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2月26日(金) 旧暦1月19日
水温むという感じが伝わってくる。 いま句集製作をおすすめしている加田由美さんより、FAXをいただいた。 そのなかの数行に目がとまり、一瞬からだが凍ったようになった。 以前『ゆらのとを』を出されました永末恵子さん、2月19日に急逝されました。 ながい友人でした。再校のゲラをいただいた日でした。 (永末さんが亡くなった……) 信じられない思いで、すぐに加田由美さんにお電話をしたのだった。 職場で倒れられ、そのまま病院へ運ばれたがすでに亡くなっていたということ。 1954年生れだから享年62歳。若すぎる。。。 生前最後の句集は、ふらんす堂刊行の『ゆらのとを』ということになる。 永末恵子さんは、ちからのある俳人だった。もっともっとその作品について語られていい作家であったが、そうやすやすと語ることのできない作家でもあった。 語る人間の力量が問われる、そんな俳人だった。 『ゆらのとを』はわたしにとって作品のみならず装丁、造本をふくめて忘れられない句集である。 永末恵子さんについてはまた改めてブログで触れたいとおもうが、ともかく急逝されたことを伝えておきたい。 心より哀悼を申し上げます。 はたりんと突然死あり白玉あり 永末恵子 今日は新刊紹介をしたい。 四六判ペーパーバックスタイル。92ページ シンプルな装丁で薄い本であるが、収録句数は多い。5句組である。 著者の大野素郎(おおの・すろう)さんは、昭和9年(1934)兵庫県生れ。今年82歳になられる。平成3年「雲雀」(品川良夜主宰)に投句をすることによって俳句をはじめる。この俳句との出合いを「あとがき」で以下のように記している。 定年間際にして読んだ子規の辞世三句に感動した私は、すぐ俳書を数冊買い読み耽った。中の一冊『右脳俳句入門』(品川嘉也著)を携え、翌朝出張のため上野から東北本線に乗った。大宮を過ぎて田園風景が広がる頃、窓を開けると一匹の蜻蛉が舞い込んできた。その瞬間に私の頭に五七五のリズムで詩が生まれた。これが私の俳句への関りの始まりである。巻末に挟まれていた投句用紙に早速、書く。そして、さて俳号はと考えると、世相を代表する流行語が「モーレツ」から「スローライフ」となったことが浮かび「素郎」と言う字を当てて、著者が俳号良夜で主宰する、俳誌「雲雀」に投稿した。 その年の末に「雲雀」誌が届いた。そこにはこの句集の巻頭に紹介した一句が掲載されていた。 はぐれたる蜻蛉一匹吾と往く 「俳句人生航路はじまる」という前書が付されている。 品川良夜主宰は末期癌のため一年経たず逝去、その後は「雲雀」の師系にあたる「春嶺」に所属、平成11年「春嶺賞」を受賞、その後二冊の句集『素のまま』『ポケットに俳句』を刊行されている。本句集は第3句集となるわけであるが、このことについても「あとがき」を紹介したい。 第一句集『素のまま』、第二句集『ポケットに俳句』は「春嶺」発表句を中心にまとめたが、第三句集『航跡』は「雲雀」から出発した私の紆余曲折の俳句人生航路を見ていただきたく発表句をまとめたものである。 句集名を「航路」とした所以である。 本句集は平成4年より26年までの22年間の作品が400句ちかく収録されている。ハンディなシンプルなしつらえであるが、読み応えのある句集である。 大股に歩く女や更衣 湯上りの二人でつつく掻き氷 しぐるるや酔ひ足遅き独り酒 冬の波佐渡より寄せて佐渡へ引く 枇杷すすり噂話に割り込みぬ 影のあるものみな美しき十三夜 手花火の火しづく過去へこぼれ行く 黄沙降る昭和史はまたわが半生 大輪の薔薇を咲かせて路地住まひ 赤まんま門扉に覗く犬の鼻 着ぶくれて本音を深く蔵しけり 西郷像仰ぎニートの日向ぼこ バレンタインチョコにほぐるる長寿眉 火蛾狂ふ酒場の壁に三鬼の句 次世紀へあと千日や柳絮とぶ 鳶の輪の三つ四つ五つ春岬 行春や渚にハングル文字の壜 老いてなほ滾るものあり冬北斗 淡雪や書いてまた消す句のあまた 花びらを付けて乾ける洗ひ物 山霧の流るる林ましら茸 裸の子笑ひの中を逃げる逃げる 後楽の八十路に入るや初日の出 富安風生・岸風三楼を師系とする「春嶺」の俳人だけあって生活に根ざした人間味のある俳句が多い。定年間際に俳句を始められその後三冊もの句集を刊行されたのだがら、俳句への入れ込みようは尋常ではない。句集を拝見していくとどんなことでも俳句にしてこられたそれこそ日常の一瞬一瞬が俳句、というそんな作者の横顔がみえてくる。「あとがき」の最後に「この句集を、私の終世の伴侶妻に捧げる」とある。して、その妻は、 大嚔妻は小嚔早仕舞ふ 一口は妻にも勧め温め酒 七夕やミニ笹飾り妻と酌む カーネーション胸に精出す厨妻 ともに酒を酌み交わす仲の良いご夫婦である。 できるだけ軽装なシンプルなものをという大野素郎さんのご要望に応えて出来上がったのが和兎さんの装丁によるもの。 スマートで堂々とした句集となった。 思わず開いてしまう、そんな出来上がりだ。 こういう句集も悪くないなあっと、仕上がったものを手にとって改めてそう思った。 軽やかなにしかしどっしりとした風格のある句集『航跡』。 この後、どんな航跡がつづいていくのであろうか。。。 日々新を座右に今日も昼寝せり 後半におかれた一句である。 思わず笑ってしまった。 このスローライフ感、とてもいい。 わたしは好きだ。 この余裕をもって、日々新しい俳句に挑戦をしていっていただきたいと思う。 お客さまがひとりご来社された。 上田りんさん。 俳誌「椋」に所属する俳人である。 第一句集を上梓すべく今日はその打ち合せにいらっしゃった。 埼玉県の三郷市というところからである。 渋谷生れというからもともとは都会人である上田さんだが、ご主人の御仕事の都合でいろんなところに行って住んだ。東京周辺の街のみならず北京や上海に住んだことがあるとのこと。 上田さんが暮らした20世紀末の中国はいまとは全然ちがう様相を呈していて、街を驢馬があるいていたり「とても面白かった」とのこと。 いまはとてもそんな体験はしようと思ったってできっこない。 しかし、その上田さん。「京王線に乗ったのは、はじめてです」「仙川ってずいぶん賑やかな街ですねえ」と驚いておられた。 俳句をはじめてから10年になるという。 「今回、句を選びまとめてみて何か発見がありましたか」と伺うと、 「わたし、こんな俳句も詠んでいたんだって、俳句をとおして見知らぬ自分に出会いました」と。 そうなのか。 句集をつくる、ということは「見知らぬ自分に出会う」ということでもある。 わたしはふっとそんな風に思ったのだった。
by fragie777
| 2016-02-26 17:44
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