ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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潮騒のごと……

11月4日(火)

潮騒のごと……_f0071480_1883935.jpg
秋の野芥子。羽蟻だろうか、虫がいる。
カメラに撮ってから虫の存在に気づいた。
わたしの場合ピントを合わせてアングルを決めて写真を撮るということはあまりなくてひょいひょいと何も考えずに撮ってしまうので、あとですばらしいおまけに気づくということが多い。
これも「秋の野芥子っていうのよ」って教えられ、「あらそうなの」なんておしゃべりしながらバシャバシャ写したものの一枚である。


(実はこれは「秋の野芥子」ではないということです。

ご指摘をいただきました。
普通の野芥子ということでした。
訂正します。)




あるデザイナーの洋服に魅せられてしまった。
フォルムと材質とそこから醸し出される何かがわたしを魅了する。
その何かとは、あるいはヨーロッパの洋服の伝統がいやおうなくもたらす何か、とも言えるかもしれない。
およそわたしになどふさわしいローブではなく、あの受胎告知に現れる天使ガブリエルにこそ似つかわしいようなものだ。
そんな身の程しらずのローブにわたしはすっかり虜になってしまったのだ。
あのドレープのたっぷりした夢見るような袖、わたしのこのそまつな腕を一度でいいから通してみたい。
わたしの腕はよろこびのあまり羽ばたいて飛んで行ってしまうことだろう。

さらに、
価格もまた現実のものではなく、はるか天上のものであった。
きっとわたしが夢見るためにのみ存在するものなんだろう。
永久にわたしの腕の願いは叶えられないことになった。

わたしを魅了したそれらは、イギリス出身の男性デザイナーによるものだったと知る。
そして、
天才デザイナーと賞賛された彼は、2012年に自死と思われる謎の死をとげていた。
40歳だった。





新刊句集を紹介したい。

三枝正子句集『七草』(ななくさ)。

潮騒のごと……_f0071480_18340100.jpg
四六判フランス装。234頁。

著者の三枝正子(さえぐさ・せいこ)さんは、昭和2年に東京都台東区に生まれ、昭和58年に俳誌「風」に入会、沢木欣一・細身綾子の指導のもとで俳句を始められる。「風」新人賞、「風」賞受賞、文章においては「風」500号記念賞を受賞されるというすばらしいキャリアのある俳人である。第一句集『白夜』を平成12年に刊行しておられる。「風」終刊後は、俳誌「万象」(大坪景章主宰)が創刊すると同人として参加、平成17年に「一葦」(島谷征良主宰)に入会して平成25年に同人となられた。句集名「七草」は、句集のはじめにおかれた「七草の夜更けてよりの雨の音」による。「あとがき」の冒頭を紹介したい。

 『七草』は『白夜』に続く第二句集である。平成十四年より平成二十六年までの約四百句をまとめた。沢木欣一先生を平成十三年にお見送りしたあと、耳底に残っているのは常に言われた「気宇壮大に」という大きな言葉である。「万象」では故滝沢伊代次先生のご薫陶を得、大坪景章主宰の決断あるご選に学んで来た。また、平成十七年に入会した「一葦」の島谷征良主宰の古格のある声調に励まされ今日に至っている。

 竹林はすでに闇なり白牡丹
 ステーキを切ればもも色寒明くる
 波郷眠る地へ落葉浴び落葉踏み
 欣一恋ふ百人町の牡蠣フライ
 葱買ひに出てやはらかし雛の雨
 クッキーのざらめきらりと利休の忌
 鳥の巣へ巡礼の鈴ひびきけり
 薄暑の夜フランス綴ぢのヴェルレーヌ
 てんぷらの零余子や燗を熱うせよ
 金魚泳ぐドレス見せびらかすやうに
 朝顔市閉ぢて久しきモスリン屋
 月をみて地を見て踊りすすみけり
 鳩サブレー割るる小さき冬の音
 極寒やキャラメルの箱天使ゐて
 淡雪の空へ透明エレベーター
 ポケットに手を入れ枯野人となる

たくさんの収録句のなかからいくつかを紹介したのだけれど、こうして見ると日常のほんの一コマからきわめてさりげなく俳句が生まれてきているそんな句が多い。意識的にそういう句を紹介したわけではないのだが、「ステーキ」であったり「クッキー」であったり、「天ぷら」や「鳩サブレー」「キャラメル」など食べ物に関することばをうまく登場させている。「鳩サブレー」の句はなかでも好きな句だ。ほかに「金魚」の句も面白い。句集を読んでいくと三枝正子さんが古典への造詣がある方であり、作品の背後にたっぷりと著者の情操を培っていることが自然とわかってくる。ふたたび「あとがき」より紹介したい。

私は、日本語の「五七調」は、日本語の響きが自然と生み出した「呼吸」と思っている。『古事記』の
  八雲たつ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を 須佐之男命
この歌を原点とする、日本語の「調べ」は自然に言葉を呼び起し、吐く息、吸う息となってゆく。この呼吸感、心地よく歌う喜びは庶民も、宮廷人も、町衆も、近代詩人も、まるで、あたり前のことのように五七の調べに乗っているではないか─。
私も命の限り、さわやかに五七の調べの若葉風に吹かれていたいものである。



この句集の装丁は和兎さん。
三枝正子さんのご希望で造本はフランス装。
図版に新春の七草のひとつ「蕪」をあしらった。



潮騒のごと……_f0071480_19345616.jpg


潮騒のごと……_f0071480_19351555.jpg
潮騒のごと……_f0071480_19353028.jpg
裏にもあしらってみた。
潮騒のごと……_f0071480_19375596.jpg
帯裏にも。(すこしわかりにくいが)
潮騒のごと……_f0071480_19382715.jpg
見返しの用紙は和紙風の皺が横にはいったもので白くて粛々とした手触りがいい。表紙もおなじ用紙をつかっている。

潮騒のごと……_f0071480_1940213.jpg
フランス装の折り目。

潮騒のごと……_f0071480_1940464.jpg
扉。

潮騒のごと……_f0071480_19411712.jpg
スピンは白。

潮騒のごと……_f0071480_19413931.jpg
タイトルは金箔文字。
収録句数は400句と多いが重くれず、白が目にあたらしい印象的な句集となった。

この句集の担当はPさん。

 潮騒のごと万緑に風立てば
 米洗ふ間に春雪の庭となる

「いろいろな装丁案があった中で、私も一番好きだなと感じた装丁に決まりました。刊行後に三枝さんのお写真を拝見する機会があったのですが、三枝さんにとってもぴったりの装丁だったと思っております。」

装丁については三枝さんはまっさきにこの「蕪」を気に入ったということで選ばれたのだった。

「潮騒のごと」はわたしも好きな句であるが、わたしはつぎの一句を紹介したい。
 
  蟻が蟻咥へ乱歩の誕生地

すごく江戸川乱歩らしい一句だと思ったのである。「蟻が蟻咥へ」というところ、微細であるが凄惨な風景だ。
江戸川乱歩は好きな作家で、かつて出版社勤務のときにわたしの後ろの席にいた矢部くんという同僚の男子編集者から借りてかたっぱしから読みまくった。少女時代に怪人二十面相とかのシリーズはわくわくとして読んだ記憶はあるが、(小林少年すてき!)江戸川乱歩のものをそれ以上は読んでいなかった。矢部くんが持っていたのは春陽堂から出ている文庫本のシリーズで、それはもう夢中になった。乱歩の世界がはなつ怪しい背光性をもったグロテスクな世界にどっぷりと浸るのは心地よかった。すぐに読んでは矢部くんに「次貸して」と催促したのだった。
残念ながら矢部くんにはもう乱歩を借りることができない。
その一年も経たずして彼は急逝してしまったのだった。
25歳の若さだった。



 
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by fragie777 | 2014-11-04 20:29 | Comments(4)
Commented by ヨシカワ at 2014-11-10 13:38
YAMAOKA Kimikoさん、こんにちは。

写真の雑草を「秋の野芥子」とされていますが、「アキノノゲシ」は別種となります。当方のブログでも紹介していますので、よかったらご覧ください。
↓
http://blog.livedoor.jp/gokinjo_days/archives/14422791.html

写真の雑草は、普通の「ノゲシ」ですね。「アキノノゲシ」と区別して、「ハルノノゲシ」と呼ばれることもあります。


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Commented by fragie777 at 2014-11-10 15:04
ヨシカワさま

こんにちは。
ご指摘有り難うございます。

秋のノゲシ確認しました。
全然ちがいますね。

単なるノゲシなんですね。

有り難うございました。

アップする前に確認が必要ですね。

yamaoka
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Commented by ヨシカワ at 2014-11-16 14:37
yamaokaさま、こんにちは。

サイトで注文した鴇田智哉さんの句集『凧と円柱』が届きました。
独特の言葉遣いで、日常を句に定置させる作風が、とても気に入りました。

ふらんす堂さんの本は、内容、装幀とも好みに合うものが多く、いろいろと愛読しています。
今後も良書の出版を期待しています。



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Commented by fragie777 at 2014-11-18 10:09
ヨシカワさま

お言葉有り難うございます。
励みになります。

『凧と円柱』もお買い上げいただいたこと、
有り難うございます。
好評の句集です。

今後ともどうぞよろしくお願いもうしあげます。

(yamaoka)
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