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9月16日(金) 十六夜 旧暦8月16日
今夕はふらんす堂で若い俳人たちの勉強会があり、すでにもう始まっている。 今日の勉強する俳人は、京極杞陽ということ。 いいなあ、 わたしも端っこで学びたいところであるが、まずはブログを書かなくてはいけない。 刊行日より遅くなってしまったが、新刊句集を紹介したい。 著者の永井由紀子(ながい・ゆきこ)さんは、1944年山梨県生まれ、現在広島市在住。1965年「夏草」に入会し「夏草新人賞」を受賞し、同人となる。1984年第1句集『翼船』を上梓、1985年「屋根」入会、1987年古舘曹人指導の「ビギンザテン西の会」に参加、1990年「天為」に入会。現在は「天為」「屋根」同人。2006年に第2句集『星恋』をふらんす堂より上梓。本句集は、2005年から2015年までの10年間の作品を収録した第3句集となる。序文を「天為」主宰の有馬朗人氏が寄せている。タイトルは「豊かなる詩情」。 由紀子さんは山口青邨先生の最晩年の愛弟子であり、「夏草」で活躍し始めた。青邨先生が一九八八年逝去された後、「夏草」の主宰を継承した古舘曹人兄の薫陶を受けた。一九九〇年「天為」が創刊されるや、その中心的作家として夫君永伊予人さんとともに作句活動に勤いそしんで来られた。このように由紀子さんは俳歴も長く既に優れた俳人として確立しておられる。「天為」の重鎮として私が最も頼りとしている仲間の一人である。 由紀子さんは青邨門下らしく写生力のある人であり、実に豊かな詩情を持った人である。また神話や伝説そして歴史に強い関心を持っている。更に民族風土にも興味を持ち、伊予人さんと共に国内更にトルコ、グアテマラ、ロシア、中国等々と広く海外へ吟行され、多くの佳句を得ている。 有馬主宰が序文で書かれているように、本句集には海外詠が多い。さまざまな国に行き、果敢に海外詠に取り組まれている。 コンドルや薪一把の冬支度 寒波来てマヤの暦に滅びの日 春告ぐる虹の二重に羊飼 風光る橋の向うが欧羅巴 明星はアララトにあり青葉木菟 まだ細きチグリス渡る麦の秋 アララト山はトルコ東部にあり、旧約聖書のノアの方舟の漂着地点とされている所である。歴史好きの由紀子さんの歓喜の声が聞こえて来るようであり、明るく生き生きとした句である。 また、著者は「神話や伝説そして歴史に強い関心を持っている」と序文にあるように、一句にそれらが織込まれているものが多い。 玉藻刈るいそひよどりの高鳴きに 蝶生る島のオラショのひらがなに 防人の妻の挿頭せし石蕗の花 象潟や一夜の宿の後の雛 高千穂の仔牛のそだつ神楽宿 壬生の鉦袴正して打ち始む をとこらが葺きてあをあを花御堂 どの句も光景が的確に描かれており、一句一句の格調も高い。読んでいて楽しくなる句である。 海外への旅行も多く、海外詠に積極的に取り組んで来られた永井由紀子さんであるが、国際情勢が厳しくなってきた昨今、以前のように長閑な気持で外国旅行も出来なくなってしまった。訪ねた各地に多くの思い出のある永井由紀子さんである。 もっともっと知らない町を、古代の遺跡を、尋ねたかったのに、ゆるやかな旅を許さぬ昨今です。少しずつ楽しんできた海外の吟行もはばかられます。 できるならもう一度会いたい人たちが居るのに。二〇一一年に巡った東トルコ、シリア国境のクルドの青年たち。木もなく、草もまばらな高原にバスが休憩したとき、石造りの小さな家々から興味津々の顔つきで集まってきた四人は、真っ先に「東日本の地震はどうでしたか?」と聞いてくれました。どの家もパラボラアンテナを取り付けています。十八歳になったら入営する、と屈託なく言っていたので、まだ十五、六歳の少年たちだったのでしょう。一泊したその近くの町が瓦礫に覆われているのを、今年二月の新聞でみました。トルコ軍とクルド勢力の衝突。もう十八歳になったはずの彼らもどちらかの側で戦っているのかもしれません。二〇一三年のエジプトは、つかの間の平和が戻ったときでした。日本からのツアーが何年振りかに再開され、とても喜んでいたガイドの男性。アレキサンドリアからカイロへの列車に乗り合わせ、私が通るたびうやうやしく帽子を胸にあてて、扉を開けてくれたハンサムな士官候補生。グアテマラで物を売っていた少女たち、今度は絶対値切らないで買います。ギリシャの島へ渡る船の中で会った、イスタンブールの女子大生とそのおかあさん、おばあちゃん。二時間ほどがとても楽しく、ことばはいまいちながら心はちゃんと通じました。あの時と同じ明るい笑顔で暮らしているでしょうか。 「あとがき」にこう記す永井由紀子さんである。 本句集は、21世紀前半の緩やかな良き時代の多くの思い出が俳句という短詩に凝縮されて収められているものである。しかし、牧歌的であるこが許されぬように世界は少しずつ追い詰められている。海外詠として詠まれたものは再び得るこのできない時間として一層の輝きをます。 ほかに、 防風の紅き芽に砂鳴きにけり 初蝶や余白かがやく予定表 神の田やひすいのいろの蛭泳ぐ おほるりや空海が風待ちし島 呼び水にあふるる井戸や大青嶺 うすぎぬの碧き朝鮮通信使 みごもりし子を送り出て白鳥座 嬰よいつぱい泣け鬼が来る春が来る 心太よもつひらさかより戻り 口すこしひらきて木乃伊日短か 端居して藤紫の母なりき 白夜光素顔で帰るバレリーナ 夢殿の碧き宝珠へ冬の蝶 啄木の町に消しゴム買ふ夜長 屈葬のかたちにねむり秋の航 時の日の螺旋階段駈け上り 集中から十数句紹介したが、こうしてみると色を感じさせる句が多いことに気づいた。ここには紹介しなかったがほかにも沢山ある。さまざまな色が登場する。固有名詞に含まれた色など、多角的な視点の多彩な色だ。きっと著者は意識をしていないと思うが、色彩感覚がひときわ鋭い方なのではないかと思う。 句集名「周(しゅう)」は永井由紀子さんの特別な思いがある。 「周」は句材を提供してくれる孫、周太朗の一字です。それに加えて、みんなみんな周く平安であるように、こころから願って集名としました。 「あとがき」より。 本句集の装釘は、和兎さん。 世界地図のイメージで、というのは永井由紀子さんのご希望だった。 それが本句集に艶やかさを与えた。 帯の用紙とおなじもの。 天アンカットで。 造本にも凝り、箔押しをふんだんに使い、贅沢な本作りとなったが、出来上りはあくまで瀟洒ですっきりとした一冊となった。 尼寺のあをき網戸を立てて留守 面白いと思った一句である。「網戸」が季語。伝説や神話を背後に感じさせる句が多い永井さんの俳句のなかで、あるいはこれも歴史をふまえた尼寺であるのかもしれないが、できるだけ背後の意味を感じさせず、事実のみを描写している句である。頭韻を踏みながらも最後に「留守」と突き放すように詠みとめているのもいい。「あをき網戸」が(ここにも色が)簡単には人の出入りを許さないような尼寺の清浄感を感じさせる。 勉強会はまだ続いている。 笑い声がしばしば聞こえて楽しそうだ。 いまから「入れて」とも言えないので、わたしはそっと退散しよう。 連休に入るが、わたしは合間をみては、仕事をすることになると思う。 可哀想なんて思う事ないわよ。 仕事が好きだからさ。。。。 こういう人生がいいかどうかはわかんないけど、わたしはそこそこ充実しているから、おかまいなくね。 皆さまは、どうぞ素敵なバカンスを。
by fragie777
| 2016-09-16 20:57
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