6月10日(土)
いま、後藤比奈夫氏の精選句集『心の花』(自選三八〇句ふらんす堂文庫)をすすめていて、この六月の刊行を予定している。とっかかりは今年にはいってからなのであるが、氏がことしの蛇笏賞を受賞されたので、その記念に俳句のお仲間に配りたいということでもうまもなく刊行になる。この文庫シリーズは、栞がついていて、少し前に刊行された深見けん二氏句集『水影』では、歌人の小島ゆかり氏が名文を寄せて下さったことは記憶に新しい。今回、どなたにお願いしようかと思いながら、実はひとりお願いしてみたい方がいた。ご本人による肩書きは、「うた詠み・目医者」であるところの寒川猫持氏である。わたしの知人で新聞記者をしていたのであるが数年前に亡くなってしまった男が寒川猫持の大ファンで、彼にすすめられてエッセイを何冊か読んだのであるが、なるほど面白い。すでに亡くなってしまった作家・山本夏彦の大ファンでもあったその友人は、山本夏彦経由でこの寒川猫持氏を知ったらしい。寒川猫持のエッセイを読み進んでいくうちに、なんと彼は俳句をつくっていたことを知ったのである。しかも俳句の結社に所属していた。それが後藤比奈夫氏のところの「諷詠」であったのである。一度、後藤比奈夫氏にそのことをうかがってみると、「ああ、そんなこともありましたねえ」と笑っておられた。その寒川氏に是非『心の花』に栞の文章を貰いたいと思い、後藤氏に相談したところ、「書いてくれればいいですね」という了解をいただき依頼を決めたのだった。ところがである。この寒川猫持氏、引っ越し好きなのか、依頼状がなかなか氏のもとにたどりつかない。文芸年鑑の住所で戻り、短歌年鑑の住所でもどりおまけに電話番号の記載なしで、新潮社の文芸出版部に連絡して担当編集者を何度かの電話でやっとつかまえ、おしえてもらった新しい住所に三度めの依頼状をおくる。それが多分、一昨日。
今日は土曜日、休みのふらんす堂にきてみると、なんと寒川氏よりFAXにて原稿が送られているではないか。読めばやはり味のある面白い文章である。その原稿のはやさに驚くとともに、三度のトライが無駄にならなかったことが嬉しい。こういうのってやっぱり編集者冥利につきるっていうのかな。
私に寒川猫持さんを教えてくれた山本夏彦好きのいまは亡き友人が、寒川さんの原稿を貰ったって言ったら、きっと喜んだろうなあ、と。また、一昨年なくなった俳人の田中裕明氏が山本夏彦さんを好きだったことなどを思い出し、わたしより若くして亡くなったお二人のことを思う。死者はますます近しい存在になってくる。
写真は今日みかけた白紫陽花。あまりにもきれいなので思わず撮ってしまった。