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9月21日(水) 旧暦8月21日
9月は慌ただしく時間が過ぎていく。 やろうと思っていたことのまだ半分も出来ていない。 その上連休も入って、にっちもさっちもいかない状態だ。 明日の一日は仕事の一日になりそうである。 新刊句集を紹介したい。 著者の久地楽桃子(くじら・ももこ)さんは、1931年(昭和6年)のお生まれ、今年85歳になる方である。「お宅が近くていいから」とご近所のよしみでふらんす堂より句集を刊行された。 本が出来上がるまでに何度かふらんす堂にご来社くださったが、自転車でいらっしゃったことがあったかもしれない。 とても溌剌としてお元気なご婦人である。 略歴をみると2001年から2011年にカルチャーセンターで金子兜太氏とその門下の安西篤、武田伸一の両氏の下で俳句を学ぶ。 その10年間の学びを一冊にしたのが本句集である。 一冊の句集を遺しておこうと思ったいきさつを久地楽桃子さんは、次のように「あとがき」に記す。 古稀を迎えました春、私は俳句を始めました。その動機は、それより以前、父母と兄の遺詠集なるものを上梓したことにあります。 両親は、若い頃より、与謝野先生の「新詩社」で短歌を詠んでおりました。また、兄は病床より「雲母」に俳句を送っておりました。 私自身、心身にゆとりのうまれました頃になり、それまで、しまい放しのままでありました三人の詠草をとりだし、眼を通してみました。初めは、軽い気持ちでページを繰りましたが、次第にある種の感慨につき動かされ、読み続けました。 これは、身内ならではのことかとも思いました。しかし、そうであっても、私としては、私の手で何とかまとめ、遺しておきたいと思うようになりました。 遺詠集『遠い足音』は、こうして平成五年上梓のはこびとなりました。 それまでの私は、韻文を書くことにあまり縁はありませんでした。ところが、この『遠い足音』の編集に携わるうちに、「私も」という気持ちを持つようになったのです。 それからでしょうか。新聞の俳壇、歌壇などにも関心をもつようになりました。そして、間口の広い選句をなさる金子兜太先生のお名前に接し、カルチャーセンターに申し込むことにいたしました。 最初は、入門部で、安西篤先生、武田伸一先生のご懇切なご指導を受けることができました。まさに「七十の手習い」です。その後、金子先生の研究科に移り、厚いご指導を賜わりました。月一回、三句提出して「○」を頂くことが励みとなりました。 ところが、私が傘寿を迎えました夏の終り、思いがけずも、金子先生のご病気のため、八月三十一日で休講となり、その後、再開されることはありませんでした。 十年間、こちらで学びました俳句のノートは、このあと白紙のまま終っておりますが、ご指導くださいましたお三方の先生方には、心より感謝申し上げております。 そこで、その十年間の日々を日記ならぬ俳句で書きのこしたものを「道すがら」と題してまとめてみました。「句集」と名づけますのはおこがましいこととも思いますが。 集中より数句紹介したい。 初鏡つきあつてきた我がいのち シャガール展子ら噴水にかけだしぬ 叔母逝きぬ白桃すうつとむくごとし 雪催捨てる写真を選びけり 知らぬ間に故人となりし冬の川 四月馬鹿あなた菩薩のままでゐて 美少年梅雨茸(つゆだけ)蹴りてふりむけり 言ひわけの手紙書き終へ夜の蟬 蜩や閂(かんぬき)重き銀行寮 飼ひ犬のやたらに吠える七五三 菜畑の波打つ彼方不眠症 少年老ゆ少女は老いず草雲雀 冬の虹告ぐる人なき帰宅かな 耕運機去つて君らに春の土 本句集の題字は、ご子息によるものである。 ご子息は、本づくりにも興味を示されて、お母さまのために装釘も お母さまと一緒に何度かご来社いただき、用紙やクロスを選んだり 「色はピンクに」というのが強いご希望だった。 お名前も桃子である。 見返しにも同じ用紙を使っているが、やわらかな表情をまとっている。 帯の色と響きあっている。 表紙の表のタイトルは型押し。 栞紐は紅色。 なんとも上品な仕上がりとなった。 まさに久地楽桃子さんそのもののイメージなのだ。 明るくて、翳りがなく、溌剌とした品の良い老婦人。 息子さんがお母さまのために心をくだかれた心づくしの一冊となったのである。 担当は、スタッフのPさん。 以下の句はPさんの選んだ好きな句。 蓮根を食む音に笑む淑気かな 蓼の花少年猫の目そつと拭く 牡蠣すする少年の胸のうすさかな あたたかや赤ん坊育つ音たてて 晩年は今かと思ふ栗ごはん あたたかや赤ん坊育つ音たてて わたしも好きな一句である。 人間はさまざまな音を立てながら大きくなっていく。 ときには耳をふたぎたくなるような大きな音もたてる。赤ん坊の泣き声だって生半可じゃない。それらの音をすべて肯いて、命の成長を見守る著者のあたたかな眼差しを感じる。 「あたたか」の季語でこの句が広がりと深さをもった。いい句だと思う。 ますますのご健勝をお祈り申し上げております。
by fragie777
| 2016-09-21 19:58
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