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11月12日(水)
単なるオブジェではなく機能しているようだ。一本100円とあって瓶のコーラが中に横たわっていた。興味をもちトライしてみたかったが、わたしはコーラはあまり飲まないのであきらめた。一口は飲んでもきっともてあましてしまう。 美しい赤の色をもち心引かれる販売機である。 わたしはあのアメリカ映画「アメリカングラフィティ」の世界に引き込まれるような思いがしたのだった。 60年代のポニーテールのスカートをふくらました女の子や、リーゼント頭の細いズボンをはいた男の子たちがこの販売機の前にたむろしていたっておかしくない。 青春のノスタルジーをまとったコカコーラ販売機だった。 新刊紹介をしたい。 この歌集には略歴がない。何歳くらいでどこに住んでおられるか、そういう情報はわからない。この歌集を読み進み「あとがき」を読むことでおぼろげながら著者像がみえてくる。 まずは短歌を読み進んでいこう。 「現在のあなたの趣味はなんですか?」「つり銭なしで払うことです。」 入道雲(にゅうどうぐも)に何かがきっと隠れてる見破ることに半生をかける 大金をいくら払えど病院はポイント一つ付けてくれない 中野とう名でないけれど君のこと「なかの」と呼んでるいかなるときも 三百と八十円の鮭弁のさけにつく白い物体は何 短歌という定型の韻律によって浮かび上がるものが作者の人間像であるとしたら、日常生活における瑣末なことやすこしのズレを楽しんでいる作者像がみえてくる。 ただ、その楽しみは「さびしさ」や「かなしみ」のベクトルをもつ「楽しみ」にも思えるのだ。 風呂を出て洗い忘れたうで想い再び風呂場に戻っていく我 ナポリタンのソースがシャツにしみ込んだこの悔しさは〈白鵬の一敗〉 小さな目にちいさな涙が溢れたら〈ふくぢんずけ〉と紙に書いてみな 歯を磨く事よりまずは歯ブラシをキレイキレイでしっかり洗う 郵便の番号につける〈〒〉(こ)のマークを〈牛〉という字で出してみるのだ 母がふと「もう終わりだ。」とつぶやいた人生でなくサラダ油に (帰省して) 「短歌にはユーモアの力がある」とは帯に書かれたことばである。これは著者の切なる思いだ。ユーモアのベールを纏わせながらも著者は傷つきやすくかぎりなく孤独だ。 「あとがき」を紹介したい。 期間は曖昧なのですが三三三首の歌を収めました。俵万智氏の『サラダ記念日』に衝撃を受けてから三十年弱、少し時間が経ちすぎてしまった。と言うのは、その後私は映画「ロッキー」にも衝撃を受けてしまい、映画の世界へと飛び込んでしまったのです。それからというもの大学時代の四年間はまさに映画づけの毎日でした。一年間で三百本の映画(ビデオも含む)を観たくらいです。そして就職。テレビ関係の会社に入ったのですが、そこで心(精神)の病気になってしまい、退社を余儀なくされました。その後は病気との闘いです。 施設のある病院では入院もしました。なかなか病状が良くならなかったので、色々な病院を転々としました。そんな中私が大事にしていたのが〈ユーモア〉です。病状が思うようにいかなくても、ユーモアの精神を忘れなければ大丈夫だと思いGギャグ(おやじギャグ)を考えたりしていました。今回の歌集でもそのユーモアが色濃く出ていると思います。そんな中少しずつ状態も良い方へ向かい、そして紹介されたのが〈NPO法人じりつ〉でした。そこで私の人生が変わるほどの出会いがありました。岩上洋一氏、鈴木國弘氏、松田由紀子氏の方々です(挙げればきりがありません)。いずれも私のことを理解し、見守ってくれた恩人です。おかげで私もどんどん元気になり、NPO法人じりつで働いています。感謝の言葉もありません。 精神の病になったときに「ユーモアの精神」が関口さんを救ってくれたとある。そして「短歌にはユーモアの力がある」のだと。 これは彼の切望、いや祈願というべきか。 この歌集は、関口しいちさんの叙情の心象がユーモアを折り込みながら詠われている。定型を十全に活かしながら口語体であるので分かりやすく心に飛び込んでくる。 タイトルは「パイナップルの種」。 無意識に食べられる程の存在のパイナップルの種であります 「パイナップルの種?」はたしてパイナップルに種はあったのかしら?と思い調べてみたところ、ありました。意外なものが種でした。たしかに「無意識に食べられる程の存在の」ものでした。しかし、種はある。かくのごとく、著者は通常人が気づかず擦過してしまうものに思いをとめそれを日常から掬って見せるのである。 スプーンの中にて逆さに立つ男我にどうしろというのだろうか 〈止〉の文字に一を一本たすだけで〈正〉の字になる スタートをせよ デジタルの時代であれば十一時五十九分は十二時でなし 豆乳の完全密封包装の賞味期限が先に年越す 装幀は君嶋真理子さんによるもの。 明るいあたたかな一冊となった。 思わず手に取りたくなるような一冊である。 担当はPさん。 「ユーモアを大切にしています、とお原稿を入稿いただいた時からずっと仰っていました。つらいことが立ちはだかった時に、ユーモアで乗り切るということにとても共感を覚えました。そんな関口さんの思いが装丁のパイナップルにも表れている気がします。装丁者の君嶋さん曰く、カバーの下にある表紙や見返し、扉の紙を、パイナッ プルが包まれている箱をイメージしたとのこと。そこのところにも注目していただければと思います。」とPさん。
この歌集、じつは後半の最後のほうがなかなかしんどくて切なかった。 来世をもし変えることができるなら是非シュレッダーに我はなりたい この世とは理屈まみれの時代なり星の瞬きさえも故あり えさ金になると言われた来世の身 我の使命はすごくはかない 「えさ金」とは「えさにするための金魚」のことである。 しかし、次のような一首もあってほっとするのだ。 納豆を百回混ぜるそのうちに笑みこぼれくるああ、春が来た これからがどうぞこのような日々でありますように。 午前中にお客さまがお二人みえた。 俳人の太田土男さんと中村晋子さん。 お二人とも俳誌「百鳥」(大串章主宰)の同人でおられる。 太田氏は、俳誌「草笛」の代表者でもある。 ふらんす堂より第四句集を刊行されるご予定だ。 今日は、中村晋子さんを伴ってご来社くださったのだ。 中村晋子さんも句集の刊行の予定があり、句稿をご持参くださった。 太田土男さんが、跋文をお寄せくださることになっている。 中村さんは、狛江市にお住まいでふらんす堂からは近いところである。 「ご近所のよしみで」ということで刊行を決めてくださったのである。 太田土男さんと中村晋子さん。 太田さんは、お帰りになる時に「これから吉祥寺で句会があるんです。今日は夜もあってダブルヘッダーなんですよ」と明るく笑われたのだった。 「ご近所なんですからまたいつでもどうぞいらしてください」とわたしは中村さんに申し上げたのだった。
by fragie777
| 2014-11-12 19:59
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