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6月24日(金) 旧暦5月20日
名前をおしえてもらったのかもしれないが、忘れてしまった。 わたしは多くのことをどんどん忘れていく。 友人たちと旅行したときのことも、おおかた覚えていない。 友人たちは、あの旅館のあの食事が美味しかったとか、旅館の部屋がどうであったかとか鮮明に覚えていて、そんな話題になったりするのだが、わたしは覚えておらずひょっとしてわたしはそこに行ってなかったのかもしれぬと思い、「わたしもそこにいた?」と聞くと、きまって「あなたもいた」という返事をもらう。 しかし、すべての記憶は頭ん中でシャッフルしてしまい、解体された記憶の破片が夢ともうつつともわからぬ様相でわたしの体のなかをゆらゆらと漂っている。 ただわすれられない旅の記憶というのもある。それは物語をたどるものだ。 わたしの中で構築された物語を現実の肌触りのなかで辿っていくとき、それは鮮やかな色と明確な輪郭をもった形となり、体にあたらしい物語として刻まれていく。 物語の新しいピースをはめ込むように。 しかし、大方のことはまるでそこに行かなかったかのように忘れさっている。 「俳句界」7月号で「私の一冊」という特集に池田澄子さんが、林桂句集『ことのはひらひら』を取り上げて書いておられる。 全部を紹介したいところだが興味を持たれた方は「俳句界」を買っていただくのがいいので一部を紹介したい。 (略)「ひらひら」は、詞書で日常という俳句空間を作り、そこへ付句のように一句を寄せて、本来は一句自立を目指す俳句文脈を、異化させようと考えられたものだという。 一句は前書や注釈に助けを求めず自立できていなければならないと私は強く思っていて、異論を挟むべき立場である。ところがこの意識的な「異化」の方法には魅せられた。 例えば「折笠美秋さんへのひらひら」は、美秋の『死出の衣は』の一句と、寄せた一句。 海の蝶最後は波に止まりけり 阿蘭陀(オランダ)坂(ざか)に海(うみ)の恵(めぐ)みの入日(いりひ)かな 美秋の蝶が最後に縋ったのは瞬時に消える波の先。林桂の、阿蘭陀坂から見る夕日は、海の恵みに大きく輝き海に没する。(略) 「ひらひら」は火のゆらめく様を表すが、鋭い痛みも表すらしい。このような知と情の混じり合った新空間を出現させた一著。私が信じ愛するのは、林の、損得に遠い情の濃さだ。その人が敢えて俳句文脈の異化を試みた「新」への志。嬉しい一著である。 池田澄子さんは、書く。「私が信じ愛するのは、林の、損得に遠い情の濃さだ。」と。 まさに同感である。わたしも林桂さんの「損得に遠い情の濃さ」に打たれたひとりである。 句集『ことのはひらひら』がふらんす堂刊行となったのは、30年以上前の編集者時代のわたしとの約束を忘れずに(わたしは忘れた)いてくださったことによるのだ。 原稿を持参された林桂さんの思いに応えるべくわたしは燃えた。 しかし、である。 こここがわたしの間抜けなところ。 「ひらひら」にふさわしい箔をカバーに用いたいと箔押し見本を取り寄せていままで使ったことのないホログラムホイルの箔を使うことにした。少々値段がはってもサービスしようと心に決めていた。ところがである。このホイル箔、目玉が飛び出るほどの値段だった。しかし、もう後には引けない。前へすすむのみ。フランス装カバー装、A五判のすこし細めの白い本。銀色のホイルが複雑な模様を形作ってそれは美しい本となった。 さらにしかし、である。ショッキングなことが持ち上がった。 林桂さんの名前の読みは、「はやし・けい」である。それをすべて「はやし・かつら」としてしまったのである。 本が出来上がってからそれに気づいた。 嗚呼!!! 全部を作り直すことになったのである。 ふたたび素晴らしい値段のホログラムホイルを使うことになったのは言うまでもない。 すべてはわたしの間抜けさと脇の甘さに起因する。 林さんはわたしを信頼し待っていてくださる。前にすすむのみ。 そうして、作り直されて出来上がった本はすばらしく美しい一冊となった。 林桂さんは喜んでくださった。 わたしはそれで良しとすることにしたのだった。 こういう失敗談はブログでは書かないことにしているのだが、書いてしまった。。。 句集『ことのはひらひら』には、池田さんが書かれているように「知と情の混じり合った新空間」があり読者を魅了する。方法は知的であるがそこにある世界は繊細な情が織り成す多くの物語に充ちたものだ。 林桂によって切り拓かれた形式であり彼の体質によく合っていると思う。 坪内稔典さんの「船団の今日の一句」は、昨日と今日は、コダマキョウコ句集『CẢM ƠN』より。 枇杷である翼喪失して以来 コダマキョウコ 句集『CAM ON』(ふらんす堂)から引いた。このタイトルはベトナム語で「ありがとう」の意味らしい。作者は大のベトナム好きだ。さて、今日の句だが、枇杷に翼があったとは初めて知った。こんど枇杷を食べる時、きっとこの句を思い出すだろう。もちろん、枇杷の味が一変するに違いない。私は「びわ食べて君とつるりんしたいなあ」と作っているが、つるりんしながら空を飛ぶって、いいなあ。 ダンスシューズホタルブクロノナカニアル コダマキョウコ 昨日に続いて句集『CAM ON』(ふらんす堂)から引いた。作者は1948年生まれ、京都市に住む。私はこの句集の跋で、キョウコはいつもライバルだ、と書いた。今日の句を通してホタルブクロのイメージが一新するというか、非俳句的なホタルブクロが登場した。こういう句を作るところが私のライバルたるゆえんだ。 今年はまだ枇杷を食べていない。枇杷は好きな果物の一つである。 たくさん食べるとお腹をこわすけど。 今日は枇杷を買って帰るとしよう。 枇杷を買うときに、「翼喪失」「つるりん」って称えよう。 おいしい枇杷が手にはいるかもね。。。。
by fragie777
| 2016-06-24 18:50
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Comments(2)
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
蓬さま
コメントをありがとうございます。 枇杷と海の色の対比が美しいですね。 枇杷はすでに売っておらず、かわりにメロンを買いました。 今年は枇杷を食べていない。。。。 (yamaoka)
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