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9月7日(水) 旧暦8月7日
ここの前を通るとき普段は意識しないで通りすぎてしまうのだが、たまに(ああ。宝くじ、買ってみようかな)と思う。で、買う前から当たった時のことあれこれ考えはじめてしまう。その夢想は大きく膨らみ際限がなくなり、あげくにほとほと疲れてしまい、結局は買わないのである。 大金(たいきん)を手にしたことのない人間には、大金は無理である。というのがわたしの結論。 ああ、でも大金を手にしてみたいなあ。 最近読み終えた一冊の文庫本がある。 鷲田清一著『ちぐはぐな身体ーファッションって何?』(ちくま文庫)というファッションについて考察したものだ。 鷲田清一という著者は、いま朝日新聞で「折々の言葉」という毎日の連載をしている人で、わたしはこの本を読むまで恥ずかしながら哲学者であることを知らなかった。 しかしながら、そういうことはどうでもいいことで、この文庫本でとくに興味を持ったのが次の一節である。 ファッションというのは、規定の何かを外すことであり、ずらすことであり、つまりは、共同生活の軸とでも呼べるいろいろな標準や規範から一貫して外れているその感覚のことだからだ。ファッションというと、まず着飾るというイメージがあるが、ファッションとはほんとうは社会を組み立てている規範や価値観との距離感覚であり、ひいてはじぶんとの距離感覚であると思う。あるいは『空想美術館』というすてきな書物を著したフランスの作家、アンドレ・マルローのことばを借りると、それは「一貫した歪形(わいけい)[デフォルマシオン]であり、デフォルマシオンの自由さのことなのだ。 とあり、この後、世阿弥の能の「闌くる」という技について語った白洲正子の文章が引用されていて、それもとても興味ふかいのであるが、わたしが面白いと思ったのは、「ファッションとはほんとうは社会を組み立てている規範や価値観との距離感覚であり、ひいてはじぶんとの距離感覚」という箇所で、これはファッション論としてとても新鮮だった。あるいはすべての前衛的であろうとする表現行為に敷衍できるものではないか、ということでもあるとふっと思った。 「じぶんとの距離感覚」ということは、「等身大」に甘んじないファッションであるということ。 ファッショナブルでありつづけることは、なかなか気合いを要することであるのだ。 「わたしらしさ」とか「等身大」という風なよくわからないけどどことなく居心地のよい言葉にわたしたちは安住している、し、きっとこれからも安住しつづけると思うのだけど、どっこいファッションとはそんな生半可のものではないと、この一冊は語っているのだ。 一冊の本でも、ものをつくる行為というものは、いつの間にか自分の経験や感覚に安住してしまうということになりがちだ。自身に安住しないこと、「外す」「ずらす」あるいは「デフォルマシオン」ということ、それを本作りにおいても、頭の片隅につねに置いておきたい、そんな風にこの一冊を読み終えて思ったのだった。 今日はお一人お客さまが横浜からお見えになられた。 井田美知代さん。 第2句集となる原稿をもってご来社下さったのである。 井田美知代さんは、ふらんす堂より第1句集『雛納』を2004年に上梓されている。 この度の第2句集は12年ぶりとなる。 句集『雛納』はフランス装。 「フランス装は、いいですよねえ、今回もそれにしようかなあ、と思ってます」ということ。 フランス装はわたしも好きな造本である。 しかし、いろいろな造本があるので、それをお見せしたところちょっと迷われている。 「少し考えさせてください。」と井田さん。 井田美知代さんは、「槙」(平井照敏主宰)を経て「翡翠」(鈴木章和主宰)で俳句を学んで来られた。 いまは、俳句のお仲間と「燕句会」を始められその編集にたずさわっておられる。 わたしはすっかり忘れていたのだが、井田さんは、わたしが出版社勤務のときにその出版社に学生バイトとして働いていたのだった。 「すごく怖いおばさまがいて、その人にはげしく叱られて泣いてしまったとき、yamaokaさんが慰めてくださったんです」 あらまあ、そだったのかしら。 すっかり忘れていた。 そう言われてみれば、思い出した。わたしが勤務していた出版社は渋谷にあって、ちかくの大学から平井照敏先生の紹介で女子学生さんたちがアルバイトに来ていたのだった。 井田さんは、まだ20歳そこそこの学生さん、美しいお嬢さんだった。 (わたしだって、綺麗とは言いがたかったが、十分若かったぞ) その方がもうお孫さんまでいらっしゃるとは。 いったいあれから何年の月日が経ったでのあろうか。 ああ、いやだ、考えたくない。 でもそんなご縁のある方の句集をまたふたたび刊行させていただけることは、本当に嬉しい。
by fragie777
| 2016-09-07 18:36
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