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10月24日(金)
ふらんす堂の前の風景である。 お客さまには「ミスター・ドーナツ」を目印にいらしてください。ってご案内する。 あい向かい斜め二階がふらんす堂である。 さっそくであるが、新刊紹介をしたい。 岩崎信子句集『幻燈』(げんとう)。 著者の岩崎信子(いわさき・のぶこ)さんは、俳誌「梟」(矢島渚男主宰)同人。略歴に1994年「梟」入会とあるから、20年目にしての第一句集である。325句を収録、矢島渚男主宰があたたかな序文を寄せている。 岩崎信子さんは童女のような心をもつ人である。俳句を始めてかれこれ二十年くらいになるだろうか。全く俳句的な修練を経ないまま、とつぜん厳しい批評家揃いの丸子句会に参加して来たのだった。 点々と春竜胆のクリスタル は俳句を始めて間もないころの作品であるが、私はそのみずみずしさに瞠目したことを覚えている。春山の可憐なハルリンドウの蕾を水晶ととらえて、それが点々と連なっているさまを描いて美しい。花ではなくて蕾を詠うのは新鮮な感性というべきだろうし、それ以前に野草に対する知識や愛が必要だろう。 序文の冒頭より引用した。 名月を毬つくような雲のあり 揺籃の小さき細工師オトシブミ ぜんまいの臑毛するりとはずれたり 甘草の芽やバンザイをして摘まれ たまご茸サフラン色に炊き上がり 花あんず遠回りして御覧なんし カタクリの一年目なり芽がぽよん 押入れの熟柿喰うなと夫発つ 満月の狂気女を孕ませし 拘禁に狂いし父や青嵐 彼女の生いたちは常ならぬ苦難に満ちていた。諏訪出身の父は海軍の青年将校であったが、五・一五事件で拘禁され第二次大戦の敗戦を前に死去した。残された五人の兄姉は八ヶ岳の山麓で母一人の手で育てられている。童女のように明るく優しい作者は、数々の苦難を経て強い芯を持ち自立する女性でもあることに気付かせられるのである。 この句集はこのような底辺に支えられて社会的視野をはじめ、奔放にさまざまな側面をもっている。 虫動くほたるぶくろの幻燈機 句集名となった一句。メルヘンチックな郷愁をさそう作品だ。このタイトルが象徴しているように「童女性」が印象的な句集であるが、その背後に人生に鍛え抜かれてもしなやかに生きてこられた岩崎信子さんがいる。長野県にお住まいの岩崎さんは信濃放送局に入社、アナウンサーとして草創期のテレビ・ラジオ番組を担当、以後、アナウンサーかつディレクターとして地域の人々とともに番組つくりをされてきた方である。 この句集は四季別に編集されているが四季ごとに、四枚の口絵が句集を飾っている。岩崎さん自らが描かれたものである。本文中にふわっとおかれ句集にあたたかさを加えてとても感じがいい。これはそのひとつで秋のもの。 俳誌「梟」の丸子句会に押しかけ加入して二十年。まだまだ道なかばではありますが、つくりためた三二五句を拾いました。(略)句会には上田駅から電車、大屋からバスに乗り、ちょっとした旅ここち。句会は、平らかにして厳しく、いまも胸が高鳴ります。また句会のみなさんの眼差しも温かく、時に鋭く、多くを学ばせていただいています。今にして悔やまれることは、俳句との出会いが耳順を前にした遅いスタートであったことです。ならば私は、うんと長生きして、俳句をつくり続けていこうと夢を見ています。 「あとがき」である。いいですね。 岩崎信子さま。うんと長生きしてこれからも俳句をたくさん作ってくださいませ。 この句集は和兎さんの装丁であるが、造本は榮猿丸句集『点滅』を真似た。独特な製本であり、製本屋さんはこれを「フレキシブル・バッグ」と命名した。ゆえにこれからこの造本をふらんす堂でも「フレキシブル・バッグ」と称することにしたのである。 それでは、装丁をふくめてフレキシブル・バッグを紹介していきたい。 ハードカバー(上製本)であるが、ボールがうすく薄表紙のつくりだ。であるから出来上がりが瀟洒である。 この仕組みがなかなか良いでしょう。 この造本は矢島渚男主宰もご本人の岩崎信子さんもたいへん気に入られたものである。 わたしも大好きである。 担当の千絵さんは、 「好きな句はたくさんあるんですが、 付け鼻を試してみたしマスクして この句を読んで、岩崎様はとても茶目っ気のある方なのかなと思いました。 恥ずかしいのでマスクをして、ということなのかと思うのですが、付け鼻で変身してみるとやはり気分も変わるのでしょうか。 私もハロウィンには季節に乗じてそういうちょっとした変身をしてみるのも面白いかな、と思いました。」 兄(あん)ちゃんがタコ焼き配る春の川 あめんぼうクイックターンして愛す おもしろい句がたくさんあるのだが、わたしはこの二句が好き。 精神の若々しい方であることをさらに作品より実感したのだった。 今日の朝日新聞の「出版不況 大手トップに聞く」は、二社の大手トップの発言である。文芸畑の老舗「新潮社」の佐藤隆信社長とビジネス畑の「日経BP社」の長田公平社長である。非常に対照的でおもしろく読んだ。 「商業施設作り話題発言」は新潮社の佐藤氏。わたしの興味のある電子書籍については、 電子書籍はいまでも十分に売れているが、今後大きな伸びが期待できるわけではない。電子の役割は本の種類によっても違う。辞書は紙と電子が半分程度で均衡したが、文芸書は2割もいかないのでは。出版社の経営を支えるものではないと思う。(略)出版社の原点はいろんなものをおもしろがること。走りながら新しい発想を考えるしかない。 一方、日経BP社の長田氏は、「一冊ごとに利益を検証」と題して、 力を入れているのはデジタル化。「日経ビジネス」は、開始から1年ちょっとで電子の比率が10%を超え、紙と電子をあわせた部数は決して落ちてない。だが、電子の場合は、広告収入がまだ小さいのが難しいところだ。(略)業界全体で4割の本が返品されているというのはやはりおかしい。書店の店頭になければ、電子書籍でお買い求めいただくようにしたい。 佐藤氏の「出版社の原点はいろんなものをおもしろがること。走りながら新しい発想を考えるしかない。」という発言は、実は不肖のyamaokaでも(うん、うん、そうだよな)とつよく思うのである。 つまりわたしに即して卑近にいえば、 たとえばさ、きわめてミーハー的であることも大事なのよ、ねっ。 ええっ? ミーハー的であるというよりも、yamaokaは当初からミーハーだよって。 あはははは…… まっ、 そういう見方 否定しないわあ。
by fragie777
| 2014-10-24 19:32
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