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8月11日(火) 旧暦6月27日
一山もあるような大きな木の木槿である。 今日も波瀾万丈の一日だった。 思いもかけないことがさまざまな角度からやってきて身をかわすことに精一杯である。 身も心も傷ついたか、いやいや決してそんなことはない頑丈なyamaokaであった。 新刊句集を紹介したい。 大石香代子句集『鳥風』(とりかぜ)。 白のシリーズの一環として刊行されたものである。 著者の大石香代子(おおいし・かよこ)さんは、昭和30年(1955)東京生まれ。昭和56年「鷹」入会、藤田湘子に師事、「鷹春秋賞」「鷹新人賞」「鷹俳句賞」を受賞、本句集は前句集『『磊磊』』につぐ第3句集となる。平成14年から25年までの396句を収録。幼い頃は病身であったが本年の春に還暦を迎えられた。 還暦とも本卦返りとも謂われるこの区切り年の上梓によって、字義どおり生まれ変りの新たな一歩を踏み出せたらと願っていますとあとがきにあるように「新たな一歩」を期しての上梓となった。 帯には、小川軽舟主宰があたたかな言葉を寄せている。 春惜しむ店の机にもの書いて 香代子さんの俳句はどれもなつかしく、ほのかに寂しい。いつか失う予感を孕んでいるからだろう。だから一層なつかしい。家業の和菓子屋の机から顔を上げた香代子さんの行く道は、この句集から始まっている。 鳥辺野の葛吹く風に招ばれをり 句集の掉尾の一句である。句集名の「鳥風(とりかぜ)」と彷彿とさせる一句だ。 「葛吹く風」のいくぶん荒々しい気持のよい風に吹かれている著者の姿が見えてくる。しかし「鳥辺野」という地名は、「東山区南部、阿弥陀ケ峰北麓の五条坂から南麓の今熊野にいたる丘陵地、鳥辺山のふもと一帯を総称。平安期から墓地、葬送の地として知られる。」とあるように京都の古い土地であり死者と親しい場所でもある。そうなるとこの一句、幽冥界へとも通じるようにコワイ。葛を吹きすさぶ風は猛々しく人の霊魂を呼び寄せるようでもある。そんな風に著者はひるむことなくその時空の招くものに身をまかせそれと感応しているかのようだ。吹き寄せる風に翼をえて飛び立たんとする果敢な姿さえ彷彿とする。 おり生まれ変りの新たな一歩を踏み出せたらと願っています。 この十年あまりは一句のうちに時間性を齎したいと考えてきましたが、省みて満足できる句はほんのわずかです。しかしながら最近、私は空間と時間とそこに顕れる存在、変化や命といったものに魅かれてきたのだと確信しました。俳句を続けている理由もそこにあるのだと分かり、新たな力が湧いてくるのを覚えました。 「あとがき」の言葉である。「私は空間と時間とそこに顕れる存在、変化や命といったものに魅かれてきた」と書き、俳句を続けている理由もそこにある、と書かれている。 われに永き水棲のころ夕蛍 だんだんと影と親しむ踊かな 子も墓も無くてよろしき木の実かな やすらかな五感やからすうりの花 永き日や大仏を見て海を見て 南風吹く声なきものらわたなかに 祭見て帰れば畳にほひけり 花冷の畳に枕ふたつかな スタートの永き一秒雲の峰 昼顔のあはく小さく六本木 東は西よりさびし冷し酒 書斎欲し枯野全景見るために わが息の発たせし冬の蝶かとも 杜若生者の側(がは)に目覚めたる 爽やかや畳めばものの四角なる たつぷりと夜気をふくめる春着かな 手の平と手の甲いづれ秋惜しむ 春月やみななきがらの浜のもの 鳥雲に癒えたるのちの骨身かな 出入口風船の子にぶつかりぬ この「風船」の句が好きである。省略の効いた一句だ。こういう経験をしたことがある人は多いかもしれない。あるいは実際に経験しなくても経験したように思わせてくれるそんな一句である。その時の子どもの身体の柔らくて固い衝撃、風船が揺れこちらの顔をポンと打つ。子どもの匂いまで伝わってくるようだ。「出入口」や「風船の子」に象徴的な意味づけをして読もうとすれば読めるかもしれないが、そんなことをしてはいけない。誰もが記憶の底に持っているようななじみある経験、子どもの方だったかもしれない、風船があるかぎり未来永劫に繰り返される風景だ。 石蕗咲いて昼行灯のわが頭 狐火やわれより白き夫の手 子のなくて夫婦をさなし蜆汁 著者のすこし自嘲的な自画像と繊細な手をもつ夫、そしてむつまじく暮らすお二人。この白き手の持ち主は俳人の石嶌岳さんである。とても好ましく読んだ。 日本に渡って来ては飛び去ってゆく鳥たち。句集名とした鳥風は、その鳥たちが巻き起こす風のようにも聴こえる飛翔の羽音です。 「鳥風」とした所以をかたる「あとがき」である。 装丁には「鳥の翼を用いて欲しい」というご要望であったが、いくつかあったラフイメージより翼ではなく、あえて地に這う鳥の絵柄を大石さんはお選びになった。 こういうところが本作りのおもしろさである。 装丁は和兎さん。 秋水や発つといふこと鳥にあり 秋水に身体を映して爽やかに飛び立つ鳥。。 わたしもこの鳥のように新しい明日に向かって飛び立ちたい。 今日は午前中におひとりお客さまがみえた。 俳人の前北かおるさん。 第二句集となる句稿をもってご来社くださったのであるが、その第二句集についてのお話があまりにも素敵で楽しいものなので、また明日改めてご紹介したいと思う。
by fragie777
| 2015-08-11 21:00
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