変面白かった。読んでいると凝っていた肩がもみほぐされ、いつか身体中の筋肉が柔らかになって血流もよくなり、その肉体に俳句のことばがしみじみと温かく溶け込んでくるような感じ。そして著者がいとおしくなるそんな気持になってくるのである。風人子マジックと言うべきか。しかし、さきほどの杉本零さんの一文に出合い納得したのだった。 句を紹介したいのだが、いいなあと思ったのが多くていったいどこまで紹介しようかしら。 ともかく、 蜘蛛の囲に人がかかりし騒ぎやう 今日はしも飛ばされさうな春の風 誰彼の誰彼も逝き虚子忌かな 斯くて汝はいそぎんちやくとして生まれ 薔薇を見る初めてお会ひせし人と 生きるべし夏木に精を貰ふべし 襟巻をせめては派手に老いにけり 健康や冬の朝日を手庇に 冬浪や我を引きずり込みさうに 恋心椿に寄せて老いにけり 耳までも賢さうなる子猫かな 息止めて蚊を打ちにけり仕止めけり 曼珠沙華この世あの世と人は言ふ 死の話宇宙の話日向ぼこ 寒鴉阿呆と鳴きぬ諾ひぬ 思わず笑ってしまうような句もあって楽しい。しかもしみじみとした情もある。俳句にかまえない自在さ。自然に自ずと口をついて生まれたような作品であるが、味わえば味わうほど季題が心に残る。まさに季題を大切にする小さないとおしい詩であることがわかる。 蟷螂に我気付かれてしまひけり 雑炊に膝を正して老いにけり 犬ふぐり一国を成す程にかな とは言へど今日で七日目春の風邪 法師蝉鳴き継ぎ人は生まれ継ぎ アマリリス疲れる赤と彼女いふ 老人の飛ばされ歩く野分かな 老人は汗出ぬときく汗を拭く いふなればすべて私道や蜷の道 蟻急ぎをり蟻らしきもの啣へ 梅雨眠し永久の眠りはまだ嫌で 子供の日子供少なくなりにけり 秋風や世に本物と贋物と 冬日あるのみ我が町のさびれやう 虚子先生の唱えた「花鳥諷詠」とは、季題を讃美する詩。花も鳥も人も同格と観じて、太陽の恵みに生を営む人達の詠う、潤いのある詩と信じて七十余年。詩の潤いは心のゆとりに通じます。四季の巡りに従って俳句にあそべる幸せから、句集名は「四季の巡りに」としました。 「あとがき」の言葉である。70余年の俳句の日々がある。本句集をつらぬくゆるやかな時間の流れはわたしたちの心にもゆとりを与えてくれる。(ああ、いいなあ……)とつぶやきながら読んでいる自分に気づくいて、ふっと気持が温かくなる、そんな句集である。 まだまだ紹介したい。 あらと見てゐるうちにふえ春の雪 太陽は我にもやさし犬ふぐり 老に鞭打つのは止めて昼寝せん 天災人災花におむすび独り食ぶ 破蓮や枯れゆくものに音のなく ふらここの子や父のゐて母のゐて スマホとは略しすぎるよ秋の風 かみころしたるはあくびや懐手 仏とは神とはと春寒き日よ 生身魂とは言はれたくなく励む 赤き血は吾のもの秋蚊打ち得たり 本句集はシリーズの一巻として刊行された。 装釘は和兎さん。 本文は3句組。小さい判だと不思議なことに3句組がうるさくない。 天アンカットでスピンは白。 季節の日々を喜びとした高田風人子氏の豊かな人生が見えてくる一冊である。 わが息と合ひいつまでも滴るよ 好きな句がたくさんあってどれを選ぶが迷いに迷ってこの句を選んだ。「滴り」が季語。まさに万物に照応している著者がいる。目の前の小さな景を読んでいるのだが、滴らせるものの大きさ、自然のふところの摂理までが見えてくる、そんな一句だ。俳句を70年間愛しつづけた著者ならではの一句だと思う。老境にありながら童心を失うことのない著者の瑞々しい心が滴ってくるようでもある。 「小さないとおしい詩」。 ああ、いい言葉だ。 わたしの横に「ふらんす堂通信150」のゲラがドサッと置かれた。 明日はこれに時間を費やすことになりそう。 そうそう、「編集後記」も書かなくっちゃ。。
by fragie777
| 2016-10-18 20:39
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