ふらんす堂編集日記 By YAMAOKA Kimiko

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はじまりの物語。

9月25日(木)

はじまりの物語。_f0071480_18494743.jpg
今朝、仕事場への階段のところにいたががんぼ。
「ががんぼ」は夏の季語だ。
しばらく眺めていたのだけど、すこしも動かなかった。

 ががんぼやうたたねのゆめ淡かりし   森 澄雄



今朝は夢に目覚めた。
すっかり忘れていたとおもっていた人が夢に現れて、ピアノを弾きながら友人たちに囲まれて陽気に歌をうたっていた。
その人がピアノをひける人だとは知らなかったが、すごく気持ちの良いイカシタ歌だった。
夢に見て、その人のことを忘れていないんだというこを知った。
夢はふしぎだ。
現実以上に夢のなかの人間が意味をもつということもある。





新刊を紹介したい。

石原明詩集『雪になりそうだから』。

はじまりの物語。_f0071480_19102515.jpg
四六判ソフトカバー装。62ページ。

著者の石原明(いしはら・あきら)さんにとってはじめての詩集でありきっとそれは記念すべき詩集なんだろうとおもう。
「あとがき」を紹介したい。

高校生の頃海外の音楽の情報源はラジオだった。ビートルズの「抱きしめたい」もストーンズの「サティスファクション」も初めて聴いたのはラジオだった。
ロックが音楽界の主流になっていく時期だったが、しかしロック一色というわけではなかった。
もうひとつの有力な流れがフォークソングだった。ボブ・ディランやジョーン・バエズの曲がほとんど毎日のように流れていたが、その中でもPPMが好きであった。彼らの曲の中でラジオで最初に聞いた曲が「パフ(PUFF)」だった。1963年のヒット曲で、少年と魔法のドラゴンとの交流と別れという内容のファンタスティックな内容の曲である。
「パフ」を何度も聞きながらいつかこういう「物語」を書きたいと思っていた。
あれから五十年、今回詩集としてまとめたささやかな詩篇がその答えになっているのかどうかはわからないけれども。


「あとがき」を読むと、石原さんの青春期の風景が見えてくる。
この風景はわたしの青春期の風景とオーバーラップする。石原さんの方がすこし歳上かもしれないが。
きっと同じように歳月を重ねてきたのだが、わたしは心の奥に少女を飼いならしながらもけっこうなリアリストなおばさんになっていったのであるが、石原さんはそのロマンを詩を書くという行為でここに実現されたのだった。
こんな風に詩集を編んでみる、というのも素敵な自己実現である。
そしてその石原明さんの思いに応えるために詩集の刊行のお手伝いができるというのも、嬉しいわたしたちの仕事なのだ。

一篇のみ作品を紹介したい。

 ラプラタ河で



 ラプラタ河で魚が跳ねるのを
 聞いた
 聞いたと会う人ごとに告げた
 聞こえたのだから
 それがラプラタ河なのを
 知っていた
 さかさまに聞こえたのだから
 さまざまに笑われたけれど
 幸せだった
 秘密を打ちあけると
 笑いながら
 さまざまな
 心の鼓動を聞かせてくれるから
 
 それから
 土手の小さな穴から
 ラプラタ河を覗いている仔ウサギの
 心の鼓動を
 聞き分けた
 モールス信号のような
 明るいリズム
 いまでは
 笑われすぎて
 ラプラタ河の魚は跳ねないけれど
 いまでも
 ラプラタ河の土手の小さな穴から
 この世界に目を見張っている
 仔ウサギの心地よい
 リズムを聞いていると
 会う人ごとに告げようか


この本の装丁は和兎さん。
ブルーと白と銀箔の「雪になりそうだから」というタイトルにふさわしい一冊となった。

はじまりの物語。_f0071480_1928911.jpg
兎が三羽、天上をめざすようにのぼって行く。
ファンタジックで幻想的だ。

はじまりの物語。_f0071480_19293643.jpg
タイトルは銀箔。

はじまりの物語。_f0071480_19301335.jpg
背も銀箔。

はじまりの物語。_f0071480_19304473.jpg
表紙にもブルーの兎がいる。

はじまりの物語。_f0071480_19311410.jpg
見返しはブルー。
用紙に銀いろがまぶされていて、著者の石原さんが、「まるで雪が降っているよう」と喜んでくださった。

はじまりの物語。_f0071480_19332025.jpg
帯は透明なトレーシングを用いて、どこまでも白のイメージが失われないようにしたのである。
「この世界に目を見張っている仔ウサギたち」がいる。


この詩集の担当は、高橋千絵さん。

「あとがきに、PPMのことをお書きになっていらしたのを拝見して、ファンタジックな世界観がとてもよく合っていると思いました。
小さい頃は父が好きだったPPMをよく聞いていたのですが、最近はとんと聞く機会が減っていたので、早速帰ったらCDを探して、詩集の内容を思いながら聞いてみようと思いました。」

石原明さんは、ちょうど高橋千絵さんのお父さまと同じ歳くらいなのかもしれない。

この一冊によって石原明さんの物語ははじまったのである。





今日はほぼ一日をゲラの読み合わせに費やした。
もうへとへとである。
全句集を刊行するためにはどうしても乗り越えなければならないハードルである。
明日もまだひきつづきこの仕事が残っている。
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by fragie777 | 2014-09-25 20:00 | Comments(0)


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