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6月19日(木)
![]() 早苗饗も田楽も季語。早苗饗は夏、田楽は春だ。 田楽や疾風がゆする山の音 森 澄雄 新刊句集を紹介したい。 竹村翠苑句集『摘果』(てきか)。 ![]() 著者の竹村翠苑さんは、大正11年生まれ、ということは、今年92歳になられる女性である。しかし、現役の働き人である。長野に生まれ長野で土とともに生きてこられた「農の人」である。76歳のときに俳人小澤實に出会い、それから俳句に夢中になった。俳誌「澤」(小澤實主宰)同人、この度の句集『摘果』は第一句集、小澤實主宰が序文を寄せている。 飛驒山脈の麓に広がる信濃大町は、ぼくにとってたいせつな街である。「澤」創刊以前からぼくの指導句会があって、その句会の連衆には創刊以前から、大きな力をいただいてきた。「澤」を支えてもらっている重要な場所である。 大町での指導句会は二つあって、午後に開催されるものは、せせらぎ会。夜に開かれるものは、やまなみ会である。一つの街で、同日に二つの句会があるというのは、「澤」の指導句会としては異例で、そのうち一つにまとめなければいけない日が来るかもしれない。しかし、今まで二つの句会を併存させてきたのは、句会の間に楽しみがあるからだ。食事である。仕出屋から弁当をとっていただき、それに加えて斎藤博子さんと、本句集の著者竹村翠苑さんとが、野菜中心のおかずを何種類も作ってご持参くださる。月に一回、信濃に赴くことは、ぼくにとって自然に親しむ貴重な機会である。大町での夕食の卓に並べられた料理の数々は、まさに身体にとりこむ自然なのだ。翠苑さんのおかずの野菜は、翠苑さんがてずから畑で作ったもの。翠苑さんは農の人なのである。食事の前後の句会両方に翠苑さんは出席してくださる。 小澤主宰の序文の冒頭を文章を紹介した。竹村翠苑さんは、二度の句会に積極的に参加し、ご自身がつくった野菜のおかずをどっさりもってもてなされるという。そして、 結果的に毎月の大町訪問は、翠苑俳句の世界、その奥行きを実地に確かめることにもなっている。それでは、翠苑俳句の代表作を時代を追って、見ていきたい。 として、以下のような句をあげて懇切に鑑賞されている。作品を紹介したい。 鍋の湯に入れし煮干や今朝の秋 捥ぎつつも食へる蕃茄(トマト)や皮は吹き 吹き込む雪一直線や納屋半ば 餅米洗ふ笊の目詰りたたき出す 作業手袋はづし蕃茄(トマト)の腋芽(えきが)摘む 汗の胸富士より風の吹きおろす 団栗の轢き砕かれぬ車道の上 翠苑さんの句集には、「摘果」と命名した。「摘果はて外しし脚立二つ折り」から取った。翠苑さんの俳句に向けて来られた情熱と努力とが、この一冊において大きな実を結んでいるのだ。俳句の友人として、おめでとうと言いたい。これは同時に「澤」俳句のひとつの結実でもある。翠苑俳句の新しさは、俳壇具眼の士を驚かすものであると信じている翠苑さんは年齢は九十歳を越えていらっしゃるが、新車を購入して乗り回している。若々しいのだ。頭脳は明晰で、しっかりしている。さらなるご長寿を祈り、『摘果』以後の作品に期待するものである。 あたたかなこころのこもった序文である。 92歳で新車を乗り回し、いまも現役で農仕事にいそしむ、そして俳句に夢中になっている竹村翠苑さんとはなんと魅力的なお人であろうか。野良仕事できたえた足腰はあっぱれな人生をささえておられるのだろう。 収録されている作品はすべてその生活から率直に詠われきたものばかりだ。働く人のダイナミズムにあふれそして自然への畏敬のまなざしがある。そのことがこの句集を詠む人間をストレートに打つ。 汗吸ひし野良着どさりと脱ぎにけり 竿取りて叩き落とすや軒氷柱 生ぐさき堆肥すきこむ辛夷かな 上へ飛ぶ雪もありけり人を恋ふ 汗くさき子の肩越しに筆もたす 屋根と地とつながる雪や突き落す 裏口をあけて掃き出す盆仕度 秋蝶の産むたかぶりを憎みけり 自転車も吾も頑丈や蕗の薹 鯉幟雄鶏昼を告げにけり 干大根匂ふや火星近くあり 餅搗きや手返し水の顔に撥ね 春の雪一振り傘を閉ぢにけり 夕顔に羽音ありけり見えざるも 竹踏みて足養へり冬籠 トラクター納屋に入れたり氷柱折る 日本晴おたまじやくしの水濁す もろこしを呉れてやりたり毛を摑み じやが芋に鼠の歯形みづみづし 風あれば風に向ひて田植かな 凌霄の散り敷く上や雨の粒 鏡餅鏡餅もて割りにけり 埋めてやるむじなの骸秋暑し ぶらんこに掛けたり漕ぐ気なけれども きゆうきゆうと唐きびの皮剝きにけり 底抜けの空プルーンを捥ぎにけり なんとも力つよい生活詠である。読んでいて気持ちがいい。人間が生活するということはこういうことなんだということが迫ってくる嘘のない俳句だ。「あとがき」もまた率直な心情にあふれている。 私の人生の終末に近くなって句集『摘果』を上梓できて、本当にうれしく思っております。私が七十六歳の六月、大町市の俳句講座が始まりました。講師は小澤實先生。月に一回来て下さいました。半年程は教科書の講義ばかりでした。実作になってから、私は俳句の虜となりました。自分の歳を忘れてしまいました。それから現在まで若い句友と一緒に盛り上がっているのです。小澤先生にお会いできたのは、私にとって天から授かった幸運だったと思います。今回も小澤先生のお力のもとにこの句集ができたことを深く御礼申し上げます。そして、いつも懐かしくて、お会いすればうれしい「澤」の皆様ありがとうございました。これからもよろしくお願い申し上げます。 この句集の装丁は君嶋真理子さん。 句集のすがすがしさに響きあうものとなった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() この句集の担当は萌さん。 蓬摘むライバルのゐて夢中なり 「私の母も山菜を採りに行く際や、採っている人を見かけると闘志を燃やす癖があるため、懐かしく、楽しい気持ちになりました。私も手伝ったことが何度かあり、最初はなんとなく摘んでいくだけでしたが、最終的には竹村様と同じく夢中になったことを思い出させて頂きました。この他にも竹村様が育てた野菜やお米、またそれらを使ったお料理など「食」を詠んだ句が多々あります。思わず「食べてみたい!」と思うような句が沢山で、編集も楽しくさせて頂きました。」と、萌さん。 畦道を蝗も我も行きにけり 好きな句はいろいろとあったが、わたしはこの句が特に好きである。竹村翠苑さんのこれまでの充実した人生がすべて集約されているように思える。「畦道」も「蝗」も「我」もみなやすらかな輝きがある。
by fragie777
| 2014-06-19 19:10
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