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12月30日(月)
![]() いろんな色の山茶花があるが、わたしはこの白山茶花がいちばん好き。 白い色をしているというよりも白い光を放っているかのよう。 今日は、俳人田中裕明さんの忌日である。 2004年の今日、田中さんは亡くなった。 その日東京は夜になって大雪となった。 享年45歳。 45歳という歳がどのくらい若いものであったか、今日これから紹介する新刊の榮猿丸句集『点滅』を読んであらためて思った。 ![]() 榮猿丸(さかえ・さるまる)さんは、俳誌「澤」(小澤實主宰)に拠って俳句をはじめ、今年まで澤編集長をつとめた。1968年生れで今年45歳となる。シンプルな顔をもった一冊となったが、多くの人の尽力によって出来上がった句集である。小澤實主宰は帯文と題簽を寄せ、栞は正木ゆう子、高柳克弘、藤本美和子の三人の俳人が執筆している。また著者の特別の希望によって口絵写真はかわしまよう子さんの作品を三葉あしらい、装丁は山口信博さんに依頼した。 くちなしの花カーソルの点滅す タイトルとなった一句である。 猿丸俳句の世界はクリアである。そこにはゆがみや濁りは見られない。徹底した描写を通して、俳句の世界に新しみをもたらそうと努めてきた。時には人として在ることの苦さや、人を恋うことの痛みまでが匂うのも魅力である。 小澤主宰の帯の一節であるが、猿丸俳句を端的に語っている。この小澤さんの言葉のみならず、猿丸さんが幸せであるとわたしが思うのは、猿丸俳句のよき理解者に恵まれていることだ。栞文がそれを語っている。 たとえば、正木ゆう子さん。正木さんは2008年の「角川俳句賞」の選考委員として榮猿丸の作品を高く評価した方だ。この栞で正木さんは、猿丸俳句の魅力を三つあげて評しているが、極めて明快である。「広い意味で恋の句が多い」「句が正確なこと。つまり概念や美意識や情に左右されない」「句が等身大であること」の三つ。そして何でも旺盛に詠む猿丸俳句を再び高く評価している。正木さんの挙げている作品をいくつか紹介したい。 ビニル傘ビニル失せたり春の浜 舌出せば眉上がりたる氷菓かな 炎天のビールケースにバット挿す 春泥を来て汝が部屋に倦みにけり 合歓の花汝がゆまれるを見張りをる 日覆や通りの女すべて欲す 水風船しやぼしやぼ鳴らす祭かな セロファンの蜜に曇れる聖菓かな 麦酒酌む呼べばかならず来る友と 暖房の室外機の上灰皿置く 年酒手に友来たるなり屋根づたひ 「今すぐ名句を詠もうとしていない」詠み方は頼もしい。「正確に」「等身大で」詠める人は、強い。何でも詠めるからである。。これからの日々、もっともっと渋い男になったときには、渋い、いい句が彼には必ず詠めるだろう。それもまた楽しみである。と正木さん。 高柳克弘さんは、題材の斬新さに触れながらそこに「詩の素材としてのかけがえのなさ」を見出している。そして「信じるに足る愛」と題して猿丸さんの「相聞句」に焦点をあてる。 人間もまた、大量消費されるモノたちと同じように、社会のピースの一つとして、そこにある絶対性を失っている。人と人との間に交わされる愛情すらも、その例外ではない。だが、榮猿丸の相聞句は、膨大な慣用句の海に呑み込まれない、切実さを帯びている。 愛かなしつめたき目玉舐めたれば 髪洗ふシャワーカーテン隔て尿る われを視るプールの縁に顎のせて などの句をとりあげて、榮猿丸の相聞句は、まだ信じるに足る愛と言うものが、この世界に存在していることを教えてくれる。貨幣にも情報にも還元されることのない、かけがえのない愛が。 藤本美和子さんは、猿丸さんの俳句への姿勢を「強かな挑戦」として文章を寄せている。季語遣いが巧く、季語と作者の関係が緊密である、とし。季語がすでに生活の裡にあり、身体の裡にある。これは生来のものかもしれないが大いなる強みだ。と評する。 山晴れていなりずし照る暮春かな 月見草抜き取れば家とほくなる 炎天のビールケースにバット挿す グラウンド灼けをり蛇口上向けり 消しゴムの六面汚れ春の昼 壁のポスターいつ剥がしけむレノンの忌 ヘミングウェイ読めば腹減る斑雪かな ペットボトル絞り潰すや雲の峰 アルミホイルに包み夜食やアルミ皿 カタカナ使用の作品もまた多い。「ペットボトル」も「アルミホイル」も今や私達の生活の中に溢れている日常品である。それらを俳句形式に取り入れることで季語が今までとは違う輝きをみせている。これもまた俳句形式を信頼する猿丸さんの強かな挑戦といえる。 鍵ハアリマスアネモネノ鉢ノ下 裸なり朝の鏡に入れる君 寝間着の子男雛と女雛ちかづけつ ふくらんで朱肉あたらし春の昼 指の肉照る箱庭に灯を入れて 靴干せばいちにち家や草の花 M 列六番冬着の膝を越えて座る ぶらんこを降りて掌を嗅ぎ少女なる 口中に母音重たし春のくれ 千歳飴の袋載りたり靴の甲 リュックサックに凭れ座す虹消ゆるまで 手を入れて汝が髪かたしクリスマス 『点滅』は僕の第一句集である。二〇〇二年から二〇一二年までの一一年間につくった俳句の中から三三〇句を収めた。僕が俳句と出会ったのは、大学の俳句サークルに誘われたときだった。まず、わずか一七音というスピード感にしびれた。仲間たちは、学生らしくいわゆる詩的な作風のものや、前衛的な俳句を好む者が多く、僕ももちろんそうした俳句に惹かれていたが、衝撃を受けたのは有季定型の写生句だった。作為のない言葉が新鮮だった。ニーチェの「華やぐ知恵」の中の一節〈表面に、皺に、皮膚に敢然として踏みとどまること〉を体現していると思った。文語や歴史的かなづかいも含めて、クールな文体だなと思った。つまり、うっかり「かっこいい」と思ってしまったのだ。しかしそのときは擦った程度で、本格的に句作を始めたのは、その約一〇年後、「澤」俳句会に入会してからである。もちろん、今でも、俳句を「かっこいい」と思っている。誰が何と言おうと。 「あとがき」の言葉である。 俳句を「かっこいい」と書く榮猿丸さんであるが、この句集中には猿丸さんの自画像がときどき顔を出す。それがあまりにもちょっと情けない男の顔をしていて、見た目はとても「かっこいい」猿丸さんを裏切っていて面白い。わたしはときどきこの句集を読みながら笑ってしまった。 自問ばかりやマスクの下のつぶやきは 責められて嗤ふをとこや法師蝉 紐解かれ枯野の犬になりたくなし 冬至湯に頭まで浸かりぬくよくよするな われもまたともしびほしき冬蛾の類 猿丸さん、ごめんなさい。これってわたしが勝手に自画像ってつくりあげてしまったかもしれない。でもやっぱりそんな気がする。 さて、この本の装丁は、山口信博+堀江久美のお二人によるものである。山口信博さんは、俳誌「澤」のすべてをデザインされている方だ。デザイナーとしてのその仕事ぶりをわたしは秘かに尊敬もうしあげていた。その山口さんの手によるものがふらんす堂で刊行されるということが嬉しい。そして口絵に写真の作品をいただいたかわしまよう子さん。この口絵に用いた写真は、かわしまよう子さんの『草かざり』のものを三葉、口絵として使わせていただいた。実はわたしもかわしまよう子さんの著書『草手帖』という本を愛読しており、山口信博さんもかわしまよう子さんも猿丸さんのご希望によるものであったけれど、ふらんす堂刊行の書籍にこうしてお二人の力をいただけたのはなによりも嬉しいことだった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() 活字のおおきさ、レイアウト、用紙の用い方、すべて多くのことをな学ばせてもらった書物である。 担当の山岡有以子に好きな句はと聞いたところ、いくつか挙げてきて一句選んで欲しいという。そんなことできるわけないじゃない。だから、重複句をのぞいて全部あげてしまえ。 欄干掴めば指輪ひびきぬ夏の河 靴振ればいつまでも砂出でて夏 三本の指にもの食ふ大暑かな コクトー忌地下鉄の窓鏡なす 石鹸の泡立たぬ手よ初仕事 いちまいの白布として寒波来ぬ ボブ・ディラン掛けよ蛙の夜なれば クロッキー帳びつと破いて草餅置く 以下はコメントです。 「大抵の句は自分に置き換えて読むのですが、猿丸さんの句を読んでいると、猿丸さんの視線を借りてものを見ている気分になります。時間が本当にほんと~~~になくて大変でしたが、小澤實先生にも序・題箋の他にもご相談にものっていただき、またデザイナーの山口信博先生にも本 当にご尽力いただきました。写真家のかわしまよう子さんにも旅行中にも関わらずご連絡を頂くなど、みなさまのお力があって、猿丸さんの俳句を一つ の形にすることができて、2013年の最後を記念する作品になったなあと思います。出て良かった~!」 とのことでした。 そして、 並木製本の高橋さん、ありがとうございます。とわたしは心から申しあげたい。 榮猿丸さんにお会いしたとき、「猿丸さん、お父さんの句が多いですね。お母さんの句は一句もない」と申し上げたら、「ええっ、そう?」って驚かれたような顔をされたけれどきっとそのことは分かっておられると思った。お父さまの句はどれも面白く読んだがとくに印象的だったのがこの一句。 竹馬に乗りたる父や何処まで行く ほかの父の句にくらべて俄然不思議なのである。 竹馬に乗ったまま、お父さんどこまで行くのかしら……。 シュールな句である。 そうそう、大事なことを書いておかなくっちゃ。 本は年内に出来上がったのですが、代送業者さんや取次店さんなどの関係で、皆さまのお手元に届くのは年明けになってからです。 今日は仕事のあい間に、わたしは買い物をした。 人間用と猫用のトイレットペーパーを買った。 それだけである。 ほかに何を買うべきか、まだ見えてこないのだ。 スーパーマーケットが閉店にならないうちに行ってみるか……。
by fragie777
| 2013-12-30 20:38
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