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5月13日(火)
![]() 今朝は雨降りだったが、雨の日でなくてもぬれているようなあおはだの花。小さな小さな花である。 玄関のドアーの前にこぼれていて、今朝咲いていることに気づいた。 今日は夕方から、長嶋有句集『春のお辞儀』の「うちあげ」が阿佐ヶ谷である。ブログをはやく書き上げてしまおう。 (おかげさまで『春のお辞儀』は品切れとなり目下再版中である。) さて、新刊句集の紹介をしたい。 その前に一冊の句集を紹介したい。 ![]() この句集の著者である村重蕃さんは、これから紹介する句集『影に遅れて』の著者村重香霞(むらしげ・こうか)さんのご主人である。残念ながらもうこの世におられない。句集『影に遅れて』が出来上がる直前に闘病の果て、他界されたのである。香霞さんの句集ができあがるのを心待ちにしながら……。 句集『からからころと』の「あとがき」には、この蕃氏の句集をつくることになったいきさつが書かれている。番氏は、奥さまの香霞さんの句集をつくろうと心に決めていた。しかし、香霞さんの思いは別にあり、自分の句集よりご主人の蕃さんの句集をつくりたいということだった。「冗談じゃない」と激するほどに拒否し、そのままになってしまったところ、夏井いつきさんご夫妻の強いすすめもあって実現に至ったのである。「あとがき」を蕃氏はこう結んでおられる。 この「句集」が皆様の手許に届く時、私がまだこの世にいれば、その時はひたすら恥を忍ぶ覚悟をしておこう。既に私がこの世にいなければ、それは私がこの世で「俳句」らしいものを作っていた証左でもある。「そういえば、『蕃』という俳句の下手な年寄りがおったな~」と思い出して頂ければこの世に思い残すことはございません。有り難うございました。 空蝉のつぶやき聞いたかもしれず 蕃 点滴の静脈さぐる竹の春 〃 無患子のからからころと別れよか 〃 そのご主人の思いに押し出されて誕生したのが、村重香霞句集『影に遅れて』である。 ![]() 村重香霞さんは、俳誌「狩」(鷹羽狩行主宰)の同人、昨年に「毎日俳壇賞」を受賞されている。「狩」に入会してからの16年間の作品をまとめて第一句集『影に遅れて』を刊行された。書家でもあり、カバーにもちいた装画は、村重さんの作品だ。(蕃氏のものも香霞さんの作品)。序句、帯文、鑑賞七句を鷹羽狩行主宰が、跋文を片山由美子副主宰が寄せている。 ![]() 城山のにほふがごとき霞かな 狩行 句集名となった句は、「毎日俳壇賞」のもの。 大いなる影に遅れて桐一葉 ”一葉落ちて天下の秋を知る”の桐一葉。そのさまを「影に遅れて」ととらえたので、故事が暗示的に働く。と鷹羽主宰は帯文を書いている。そして、香霞さんは、書家でもある。”書も句のうち”と主張する私の”俳書一如”の理想を兼ね備えた俳人と言ってよい。とある。ほかに、 片蔭を出でて日ざしに射貫かれし よきことの外出(そとで)重なる春ショール 冬ざれや木地師は森の木と話し 獅子岩も牛岩も過ぎ船遊び さながらに即興詩人揚雲雀 花冷やランプ点せば影うまれ 夕月に色にじむ頃かなかなかな などを鑑賞七句でとりあげて評している。村重香霞さんは、愛媛県うまれで松山市在住、俳句づくりの環境としてはすばらしいところだ。跋を書かれた片山由美子さんは、松山を仕事でおとずれるたびに村重さんにお世話になったと跋文に書かれている。 まんさくの縺れも見せず咲きにけり 大寒や印泥堅きまま眠り 扁額の隷書の払ひ冴返る 薫風や奈良より届く仮名の筆 たんぽぽの茎のすつくと絮となる 涼しさや切り口そろふ香の物 ま昼間は黄の透きとほる花菜畑 鳥雲に嫁ぎし頃の料理本 女正月ふつくらと茶巾ずし 職退きし夫にゆとりや亀の鳴く 熟年といふはいつまでアマリリス 跋文の片山由美子さんがとりあげた句の中からいくつ選んで紹介する。 香霞さんの俳句は、決して日々のこまかな記録ではない。作品として自立した世界である。そんな中にさりげなく収められた人生諷詠は、個人の思いにとどまらず普遍性をもつ。それがこの句集の格調の高さとなっている。これからも、毅然として俳句に向かっていただきたいと思う。ご主人の深い愛情にこたえるためにも。 片山さんはこう書いて跋文を結んでいる。 ゆふづつにほどけて烏瓜の花 着ぶくれて人の着ぶくれ笑ひをり 菜の花の二手となりて河口まで 手鏡の漆の剝げて鳥雲に 夕日まだ落つるに間あり合歓の花 ペンションのやうな産院小鳥来る ガスの火の鍋はみだしてそぞろ寒 清明や白湯を冷まして飲む薬 夕星のひとつづつ増え蚊喰鳥 夕顔のいちりん二輪まだ暮れず 笹鳴のひとり遊びの声ならむ 別の世の時刻示して時計草 聖地へと向かふがごとく蟻の道 大鍋にびつくり水やはたた神 ごつごつと風のぶつかるくわりんの実 脚投げて土手に坐るも春なかば 表札に犬の名前も避暑館 剃刀と言はれしむかし木の葉髪 花冷やランプ点せば影うまれ 蚕豆の莢を過保護と思ひけり 負ふものに軽きものなし雪螢 「剃刀と言われしむかし木の葉髪」という句があるが、この「剃刀と言はれ」たのは、村重さんご本人なんだろうか。書家として生徒さんたちに書を教えておられるとき、ものすごく怖い先生でいらしたのかしら。しかし、「剃刀」ということは単にコワイということだけでなく、「切れ者」であるということだ。書家の切れ者というのはどういうお方だったのだろうか……などなど想像がふくらむ。「木の葉髪」の季語が著者の内面をかたってすこしさびしい。 句集『影に遅れて』を編むことは、私にとって、思いがけないことでした。平成二十四年の暮れ、夫は大学病院で食道癌の告知を受け、翌年二月に入院、治療が始まりました。しかし、手術に耐える状態ではないと分かり、急遽、放射線照射の治療に切り替えられました。癌の完治はないと知った夫は、三か月半の入院中、「今のうちに、しておかなければならないこと」を考えていたようです。そのひとつが、「村重香霞の句集を作ること」でした。二度目の緊急入院中、その思いを鷹羽狩行主宰に手紙で相談しました。折り返し主宰から返事を頂き、句集刊行に至ったわけです。句集名「影に遅れて」は狩行主宰に、毎日俳壇に選んでいただいた「大いなる影に遅れて桐一葉」から、夫がつけました。 「あとがき」より一文を紹介した。「影に遅れて」という句集名はご主人の蕃さんがつけられたのだ。 句集の出来上がりには、間に合わなかったが、句集の製作過程の一部始終を蕃氏はご存知であり、見本ができあがる直前に亡くなられたのだった。ご覧いただけなかったのは残念である。「でも、主人はどういう本になるか、カバーの色校正を見たりしておおよそわかっていたと思います」と恐縮するわたしたちに香霞さんはそう、やさしくおっしゃってくださった。 この句集の装丁は、和兎さん。 村重香霞さんの装画をどうレイアウトするか、それがすべてである。 ![]() 刷り色はうすむらさき色に。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 香水をクレオパトラの国に買ひ パリでもミラノでもニューヨークでもなく、クレオパトラの国で香水を買った、というのがおもしろい。 俄然この香水に興味がわいてくる。あるいは案外それは、シャネルやディオールの香水だったりするのかもしれないが、クレオパトラが登場することによって、なにやら妖しげな魔性を帯びた香水のように思えてくる。ひとたびこの香水をつけたら、次々と男が惑わされたりしちゃって……、ああ、いっぺんつけてみたい! 今日はひとりお客さまがおみえになった。 亀割潔(かめわり・きよし)さん。 句稿をもってのご来社である。 亀割さんは、俳誌「蘭」を経て俳誌「OPUS(オーパス)」の創刊に参加。 和田耕三郎に師事している。 ![]() 「OPUS」ってどんな意味なのですか? と聞くと、 「ラテン語の作品(オプス)からきています」という答え。 さらに伺えば、命名は亀割さんであるということ。 ちなみに「オペラ」はこの「オプス」の複数形であるということ、 その詳しさには恐れ入る。話をうかがえばうかがうほど、尽きないものがある方である。 さて、 これでブログは書き終えた。 心おきなく出かけるとしよう。
by fragie777
| 2014-05-13 16:41
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Comments(2)
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