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10月8日(水)
今日は皆既月食が見られるらしいのだが、わたしは見られるだろうか、 早くブログを書いてしまおう。 新刊紹介をしたい。 川本美佐子句集『水を買う』(みずをかう)。 著者の川本美佐子(かわもと・みさこ)さんは、熊本県在住の俳人である。熊本の俳誌「火神」の首藤基澄元主宰の下で俳句をはじめられその縁によって「未来図」に入会、俳誌「未来図」(鍵和田柚(禾偏+由)子主宰)同人、平成16年に「未来図新人賞」を受賞されている。この度の句集『水を買う』には平成11年から26年までの15年間の作品を収録。「水を買う」というなかなか印象的なタイトルは、 八月や小銭探りて水を贖ふ に拠る。グラフィックデザイナーを職業とし、この度の句集の装丁・装画ともにご本人の手にによるものである。著者の川本美佐子さんに会われたときのことを鍵和田主宰は、序文でこんな風に書いている。 川本さんが「未来図」に入会されたのは少し後の平成十一年とのことで、当時三十代のはじめ頃だったと思う。若くてしなやかな感じの美しい方で、グラフィックデザイナーとして活躍しておられた。当時は私が熊本に行く機会も多かったので何回かお会いしたが、いつも目を輝かせて生き生きとした表情が愉しげで、芯の勁さを秘めておられる感じがした。やはり火の国の女性だと思えた。 雪嶺の阿蘇美しきこころとは 毬栗を蹴つて地球の渇く音 心臓はここ立冬のジャズピアノ 置き去りのこころのごとし藻の花は 湿りたる吾子を抱くや螢の夜 俎に千の刃の跡八月来 鶏頭を束ね昨日を弔ひぬ 音の無き象の歩みや秋深し 震度一なるかめまひか小六月 つばくらや隣国もまた箸の国 (略)手垢のつかない新鮮なモチーフを選び、表現は作者の心に添った言葉が生き生きと用いられて、独創性を感じさせる。デザイナーとしての美意識や、表現とは何かを身につけているからではないかと思える。(略)根底に生活体験を置き、目配りの確かさ、繊細な感受性を大切に、日常の中から掬い上げた詩情が生きている。モチーフも多彩で、様々な広がりのあるのも良い。どの句にも無理がなく、心の深まりが感じられる。 序文から引用したが、まだ十分に若いこの作者に寄せる主宰の期待は大きい。 億千の冬雨斬りて羽田発つ 恋人よ雲居の芯に鶴の啼く 鯉幟正午のサイレン呑み込みぬ 断崖に雪の張り付く誕生月 雑食のにんげんの影大西日 にんげんが好きで嫌ひで晦日蕎麦 湯ざめせりけふとあしたを跨りて 一歩一歩春空ゆがむ砂丘かな からからとかろく死にをる金亀子 麦秋や旅の終はりの眼の渇き 初蟬の啼いてこの世の真中かな 紅葉かつ散る偽書なるか創作か やうかんに歯形くつきり去年今年 呆気なき産後の腹に夏蒲団 月眺めさうして月に眺められ 春一番ジーンズに脚ねぢ込みぬ 桐の花をんなは真昼遊びをり マネキンの硬き裸や秋の風 大胆な把握と構図の切り取り方が新鮮だ。季語と心象との取り合わせ方もうまい。なんとも颯爽とした女性像が立ち上がってくる。だからと言って決して大味ではないのだ。繊細さと可憐さを合わせ持つ。 雪降りて小さき手と手のさやうなら しやぼん玉ひとみひとみを擦り抜けて 晩婚やてのひらで切る冷奴 まだ熱を持ちたる日傘たたみけり いつもいつも十指冷たし花あやめ 秋雨を聞いて眉間の静かなり 俳句と出逢ったのは、大病を経験して自分の立ち位置を模索していた丁度その頃で、「火神」元主宰の首藤基澄先生とのご縁から、糸を手繰り寄せるように「未来図」主宰の鍵和田秞子先生へとつながり、ご指導を頂くこととなりました。言葉を紡いでは削って行く句作という作業が、これほどまでに私の人生の一部となった理由として、先生の掲げられている「作者の生の実感を表現すべき」という言葉に支えられているからだと考えます。稚拙ながらもその時その瞬間、自身の最たる思いをひとつの作品とすることで存在証明してきたのだと、改めて感じています。 「あとがき」を引用した。著者の川本美佐子さんは、「序」でも触れられているように「火の国の女」である九州女である。激しいものを内に秘めている方だ。それは句をとおしても十分わかる。 その川本さんが父・母を詠むとき、時として非常に繊細な心情をみせる。 麦嵐爪のかたちは父に似て 白椿ガウンの中の父ほそし 立冬の泣いてはをらぬ父の背 父恋ふや箸にくづるる新豆腐 花茣蓙の彩あるはうに母眠る 母に髪結はれ病の星月夜 水仙の向きたるはうに母の居り 白椿や水仙をとおして父母を詠むとき、川本美佐子さんの心は透きとおるような詩情に充ちる。 それがこの句集に奥行を与えている。 著者自らがブックデザインをし、装画(水彩画)も描かれたものである。 一瞬にして人をひきつける趣のある仕上がりとなった。 牡丹であろうか、切ったばかりの花を無造作に持って立つ女性像だ。 「水を買う」というタイトルとの離れ方がいい。 実はこの句集には「赤」が潜んでいる。 カバーの「川本美佐子」という名前の赤と牡丹の赤が、実は表紙と見返しの赤を予兆させる。 ゆえにこの句集の静謐さがただならぬものにみえてくる。 すべて川本美佐子さんのデザイナーとしての創造的計算にもとづくものだろう。 エンターティメント性をもった著者だとも思う。 この句集の担当は千絵さんである。千絵さんの好きな一句は、 十センチヒールの景色風光る 「私は常々あと10センチ身長が欲しかったと言っているんですが、そうは言っても10センチのヒールとなると、かなり勇気がいります。 その10センチのハイヒールをはきこなして颯爽と歩かれている姿がとてもさわやかで素敵だと思いました。 わたしもハイヒールの似合う女性になりたいものです。」と千絵さん。 10センチのヒールを履くとは、川本さん、あっぱれです……。yamaokaは心から尊敬します。 まだお会いしたことがない川本さんであるが、お目にかかる機会があったら是非に10センチのヒールを履いて颯爽と現れてほしい。 わたしはこの句に惹かれた。 鶏頭を束ね昨日を弔ひぬ 不思議な一句だ。 鶏頭のすこし重くれのくすんだ赤を束ねながら著者は喪心のうちにいる。 昨日よりの喪心は、目の前の鶏頭によっていっそうとなり、束ねられた鶏頭の重さは著者の悲しみの重さであるかのようだ。「鶏頭」の季語が効果的な陰影ふかい一句である。
by fragie777
| 2014-10-08 20:26
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