ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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恩寵の光へと。

10月2日(木)

恩寵の光へと。_f0071480_1733088.jpg
秋の川をのぞく男の子。



まずお知らせから。

昨日ブログにて紹介した鴇田智哉句集『凧と円柱』の刊行を記念して新宿紀伊国屋書店本店でSST俳句大解剖!というトークイベントが行われます。
10月13日(月・祝日)午後3時半より
出演者 関悦史 榮猿丸 鴇田智哉 
申し込みは:03-3354-5702(本店売り場2F)まで

是非にお出かけください。



また、詩人の小笠原鳥類さんから鴇田智哉句集『凧と円柱』について、メールをいただいていた。
紹介したい。

『凧と円柱』を読み始めました。送ってくださってありがとうございました。
最近は俳句が苦手になった気分、というより、たぶんもともと俳句は苦手だったのかもしれませんが。でも、はっきりしない白い雲のような場に、一本のはっきりした線が現れて、びっくりする鴇田句集であるのかな、と思って読んでいます。間違った読み方かもしれませんが…
「いきものは凧からのびてくる糸か」
クモが飛んでいるのかなあ、どうぶつの形の雲も見えるようでした。
「すりぬける蜥蜴の縞の流れかな」
トカゲが透明になって、線だけ見えて光るのでした。
「石ながくのびてゐるなり秋の風」
影も灰色の石でした。石には顔があります。
「寒ければ小さい方の鳥を見る」
スズメにもいろいろな大きさの鳥がいると思いました。
「どこまでの木目のつづく春の家」
岩手の古い家を思い出しました。古い家は黒い木版画です。こんな読み方でよいのか、と思いながらこれからも読んでいきます。








今日も新刊の句集を紹介したい。

かたしま真実句集『アッシジの丘』(あっしじのおか)。

恩寵の光へと。_f0071480_18184429.jpg
四六判小口折り表紙。170ページ。

句集のタイトルを「アッシジの丘」と名づけた著者のかたしま真実さんは、カトリック信者である。句集の後半部分には信仰にかかわる作品が多くでてくることもこの句集の特長である。今年の夏に残念ながら終刊となってしまった俳誌「大」の代表の境野大波さんの下で俳句をつくられてきた方である。序文を境野大波さんが寄せておられるが、良き理解者としての心あたたまるものだ。

 朝顔の蔓の巻く先なかりけり
 ひと震へして口開く蜆かな
 繫がりて枯蓮と枯蓮の影
 暗がりの道を分けたる椿かな
 ほつぺたの触れ合ふ冬の金魚かな
 ひび割れてつながつてをり蟬の穴
 蟋蟀の踏みたる草の沈みけり

かたしま真実の対象を見る目は、おそらく濁りというものがなく澄みきっていて、草花や生き物はもちろん、風や波、土などの自然のほんのわずかな変化を見過ごすこともないだろうと思われる。

この境野大波さんの「自然のほんのわずかな変化を見過ごこともない」という言葉にわたしは深くうなずく。ときにはあまりにもトリビアルなとも思われるような句があるが、これもかたしまさんの童女のような目線の低さからくるものだ。たぶん澄んだ目を見開いておもしろそうに虫や花を見つめているのだろう。すべてが心弾むような新しい発見なのだ。

 蟷螂の屈みて貌をなでてをり
 剛毛の立ちたる蟬の骸かな
 鬼やんま降り来て空を塞ぎけり
 百合花粉蟻の一歩に崩れけり
 嘴のところどころに雪の粒
 花虻の潤む眼を拭ひけり
 盆荒れの舟虫の背のみな乾き
 青虫に壊れかけたる露の玉
 日の当たる葉にきちきちの下りにけり
 にはとりのどつしり座る花朧
 滴りの背ナに伝はり雨蛙
 己が影抱へて歩き冬の虫
 空蟬の貌つけてゐる格子窓
 蟷螂の背ナの傷より枯れにけり
 嘴に春の別れの光るもの
 
句集後半になるとカトリック教徒としての信仰生活にかかわる作品が多くをしめるようになる。

 教会の塔の燕の残りをり
 聖堂の隅のあぶれ蚊夜の更ける
 十字架を背負ふ衣に落葉降り
 聖五月だんだん風の集まれる
 万緑のその奥隠れ切支丹
 夏燕海に映りし天主堂
 秋立つや御顔の焦げしマリア像

自由に、率直に神への思いを句に詠むようになって、真実俳句は一段とスケールを大きくしていると思う。(略)。これまで培ってきた写生に深い信仰を組み合わせたかたしま真実ならではの句が翼を広げる余地は大きいと思う。

境野大波さんのかたしま真実さんに向けたこころからのエールである。

 ひこばえや昔気質の一少女
 
句集の掉尾におかれた句である。きっとこれは著者の自画像なのだろう。好きな句である。
そうして「昔気質の少女」の書く「あとがき」は、清らかで素直な輝きをもつ。
「─二人の「あなた」へ……「ありがとう」─」という呼びかけのことばではじまる。
二人の「あなた」とは、ひとりは境野大波さん。もうひとりは「克之さま」と書かれたご主人のことである。
いまこうしてあることへのお二人への心からの感謝とこれからのことへのお二人への思いを記したものである。「復活祭の日に」と記された「あとがき」である。「神の祝福」を願って編まれた句集なのだ。



この句集の装丁は君嶋真理子さん。
君嶋さんもカトリック信者である。ふたりの心が響きあった装丁になっただろうか。

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タイトルは銀色にちかい金のつやなしの箔押し。

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背。

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見返し。

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扉。

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扉の装画。

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あたたかさを感じる一冊だ。

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かたしま真実さんそのもののような清楚な句集となった。

わたしの好きな一句は、これ。

 受難日のわが足元の波光る

ここには、童女でも少女でもない足元をみつめるひとりの成熟した女性がいる。
受難日という季語が上五に置かれ、波打ち際のやや鬱屈した女性の姿が見えてくる。
だが、足もとに寄せ来る波は神の恩寵の光をやどす。
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by fragie777 | 2014-10-02 20:20 | Comments(0)


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